ドーナツの穴を食べる方法

三〇七八四四

ドーナツの穴を食べる方法

「はあ……」

「どうした。ため息なんかついて」

「いや、僕の存在について考えていて」

「お前の存在について?」

「ほら、僕って存在してるかどうかわからないでしょ?」

「なんだ? 難しい話でも始めるつもりか? 俺にはさっぱりわからないぞ」

「うーん、そうじゃなくて、なんて言えばいいのかなあ。あ、ゼロってあるでしょ? そんな感じ」

「? どこでそんなこと覚えたんだ」

「知らないの? 君は本当に周りのことを気にしてないんだね。ほら、そこの白い人がいつも散々ゼロの数が足りない……って言ってるよ」

「本当か? それでゼロってのはどんな意味なんだ?」

「はあ……ほら、聞いている限り、ゼロってのは無いことを示すらしい。ゼロは、存在しないことを示す存在だから、ゼロは存在してる。ほら、僕となんだか似てるでしょ?」

「ああ、なんとなくわかった。存在しないことを示すから、存在する? みたいなことか」

「そうそう、そういう感じ? なのかな。はあ……」

「それでどうして落ち込むんだ。お前はちゃんと存在してるんじゃないのか?」

「そうなんだけど……なんか複雑じゃない? そんな風に考えると。君はいいよね。ちゃんと僕が居なくても存在が確認できるんだから」

「そんなことはない。お前が居なければ俺も存在しなかった」


「なんたって、俺たちでなんだからな」


「ほんとに?」

「ああ、ほんとさ。お前が居なかったら俺は存在していない。お前のことを掛け替えのない存在だと思っているよ」

「本当かなあ? ついさっきまで他のドーナツの穴別の子を見ていたよね」

「なんでそれを……いや、その、それは違うんだ。ほら、穴があったら見つめちゃうだろ。ただそれだけだ。やましいことなんてない。俺にはお前だけなんだよ。本当だ、信じてくれ」

「急に口数が増えるの怪しいなあ。まあ、しょうがない。そういうことにしてあげよう」

「そうとも、俺たちは始まるときも終わるときもずっと一緒さ」

「またそう都合のいい言葉ばかり並べちゃって」

「厳しいなあ。でも、これは俺の本心だ」

「あんドーナツのあんはやっぱり?」

「こしあんに決まってるだろう」

「ほら、やっぱり。僕のことなんてどうでもいいんだ……」

「いや、待ってくれ。ずるいぞ。それは誘導尋問だ」



「そろそろ機嫌を直してくれよ。さっきから謝ってんだからさ」

「謝ったら許すと思ったら大間違いだよ」

「本当に悪かったと思ってる」

「こしあんの方がいいのに?」

「だから、それは、そこら辺の人が口々に言っているもんだからそう思ったってだけで、別にあんドーナツに魅力を感じているとかでは決してないんだからな。俺にはお前だけなんだ」

「また口数が増えてるし……あと、お前だけだ、お前だけだーってさっきから言ってるし言葉に信憑性がないよ」

「どうしたら信じてくれるんだ?」

「知らない。自分で考えなよ」

「そう冷たくしないでさ」

「冷たくされたくないならなんか考えてよ」

「そうだな……あ、くっくっく……」

「どうしたの? 何か思いついたの?」

「ああ、これならお前も満足するだろ」

「何? 僕の満足することって」


「お前の心の穴を埋めてやるよ……」

「……ふふふ、馬鹿じゃないの、ふふ、冗談でしょ」

「いや、俺は本気だぞ」

「嘘、ほんと? あっ、だめ、ほんとにやるの?」

「当たり前だ」

「ばか、あっ、だからそこはだめだって……周りの人もいるのに……」

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