第26話 柳公綽 (作成手順付き)
漢詩を作る手順ってどうやるんですか、と聞かれたっぽいので、実際に作っていきながらその過程をこうして記事として書いてみます。
完成品は下の方に掲載されているので、途中なんかどうでもいいという方はそのまま下にスクロールお願いします。
★1 まず最初に、お題を決める。何を題材にするか。何にしよっか?
誰か適当に、興味のある歴史上の人物あたりが良いかな。風景とかを詠んでもいいんだけど、大抵つまんないものしかできない。
柳公綽にしてみようか。
その人物について知らないならば、テキトーにググって調べる。
まず、柳公綽という人物はどんな人だったのか、おさらいです。
柳公綽は、中唐の役人。書家として有名な柳公権の兄であり、公綽当人も書家としてそれなりに名高い。
蔵書家として有名で、一つの書につき、三本ずつ所持していた。保存用と自分が読む用と子弟に読ませる用と。現代のオタクとまんま同じ、という面白エピが光る。
石田幹之助『長安の春』に書かれています。
★2 次に、詩の形を決める。
基本的に四択。五言絶句、七言絶句、五言律詩、七言律詩のどれか。
なんだけど、ここは七言絶句の一択。理由は一番作りやすいから。
これでやってみて無理なようだったら五言絶句にするとか後から変更することもある。
★3 絶句に決まったので、4句それぞれの全体的な構成、内容を決める。
起承転結、を決める感じで間違いない。
起。唐の柳公綽の紹介。柳公権の兄だとか、書家だとか。
承。同じ書物を三冊ずつ持っていた。
転。その内容。
結。総評的なもの。
★4 詩の平仄の形を決める。
○が平。●が仄。◎が平の韻字。
1句目。何でもいいんだけど、○○からスタートしてみる。4字目は●なので、3字目も無難に●にしておく。となると6字目は○に決定。7字目は七言なので韻字になるので◎。そうなると5文字目は●になる。この場合、3字目は●としたけど、○でも行ける。なので▲としておく。仮に仄としておくけど、都合が悪いようだったら平字にすることもできる。
2句目。2字目は●。4字目は○。6字目は●。7字目は韻字なので◎。そこまで決まると、5字目は●。3字目は○。1字目は●で決定。
3句目。2字目は●。4字目は○。6字目は●。7字目は●。ここまで決まると、5字目は○。ここまでは確定。
3字目はどっちでもいい。
3字目は○だと、1字目は●。
3字目が●だと、1字目はどちらでも良い。
なので仮に、3字目を▲、1字目を△としておく。
4句目。2字目○。4字目●。6字目○。7字目韻字◎。ここまで決まると、5字目は●。
3字目はどちらでもよい。
3字目が○だと、1字目はどっちでもよし。
3字目が●だと、1字目は○。
なので仮に、3字目を△、1字目を▲としておく。
できたもの。
○○▲●●○◎
●●○○●●◎
△●▲○○●●
▲○△●●○◎
結果的に4字が▲か△なので未定。つまり弾力的に使える。
それプラス。これ、3句目の最後の3文字が、○●●になっているので、挟平格を使おうと思えば使える。●○●に変更することも可能、ということ。選択肢が広がったと考えていい。
★5 使いたい漢字をざっと洗い出して、平仄を調べる
『長安の春』に書いてあることと、そもそもの出典である宋の銭易の『南部新書』の短い記述に出てくる漢字を洗い出す。
あと、維基百科、百度百科で人物の概略を調べる。
てかさ、この記事を書いた今の時点でそもそも日本語のウィキペに柳公綽の項目が無いってどうなのよ?
柳公綽大官兵部尚書権青巻黄帙経史子集珍襲参閲後進課読宅家蔵書万巻皆有三本一本尤華
麗者鎮庫次者長行披覽後生子弟為業皆有廚格部分不相参錯起之寛端粛渾厚古朴自然元西堂
こんなところでしょうか。
それを、ジェネレーターにかけて平仄を調べる。分からなかったものは、別のジェネレーターで探す。
柳公綽大官兵部尚書権青巻黄帙経史子集珍襲参閲後進課読宅家蔵書万巻皆有三本一本尤華
●○●●○○●△○○○●○●△●●●○●○●●●△●●○△○●●○●○●●●○○
麗者鎮庫次者長行披覽後生子弟為業皆有廚格部分不相参錯起之寛端粛渾厚古朴自然元西堂
●●●●●●△△△●●△●●○●○●○●●○●○○●●○○○●△●●●●○○○○
不確定部分は△なので、そちらは考えながらやります。
★6 一句目から作り始めて、韻字を決める
さっき決めた一句目の平仄は、コレ。
○○▲●●○◎
内容は、唐の柳公綽の紹介。柳公権の兄だとか、書家だとか。
最初の二字が○○なので、別称の元公にしようか。これが○○。
てか、今気づいたけど、これ、○○からスタートすると決めたから○○なのであって、3字目が○だったら1字目は●でも行けるんじゃないか。
……と思ったけど、面倒なので、これでこのまま行きます。
で、その3字目は○でも●でもどっちでもいい。
だとすると、3、4字目は●●か○●。これ、書を評した端粛渾厚、古朴自然というのが使えそうじゃないか。5、6も。
この中から端粛と自然を拾ってみる。で、最後に書を付ける。
元公端粛自然書 (げんこう、たんしゅく、しぜんのしょ)
○○○●●○◎
正直、最後に書と付けるのが文法的に合っているのか疑問。合っていないかも。んでも無視。令和自由詩のフィーリングです。
で、韻字が書ということになりました。これは、上平声六魚の字になります。
★7 上平声六魚の字をジェネレーターで調べて、韻字の目処をつける。
ジェネレーターで調べた結果。
魚書居虚躇墟漁車諸如徐除疎初余与予誉据裾鋤嘘於猪儲且舒渠輿胥疏梳閭驢淤廬
この中にある書以外の字のどれかを、2句目と4句目の末尾で使うことになる。
2句目の最後の3字は●●◎。
ここで、詩語辞典を使って、上平声六魚の三字熟語をぱらぱら眺める。
すると、万里余、というのが●●◎らしい。
これをアレンジして、万巻余にすれば行ける。●●◎になる。
4句めの末尾は●○◎。これも詩語辞典で調べると、楽何如というのがある。これは使えそう。
ここまでできれば、あとはなんとかなりそう。
★8 2句目を作ってみる
××××万巻余
●●○○●●◎
ここまで決まっているので、●●の二文字と○○の二文字を考えればいい。
○○の部分は西堂でいいんじゃないかな。書物を保管していたのは西堂らしい。
●●が難しいな。鎮庫にしてもいいけど、これは次のために温存したい。経史子集は四部分類なので、四部にしたらどうだろう。平仄を調べたら●●になるようなので、これでいいでしょう。
四部西堂万巻余 (しぶのせいどう、ばんかんよ)
●●○○●●◎
★9 3句目を作ってみる
平仄はコレ。不確定要素多し。
△●▲○○●●
最初の△●は、三本にしようか。○●になる。
で、保存と読むと布教だけど、保存に関しては2句目の時に西堂とか万巻とか出している時点で説明していると思う。なのでここでは省略し、読むと布教だけを盛り込むことを考える。
5、6字目、披覽が△●。披は○でも●でもいいようなので、ここでは○とする、か?。
それ以前に3、4字目の▲○が思い浮かばない。
ジェネレーターにかけた字の中から探すのが限界っぽいので、詩語辞典で探してみることにする。
更教が、さらに何々させる、という使役の意味で●○らしい。沈佺期の『古意呈補闕喬知之』の更教名月流黄、から。
最後を学●にして、学ばしむ、にするか。
なので、子弟に該当する○●の語を探す。
年少でいいんじゃないか。○●だ。李白の有名な詩の『少年行』に出てくる語の五陵年少からです。。
三本更教年少学 (さんほん、さらにねんしょうをして、まなばしむ)
○●●○○●●
★10 4句目を作ってみる
平仄はこう。これも不確定要素多し。
××××楽何如
▲○△●●○◎
楽何如って、朱子学の朱子の、『四時読書楽』が出典で、読書之楽楽何如から来ている。なんか、このままでも平仄的には使えそう。だけど書という字は既に使っているので、他の字を考えなければならない。
宅中●○はどうだろうか。高適の『邯鄲少年行』に宅中歌笑日紛紛とあるところから。意味は勿論屋敷の中。現代でいうところのオタクだ、という趣旨なので、宅、という字を使いたい。
現代でいうところのオタクとして、屋敷の中に万巻余の書物を集めて自分が読むのは当然として子弟にも読ませる。まあ当然書物を読むときは宅内に引き籠もっていただろう。こんな屋敷に住んで楽しむ。楽しみはいかばかりであろうか。……という意味を4句目に凝縮した感じ。
宅中之楽楽何如 (たくちゅうのたのしみ、たのしみいかん)
●○○●●○◎
これでできたんじゃないだろうか?
タイトルはもちろん、柳公綽、です。
★11 推敲する
元公端粛自然書
四部西堂万巻余
三本更教年少学
宅中之楽楽何如
これを、もう一度ジェネレーターにかけて、平仄が合っているか確認する。
かけた結果、たぶん大丈夫。韻も合っていますよね。
ということで、これで完成です。
以下に完成品と読みと意味と平仄を載せます。平仄は、結果から逆算して、変更可能なものは▲か△にしてみる。
自己評価としては、普通。というか、例によってそんなに良くはないですね。
1句目がどうしても浮いている。2句目と3句目の間で内容的な転換が無く、それどころか逆に意味的に一番繋がっている場所だし。
4句目は割と快心の出来だと思います。でもよく考えたらほとんど朱子のパクリだった。
まあ、柳公綽という面白エピ持ちの人を紹介できただけで充分じゃないでしょうか。
そんなこんなで、以前から何度も言っていますが、ルールさえ覚えてしまえば、漢詩は作るだけなら誰でも作ることができます。でも、良い漢詩を作ろうと思ったら、そりゃセンスが無ければ1000年かかっても無理。それは俳句や短歌でも同じことだと思います。
漢詩は、作るのに時間もかかるしルールを覚える労力も必要だけど、その割には読んでくれる人もほとんどいないし評価してくれる人もほとんどいません。なので非常にコスパが悪く、くれぐれも自分で作ることはオススメしません。それだったら異世界転生チーレム小説を書く方がマシです。
★12 完成品
柳公綽
元公端粛自然書
四部西堂万巻余
三本更教年少学
宅中之楽楽何如
・読み
元公 (げんこう)、端粛 (たんしゅく)、自然 (しぜん)の書 (しょ)
四部 (しぶ)の西堂 (せいどう)、万巻余 (ばんかんよ)
三本 (さんほん)、更 (さら)に年少 (ねんしょう)をして学 (まな)ば教 (し)むる
宅中 (たくちゅう)之楽 (のたの)しみ、楽 (たの)しみ何如 (いかん)
・全体の意味。
元公 (柳公綽の別称)は、端粛渾厚、古朴自然な書で知られる書家である。
経史子集の四部の書物を西堂に集めて保管していて、その数は万巻余りにも及ぶ。
同じ書物を三本ずつ持っていて、自分が読むだけでなく更に、若い子弟に読ませて勉強させた。
こんなお宅の中に引き籠もって書物を読むことを楽しむ。その現代オタク的な楽しさはいかばかりであろうか。
・平仄
△○△●●○◎
●●○○●●◎
△●▲○○●●
▲○△●●○◎
上平声六魚。韻字は、書、余、如。
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