術系統について その2

 さあ、霊術に次いで諸君に縁の薄そうな系統、その一番手が封術だ。

 封術とは……

 おい、そこ! なにをペラペラと喋っとるか!

 静かに聞けんのだったらその口を永遠に閉ざしてやろうか!


 ……といった使い方もできる、何気に恐ろしい系統だ。このようにたいていの封術師は他者の行動を封じる術を使うが、中には荒ぶる精霊や人の手に触れさせてはならぬ魔性のものを封印するための大掛かりな術を使う者もいる。前者であれば君たちでも可能だろうが、後者は大きく素質に起因する能力であるため無理に習得を試みる必要はない。

 ただ、聞いたことくらいはあるのではないか? 王侯貴族など裕福な者は専属の封術師を抱えていると。

 それは事実だ。金持ちは蒐集癖もちが多くその中にはいわくつきの品もある。また恨みを買いやすいため、のちに述べるが呪術の対象にされたりもするのでな、そういった場合の対処として専属の封術師を抱え込みたがるのだ。もちろん封術師といってもピンからキリで、上は宮廷封術師から下は単なる詐欺師まで幅広い。

 もし諸君の中に封術の素質をもつ者がいて、術で金儲けがしたいと考えているならば、迷わず専属術師の道を目指すことを勧める。そしてわが校に寄付してくれ。


 お次は界術。

 これもまたかなり特殊な系統でな、使い手はそれなりにいるもののこれひとつではほとんど機能しないという変わりものだ。なぜかというと、界術とは結界術、即ち定められた範囲の中でしか効力を発揮しないという性質をもち、別の系統の術と組み合わせない限りただの魔力の壁でしかないというわけだ。しかしそれゆえに様々な応用が利く。

 まずは封術との組み合わせ。界術は封術の付属品といわれるほどに封術師にとってはなくてはならぬ技術でな、先に述べたように邪悪なものを封じるさい、それのみを封じるのではなくあたり一帯に結界を張って他者の侵入を防ぐなどの使い方がされる。モノを封じたはいいがそれを容易に持ち運ばれてはたまらんからな。

 また、他者の行動を封じるさいにもただ対象に術をかけるのではなく、結界として一定の範囲内に魔力封印の術をかけてしまえば、その中では術師はただの案山子、脳筋どものマッスルパラダイスと化して原始的な殺し合いが始まるというわけだ。

 他にもトラップとして使用したり、要人の護衛に活用したり、暑くて寝苦しい夜を快適に過ごすため室内の温度調節に使ったりと、戦闘から日常生活まで幅広い活躍が望める便利系統である。


 ちなみにこの校舎にも結界がかけられているぞ。

 なあに、心配するな、禁術の使用などを制限するためのものだ。女子寮への夜這いまでは禁じておらんから安心せい。


 さあ、ここからは本格的に諸君には縁のない、縁などもってほしくもない系統が続く。だがあと少しで終わりだからもう少し我慢せい。

 死術に次ぐ外法その二。それが呪術だ。

 いちいち説明するまでもないと思うが、これは他者に呪いをかけるための術で、もはや呪術を使えるというだけでこの業界からは爪弾きにされる。とはいえ今でもそれなりの需要はあり、だいたいが権力者どもの陰湿な政治闘争に利用されている。

 そういった性質ゆえ呪術師は自らそう名乗ることはなく、しかし確かな活躍の場を与えられているのでひとたび契約を結べばそうそう食うに困ることはなかろうな。

 政治闘争に利用された暗殺者は口封じに抹殺されることがよくあるが、呪術師相手ではそうもゆかぬところがまた強みだ。なぜなら呪術の最大の特徴は、効果が絶大なぶんリスクもまた甚大であり、呪術師は裏切らせぬためそのリスクを依頼者自身に負担させることができるからだ。

 ようするに、もし裏切って呪術師を殺そうなどと考えたら依頼者自身にも強力な呪いが降りかかるというわけだ。むろん、だからといって呪術師が依頼者の弱みを一方的に握れるわけでもなく、互いに裏切れぬよう呪術師は自身に秘密厳守の呪いをかけることを強いられるのだ。

 この術がどれほど危険で制約の多い面倒な術であるか、よくわかるだろう? 知識として欲するのは構わんが、たとえ興味本位でもその藪をつつくような真似はするなよ。私の首に関わるからな。


 さて、ますます縁遠くなってゆく九番目の系統は、妖術だ。

 ここまでくるともはや使い手自体がほぼおらん。それはこの術が基本的には魔物などが操る種族由来の独自の術を指すため、人間である以上使えなくて当然だからだ。しかしけしからんことに魔物の力を借りて術を使う不埒者がいつの時代でもごく少数だが存在する。そういった者は死術師、呪術師以上に忌み嫌われ、完全に人の世から追放されることとなる。外法その三だな。

 当然ながらわが校の講師もみな人間であるため妖術を教えることなどできん。できるのは、妖術がいかなるものかという知識と、妖術使いに堕ちた哀れな人間の末路を教えてやることくらいだ。


 さあ、いよいよ十大系統最後のひとつだ。こればかりは本当に使い手が皆無の幻の系統、その名も秘術! 禁術と呼ばれる術もすべてここに分類されている。

 なぜ使い手が皆無か?

 気術の話でも出したが、術の中には術者の命を危険に晒すものやあまりにも強力過ぎて人の手には負えぬものが存在する。もしかするといずれはわれわれにも制御することが可能になるのやもしれんが、少なくとも今のところはそんな気配など微塵もなく、使えば間違いなく様々な意味で甚大な被害が予想されるため、そういった術は例外なく禁術とされ、使用を禁じられている。特別な資格のある者以外は調べることすらできんから、間違っても知ろうなどと思うなよ。術師規約にも書いてあったろう、禁を破った者は例外なく厳罰に処す、と。


 そしてもうひとつ。使おうと思っても使えない術もまた、秘術に分類されている。これは単に人間がそのレベルに達していないために使用不可能というものと、記録に残ってはいるが使い方が不明の術ということだ。

 たとえばそうだな、かのクガナは無限の魔力を有していたといわれるが、人の身でそんなことはありえない。つまりは無限にも等しい世界の魔力を受け取り、使用することでまた世界に還元するという循環機関を構築したものと思われるが、そのやり方はクガナの書が紛失してしまったせいで謎に包まれている。

 また、中興の祖となったセトは世界中に存在するあらゆる精霊と契約を結びクガナ同様世界の真実を知ったとされているが、これは書が残っているにも関わらずいまだに誰もそれを解明できていない、世界最難問のひとつに認定されている。

 これらより古い時代まで遡れば、反魂という死者を蘇らせる術まで存在し今でも暇人どもが解明しようと躍起になっておるようだが、そんなものは知らんに越したことはなかろうて。どうせロクなことになりゃあせんわ。


 ……さて、これでようやく十大系統の説明まで終了した。

 しかし諸君、帰り支度をするのはまだ早い。

 最後にもうひとつ、いやふたつ、大事な基礎項目について解説せねばならん。これが終わらんことには今日の講義は終わらんからな。

 チャイム?

 知ったことか。たとえ学園長だろうとクガナだろうと術の基礎を学ぼうとする若者らを導こうとする私の教育的情熱をとめることなどできはせんのだ! いや、クガナならば決してとめはすまい、むしろ自らも進んで諸君を教え導こうとすることだろう!

 それこそが教師、それこそが魔法の真理を得んと志す魔術師という生き物なのだ!


 よって、次の『錬魔』と『術式』に移る!

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