第5話

日曜日の朝は、気持ちよく晴れていて、春の訪れを感じさせた。

 サクヤとニナは食卓でパンと野菜スープの朝食をとっていた。ピーターは既に食べ終わり、新聞を広げている。

 サクヤがニナの方を見た。

「ねえ」

「うん? 」

サクヤは少しためらった。

「・・・結婚て、どう思う」

「何、いきなり。いい人でもできたの? 」

 ニナが目を丸くした。ピーターも新聞から顔を上げる。

「いや。まだ見つかってないんだけど。もう今年で二十四だし、独立した方がいいんじゃないかと思って」

 ニナは微笑んだ。

「まあ・・・。独立してほしいのはやまやまだけど。でも焦る事はないんじゃないの」

 ピーターも笑顔で頷く。

「真面目に考えてるだけ良かったよ」

 サクヤは二人をじっと見た。

 親としては正論だな。

 では。

「監視員としては、どう」

 監視員という言葉を聞いて、二人の表情が変わった。

「どう思う」

 サクヤはピーターの方を見た。

 彼は目を閉じて下を向き、ゆっくりと顔を上げながら瞳を開いた。

 彼の癖だ。

 サクヤはじっと見つめる。

 この瞬間が好きだ。

 親から監視員へと変わる、この瞬間が。

 普通の人間が、何かとてつもない物に変身するようで。

 顔を上げたピーターは、先程とは打って変わった厳格な態度で、淡々と話し出した。

「監視員としては、できるならここにいてほしい。君を監視し辛くなる。それに君も、新しい家族から隠れて39を読み続けることは難しいと思う。・・・ただ、基本的に何を選ぶのも君の自由だ」

「39を読む事以外はね」

 横から真面目な顔をしたニナが口を挟んだ。

「本来なら、サクヤ、あなたは働かなくてもいいのよ。稼がなくても三人充分暮らしていけるだけの補助は出ているわ。そうすればのんびり39も読めるんだし」

「・・・うん。分かってる。でも、仕事は面白いから。さすがに一生遊び暮らすのは気が引けるし。まあ、独立の事は、相手が見つかった時に考えるよ」

 ピーターとニナは、わかった、と頷いた。

 それからサクヤは何事もなかったかのように朝食の残りを食べ始め、ピーターは新聞を広げた。ニナは二人に世間話を始め、三人は声をたてて笑った。

 〝家族〟は再開された。


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