第4話

穴の奥から聞こえてくる。


その音は最初小さく、その上穴に反響していたので、それが何の音であるかはよくわからなかった。


が、やがて気付いた。


足音だ。


それも動物などではなく、人間足音のように思えた。


――誰か……いるのか?


その音は、確実に俺に近づいてきていた。


そして足音が入口近くまで来たとき、音の主がその姿を現した。


死に装束にも見える白い浴衣のようなものを着た女。


その浴衣のようなものは胸のところが大きくはだけていて、白く豊な肉の塊が二つ見える。


どう見ても若い女なのだが、その身体の上にある首はまるで違っていた、


その首は老婆のものだった。


身体に反してどす黒く、醜いほどにしわだらけの顔。


その顔が血走った両目で俺を見ていた。


「うわっ!」


声に出して叫ぶと、俺は走り出していた。



走って、走って、走った。


あの化け物が追いかけているような気がしてならなかったが、後ろを見る余裕など微塵もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る