日陰の向日葵の回想 Ⅴ



家族で住んでいた大火災の跡の更地を売り払い火災保険やら両親のかけていた保険金等含め資金を集めて遠くに引っ越した。


不幸な事件によって身寄りを失った唯一の生存者が事件の凄まじさを思い出し、フラッシュバックに苛まれ再び心を痛めるのを嫌がり、遠くに引っ越す事などよくある話だ。


ありったけの資金で出来る限り遠くの土地の人里離れた家を借りた。

裏では、私は政府に追われているという表沙汰には出来ない事情を抱えていたが大火傷を負った事による心意的なものによる陰遁生活として表上は送る生活をした。

この不幸な容貌を目にしたら誰も疑いようが無かった。




次第に隠遁生活は静寂なる平和を定着させていった。

でも、暗く湿っぽい室内に籠りっきりでは、息が苦しくなる時もあったので

唯一夜間には夜風に当たりに近くの公園へ足を運んだ。


夜の公園は、冷たい空気が張りつめていた。

その天上で

朧気で不鮮明なベールに包まれた危うい光を放ちながら闇に形成する月輪は、

暗闇の中で歪に危うく生きている私の境遇と似ていた。


なので私は、この生態不明な月輪を見ていると、

何か潜在的に眠る深い心底と同調するかのように心が落ち着いたのだ。


誰にも邪魔されない絶対的な静寂の世界が唯一、外界での踏み込めるステージだった。



人通りがそもそも少ない町だったが政府にマークされている可能性も視野にいれなくては成らない身の上少しの目撃者や追跡者の目に触れてはならない。


深夜に0 時決まって借家から徒歩七分もかからない更地と大差無い民間公園へ足を運んだ。


又、日課の様に通うようになって

ある時、不審な男を目撃するようになった。


神妙な顔色でおぞましい程に美しく、無機質な造形をしている。

全身漆黒のスーツの出で立ちで気だるそうにベンチに腰掛けては携帯を開いて、

溜め息をついていた。

その後、決まって何分か満月を見上げては恍惚していた。


私とこの男だけが、暗闇に漠然と浮かび上がる歪でミステリアスな満月の美しさに、

ただただ、魅了されていた。


不可思議な時間の共有が、私とこの男の間に生まれたのだった。

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