ガラス細工の仮面の残骸 Ⅱ


夜風の凍える冷たい向かい風に晒されながら、ひょんな経緯で知り合ったばかりの少女と、肩を並べて家路に着くことに成ろうとは思いもよらなかっただろう。


私のビロード製の丈の長いローブを纏って、震えながら夜道を歩く彼女を横目に不思議な気持ちになった。


ずっと、これからも他者と関わる事なんて絶対に有り得ないと確信していたから。


「ここよ。」


家路に着くと、ドアを解錠し彼女を招き入れ、玄関の電気のスイッチを付けた。


遠慮がちに足を踏み入れる彼女


「何か、隠れ家みたいに風合いのある家ね。

お姉さんらしいな。」


「その方が落ち着くからよ。

誰も招き入れた事も無いしね」


「じゃあ、私が初めての来客?」


「そうよ。」


「それは、嬉しいな!。」

始めて目にした時と違って幼い娘の好奇心溢れる鮮やかな表情を見せた。


「ねぇ、ここに居る内にお願いがあるの。

条件として守ってほしいのよ。

誰かが訪れて来ても誰も招き入れないという事。」


「分かったわ。」



「それより先に、バスに入って来なさい。

話は後から。

貴女の込み入った事情は聞かないし、言わなくていいから。


バスルームはこの廊下の突き当たりのドア。

バスタオルは、室内にあるわ。


着替えの服は、廊下の前に用意して置いておく。

安心して鍵を閉めてゆっくり入って来なさい。

それと、その着てる服は棄てる。

脱いだらこのビニール袋に入れて置きなさい。」


「分かった。

そうしたかった所。

お姉さんって、エスパー?」


そう言うと、彼女は真っ直ぐバスルームに向かった。

半ば、駆け込むように。


私は彼女がバスルームまで辿り着くの見守ると、二階の寝室へ向かった。


疲れがどっと押し寄せてくる。

彼女の緊迫感を常に脳裏で感じてしまったからだ。

あんなにあっけらかんとした表の態度は

彼女の触れて欲しくない頑なで脆い部分を悟られまいとする事からきていた。


私に感謝して救われたとホッとする反面、また連れ戻されたらという不安、その後の恐怖心があった。


そして、彼女が受けてきた事情は酷く重く辛く苦しく悲しいものだった。

これならここまで緊迫し怯える気持ちも分かるし、隠したい気持ちも察した。

彼女の苦しみがフィルターを通さないでそのまま見えてしまう分、

接し方を気を付けた方が良いだろう。

彼女にとって、自身の過失ではないものの封印したい記憶を他者に垣間見られるのは嫌なものだろうから私が知ってしまった事を感ずかれ無いよう言動を注意しなくてはならない。


クローゼットを開けて、バリエーションの少ないデザインと暗い色見の服の中から、一番ましな服を選んで、パジャマと一緒に取り出し、一階へ降りた。


バスルームのドアの前にパジャマとワンピースを置いて、リビングへ向かい暖炉を炊く。

月明かりと廊下から洩れる電気の光しか落ちて無かった暗い部屋が、暖光色の揺らめく光に包まれた。


「お姉さん、有り難う。」


驚いて振り返ると、彼女がいた。


「いいのよ。」


「このワンピース素敵ね。」


「そう?

それ、あげるわ。好きに着て。」


「お姉さんもう、着ないの?」


「着ない。

恐らくもう、二度とね。

でも、捨てられなかったから丁度、良かったわ。」


「思い入れがある服なの?」


「まぁね。」


このワンピースは、唯一私物から持ってきた用品だった。

亡くなった祖母からクリスマスにプレゼントされたもの。

この容貌になってしまった今となっては、着れない。

紫の上品なベロアの生地にレースと組み合わさせれてる綺麗なドレスだった。

首回りと胸元はレース生地が薄く透けて白い肌の美しい女性には、似合うだろう。


「きっと、似合うと思うわ。」

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