満月の囁き II
母親の呪文が潜在意識にしっかり沈着したおかげで
僕の恐ろしい美しさには、それだけではない何かとてつもない魔力が宿ったようだった。
美しい造形の人間なら山ほどいるだろうが、
僕のそれは母親同様唯一無二の異様さを放っていた。
例えば、その瞼の動きにしても妖艶で意味深な余韻を残したり、
言葉ひとつにしても放つときの間も、闇雲に多くを語らずとも目力と静観さの中で的
を得た言葉は、剣の如く相手の心を強く貫いた。
又、理屈ではまるで説明がつかないような本能に訴えかける魔力。
俺は、この力を自覚するようになった頃には意識的に状況に応じて使うようにしていた。
ただ、無意識の内に関係のない人間にまで
効力を持ってしまい苦労したこともある。
面識ない人からのストーキングやら俺をストーキングしたり、俺が好意を抱いてると思込んだ者や色目を使って俺を誘惑しようと目論む者への陰湿な裁きが俺を、崇拝する者たちから下るので、俺と接触すると怖い罰が待っているとか、悪魔の血が通ってるとか近づいたら自分の命が危ないとまで噂が広まるほどだった。
在学中は他の生徒から嫌でも孤立するようになっていったし、それをどこか心地よいとまで思っていた。
遠巻きに崇拝する信者、遠巻きに噂して接触を躊躇う人々。
これらが、俺のフィールドを脅かし邪魔する事はないからだ。
学校を卒業して仕事を転々とした時期があった。どこもそう長くは続かなかった。
所属した狭い社内で、勝手な噂が広まり辞めるか辞めさせられるかのどちらかだった。
職場の異性を誘惑したとか、関係を持ったとか、他の社員がいつもと違って社風が乱れてしまうとか、そういう類いの覚えがないものばかり。
俺は定職に就くことも躊躇うようになり、
暗く湿っぽい酒場に入り浸るようになっていった。
ある日、何時ものように俺が酒場で酒を飲んでたら、向かいの席に見知らぬ初老の男が、腰を下ろしてきた。
「悪いが込み合ってるんで同席させてもらっていいかね。」
そう言う以前に椅子に腰かけてるいる男を黙視した。
「カウンターの席も空いている。
悪いが一人で飲みたい気分なんだ。」
そう答えても男は腰をあげる気配を見せなかった。
「たまには誰かと飲んでみるのもいいものだ。
きっと、楽しい夜になるさ。」
「たまには?
俺が何時もは一人で呑んでるとどうして分
かる?」
「分かるさ。
見てればな。
それよりもだ、面識もない不可解な初老の男に快く同席を承諾してくれた、心優しい好青年の無礼にあたらぬように名を名乗ろうじゃないか、
私はバートンだ。
とうぞ、今後とも宜しく。」
「俺は同席を快く承諾してもいなければ、好青年でもなく、今後ともあんたと接点を持つつもりもないよ。
初老で不可解極まりない、バートンさん。」
「いや、持つことにならざる終えなくなると思うよ。」
「凄い自信だ。
どういう意味か興味深いね。
ならば、同席するがよい。
拒んでもきっと、俺が席を立つまでらちが明かないだろうから。
俺は、今夜も飲みたい。
だが、邪魔になるようなら他へ行ってもらう。」
「邪魔はしないさ。
所で君は、魔女って信じるかね?」
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