bon voyage!~異なる世界の海で~

龍ヶ崎さん

第0話 プロローグ 新たな航路の始まり

 星と月明かりだけが周囲を照らし静寂が支配していた海面に、一隻の船が水音と共に海底から浮かび上がる。

 ガレオン船の様な外見だが甲板には近代戦艦の様な砲門があり、黒い帆で船体に油の様な虹色が随所に浮かぶ全体が灰色の船。


 海面に浮上したその船は、辺りが静寂を取り戻すと共に静かに動き出す、メインマストの一番上に掲げる小さな所属旗、ノコギリと竪琴の旗だけを揺らしながら風もない海面を滑るように・・・。






 300年ほど昔の話になる。


 時の王国の皇太子が伝説とまで謳われる船大工を騙し、船を造らせて惨殺してしまう。王国の皇太子は世界に覇を唱え、王国は周辺国家に宣戦布告をする。


 その船大工と交流のあった帝国の女王はこれに激怒、即座に王国と戦争状態に突入した。事態は急速に動き、名のある傭兵や海賊、船大工ギルドも帝国側についた為に戦争は一方的な展開になると思われていた。


 しかし、皇太子が騙して作らせた船は堅牢であり、また通常の軍船よりも大きく、前線において無敵の盾に近い存在であった。

 帝国は数や質で有利であったにもかかわらず、海戦の度の戦略では勝てても戦術で負けてしまうを繰り返す羽目になった。

 戦争全体を考えると、これを繰り返されれば何れ敗北してしまう。前線にいる者達は頭を悩ませていた。



 そんな時、一隻の船が参戦する。


 その船は、全ての砲撃・魔法等の攻撃が効かなかった。


 その船は、物凄い速度で海面を滑るように進み、衝突した船を切り裂いた。


 その船は、砲撃の一撃で幾多の戦闘船を撃沈した。


 その船は、白兵戦にて数多の旗船を拿捕した。


 その船は、殺された船大工の紋章を掲げ参戦した。



 形勢は瞬く間に帝国に傾き、王国の皇太子はその船によって討ち取られ、堅牢だった船は粉々に砕け海に散った。雌雄は決した、誰もがそう考えた時に事件が起こる。


 王国、帝国の両国に数多く参戦し、戦況を支えてきた一騎当千の冒険者達が次々と船ごと消失していった。そして、戦況を決めたその船も役割を果たしたかの如く停止し、静かに海に沈んでいった。


 この事件により戦争は停戦がなされ、両国共に事後処理に追われることになる。

 それは長きに渡り続く帝国と王国の戦いの始まりでもあった。





 失われた技術を持っていたとされる伝説の船大工ベガ・アルファ。

 その継承者が作りあげ、自ら率いた最強の船。

 アルファの旗を掲げ、戦場を蹂躙し海底に沈んだ船。


 その船の名は、アゥス・トラリス号。

 ある世界に刻まれた伝説の船である。

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