αとΩ



深い溜め息は白く染まる。


夜の公園のベンチの背もたれにぐったりと体を預けて上を見上げる。


満月が恐ろしいほどくっきりと闇に浮き出ていた。


もしも、あんな奥深く歪で引き込まれるような美しい女がいたら何て良いだろう。

網膜まで焼き付けられるほど壮大に神美な姿を露にしていながら、けしてその全貌を掴めず触れることさえ許されない。


でも、目を背けても追うように視覚に脳内の片隅に現れては、

抗うことができない残像にさえ危うい程に翻弄される。


そんな、女がいるはずもない。

もし、奇跡的に居たとしても出会える確率は途方もなく少ない。


もし、今執拗に着信件数を数分置きで無数に残すこの女がそんな女であれば、ここまで邪険にする事もなかっただろうに。


今度は、携帯のメール着信音が鳴った。

着信光がチカチカと確認を促すのにうんざりしてメールBOXを開いた。


本文《何故、電話に出てくれない

の?

私は、貴方の何なの?

私は、こんなにも貴方が必要な

のに。

お願い、電話に出て。》


…………………。


「私は、私は、私は……、主体的な主張ばかり。

これだから女は嫌なんだ。


俺は誰のものでもなく、何ならあんたは俺にとって 何者でもない。


大体、あんたは俺の何一つ知りもしない。


それなのに、俺を一分一秒離れるのが耐えがたいほど必要だと思い込んでいる。

だが、俺の真実を教える気もない。知る必要もない。」


着信した携帯番号と受信したアドレスを拒否設定にした。

俺がこの女に接触したのはある理由からだった。


その思惑を理由に近付いたとも知らず、女は俺に熱をあげて簡単に口を滑らせてくれた。

始めこそ、その好意は好都合ではあったが情報を手にした後は、不快でしかなかった。

この女にはもう用がない。


ベンチに深く凭れていた上体を起き上げて路上に停車させていた自家用車へと向かう。


「わたしはアルファであり、

オメガである。最初であり、最

後である。

初めであり、終わりである」


そう、呟くと、

エンジンをかけて、次の目的地へと向かった。

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