第2話
翌日の土曜日、サクヤは朝一番に図書館へ行き、カウンターで〝39〟を頼んだ。
昨日と同じ男性スタッフが本を渡すと、サクヤは当然のようにカウンターの中に入り、奥にある書庫室へ歩いて行く。笑顔のスタッフがその後に続いた。他のスタッフ達もサクヤを見ても笑顔で挨拶するだけで、注意をするものは誰もいなかった。
二人が書庫室に入ると、男性スタッフは一瞬険しい表情で広い部屋を見回した。
彼は誰もいない事を確かめると、部屋の奥にある〝関係者以外立ち入り禁止〟のドアを鍵で開けた。
部屋は物置になっていて、黴臭く、普段全く使われていないようだった。
天井の蛍光灯がちかちかと切れかけている薄暗い空間に、古いスチール棚や掃除機、モップ、壊れたパソコン等が置いてあった。暖房が効いていない為空気がかなりひんやりとしている。さらに奥に進むと、その色あせたもの達に囲まれて、灰色のコンクリートの壁と同化したような、陰気な鉄製のドアが現れた。
スタッフが鍵を開け、中を一瞥すると、振り返ってサクヤを見た。サクヤは頷き、本を抱えたまま部屋の中へ入って行く。彼の後ろで扉が重々しい音をたてて閉まり、かちりと鍵のかかる音がした。
サクヤは一人、部屋の中に取り残された。
ぐるりと明るい部屋を見渡す。
サクヤは、この部屋を見るといつも、何故か全面真っ白なルービックキューブを思い出す。
窓一つない四角い部屋は、いつでも蛍光灯が皓々と照り、ペンキを塗った直後のような、壁と床の完璧すぎる白さを映し出している。
床はいつもピカピカに磨かれていて、塵一つ落ちていない。
部屋の中央には古い木製の、大きな長方形のテーブルと椅子が一脚ずつ置いてある。
テーブルの上には電話、電気ポット、ティーバックとコップ、部屋の隅にはトイレの小部屋があり、二十畳ほどの広い部屋にあるのはそれだけだった。
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