第32話 『ハーレムリポート フロム ゴシップガール』

 終わった。

 終わったんだな。

 終わったのかな?

 終わったのか、本当に?

 終わってるわ、ちゃんと。


 ――謎の五段活用で始めてしまいました。数時間前にこのやったらながいお話を書き終えたピクルズジンジャーでございます。こんにちは。


 思えば一年と半年以上つきあってきた期間的にも文字数的にも長い物語だったので、終わった実感が未だ湧きづらいのですが、それでもじわじわと「ああもうこいつらのドタバタ話をまとめる労苦を負わなくていいんだ」という解放感と「このお話に出てきたみんなとはこれで一旦お別れか」的な一抹の寂しさに交互におそわれております。


 さてまあ恒例のあとがきでございますが、登場人物も小ネタも多い物語故、こちらの文字数もとんでもないものになる予感がいまからしております。

 ほどほどになるように気をつけつつ、こちらに書きつけて参ります。ではでは。



【この長い物語はどこから来たのか】

 2018年の春ごろ、二か月ほどほぼ日刊で書いていた長編小説を書き終えた直後でぼんやりしておりました。

 しかしなにかしら新作小説は書きたい。短編から中編のボリュームで、スーパーナチュラルなことがおきるがファンタジーでもSFでもない好きでよく読む翻訳ものの小説みたいなのが書いてみたい……。


 そんな構想を練っていた時に、思いついたのは以下のようなストーリー案です。


 「ナゾ怪物の襲来によって地球の平和が脅かされるようになった近未来。通常兵器が効かないナゾ怪物に対抗できるのは特殊な能力を持つ少女たちだけ。その少女たちが集う育成機関へ(男性なのにその特殊な素質があっただとか一筋縄でいかない彼女たちを教育・指揮することになったかだとかなんとか)男性の身でありながら主人公はたった一人赴くことになるのだった――」というところから始まる、ラノベ・コミック・ソシャゲ、およびそれらを原作とした深夜アニメなどでよく見かけるハーレムもののラブコメが、実はその育成機関にいるモブ少女たちのだれかであろう正体不明の匿名女子が外部読者に向けて面白おかしく報告していたゴシップ記事だったとしたら? 本家『ゴシップガール』がアメリカセレブ子女の集う学園のスター的生徒たちが繰り広げる恋愛事情を報告していたブログと、その記事内容に影響をうけたり与えたりする登場人物たちの行動でできたYA小説だったみたいに。 

 愉快犯的なゴシップガールがライトノベル的ラブコメのノリで面白がって報告するハーレム模様に、主人公にあたる男子もハーレムのメンバーだとされた女子たちも学園関係者も怒り心頭。学園の規律を守る風紀委員も、特ダネを欲しがるパパラッチも誰もかれもゴシップガールの尻尾をつかもうとするけれど、身軽な愉快犯である彼女は決してつかまらないのだった――。


 これはちょっと面白いかも! と自分の中で盛り上がりました。


 ゴシップガールの正体は決して明かさず彼女のやらかしによってイライラキーキーやきもきする周囲の声と反応を書くだけのストーリーにすると翻訳モノっぽく仕上げることができだが、どうせならゴシップガールは神出鬼没な学園怪盗的っぽい女子二人にして学園を引っ掻き回すような内容にしても面白いかな……。ポプなんとかさんたちみたいな傍若無人でやりたい放題な子たちで、大儀などは特になく「面白いから」だけで暴れまわるような子たちだとなおのことよい。


 そう考えた結果、ストーリーをそっち寄りに修正しました(そして、ん? こうすると短編じゃ絶対おさまらないぞとうすうす気づく)。


 そしてPCに向かい、第一話を書き始めました。

 当初、愉快犯で神出鬼没で学園怪盗的でなんの思想も大儀ももたない傍若無人な二人組にしようとして構想していた二人の女子の片方であるワニブチジュリを書いてみたすぐに気が付きました。


「やばい、この子はどうしてもポプなんとかさんっぽくならない子だ! 絶対真面目でしっかりしていて倫理観のあるいい子だ!」


 相方のサメジマサランを毒舌に吐かせてみても、ああもうこいつらは絶対神出鬼没で傍若無人な二人連れにはなれないと即座に諦め軌道修正をはかることにしました。

 この二人はゴシップガールではない。しかし何らかの形でかかわっており、ゴシップガールの尻尾をつかみたがる派閥を煙にまいて立ちまわる的なストーリーにしよう。ゴシップガールの正体は明かさず概念的なもののままで留めておくのもありだろう(この頃、中編に収めるにしてもボリューミーになるなこれ……とちょっと焦りを感じだす)。


 しかし、そうするとストーリーがなんだかボヤけてしまいます。

 このままいくとなんだかぼんやりしただけの話に終わっちゃうなあ、面倒だけどゴシップガールの正体だけははっきりさせておいた方が誠実かもなあ……と考え、自分の中で長年抱えていたとあるテーマと引っ張り出しつつシモクツチカという傍若無人で無敵で不良なお嬢様を登場させました。


 そしてどうして彼女な学園の外にでてゴシップガールなんてやっているのか、そこからストーリーなどを連載を書きつつ構想を練り直しながら連載を進めました(そして、中編どころか絶対長編になる! 下手すりゃ先の長編より長くなる! ヤベエ! と直感して青ざめる)。


 なぜ彼女は学園の外に出たのか、どうしてワニブチジュリは彼女に協力しているのか、フカガワミコトは何者なのか、規格外れのお嬢様なシモクツチカの真の目的は? それに気づいたモブ中のモブ、サメジマサランはどう動くのか――?


 そこからストーリーを練りなおしていると、ピタゴラスイッチ的な装置の上をコロコロ転がるビー玉のイメージが浮かんでくるわけです。

 ピタゴラスイッチとは逆にこの装置は絶対に起動してはいけないヤツなのです、この上でビー玉を転がすとパタパタと仕掛けが展開してゆき「手が付けられない」「今の自分では絶対に収拾つけられない」「つうか物理的時間的に絶対面倒、やってられない」「体力もたない」となるストーリーが広がってゆくはめになります。さながらドミノのように。

 まずい、あのビー玉を止めないと「作者の頭の中ではすごく壮大で精緻なんだろうが読者にとっては『なんか妄想癖のある十代女子のスピリチュアルな前世トークに延々付き合わされてるみたいだ』でしかいないキッツイ物語(最適なBGMはスキマスイッチの「君の話」)」を語るハメになる! 止めねば、あのビー玉の動きを止めねば……ッ!


 と、手を伸ばした時にはもう遅く、ビー玉は重力に素直に従って「大風呂敷」と呼ばれる各種仕掛けを展開してしまい、かくして作者は今の自分では荷が勝ちすぎる文字数だけは長大なストーリーを泣く泣く語る流れになっていたのでした。ピクルズジンジャーの明日はどっちだ。


 そんな経緯でこの長すぎる小説は書き続けられることとなりました。

 書き出したからには何があっても拙くても綻びだらけでも完結に運びたかったからです。――私自身が「なんでこいつはゴシップガールなんてやってて、この可哀そうな男の子は何の因果でこんな学園に放り込まれることになったんだ?」と気になってきましたので。ならば書かざるをえまい、泣。

 

 それはそうと、初期案どおりの『ハーレムリポート』も書いてみたいものです。



【サメの話しようぜ?】

 もはやうろ覚えになってしまいますが、短編から中編で収めるつもりだったこの小説のキャッチコピーは『「サメの話しようぜ?」にピンと来た方へ』というものでした。

 連載初期からこの小説にお付き合いくださっている方の中には覚えてくださっている方もいらっしゃるかもしれませんが、このキャッチコピーは何度か変遷して今の形になります。


 さて「サメの話しようぜ?」とは一体なんでしょう?

 ある年代より上の世代の方、もしくは漫画に詳しい方などはご存知でしょう。元々は古谷実『行け! 稲中卓球部』に出てくる有名なセリフです。


 漫画、それもギャグマンガのセリフを解説するというのは愚の骨頂ではありますが、このセリフはこの小説をまとめる重要なモチーフだったのでこの漫画のことを知らない方の為に簡単に一応解説しておきます(手元に単行本がないのでうろ覚えです)。


 ――主人公たちが集う卓球部を抱える稲豊中学・略して稲中に、ある日朗報が舞い込みます。

 市の偉い人が突然、市内の中学から卓球の上手い中学生たちで選抜チームを作り、よその自治体の選手と交流試合を行おうと発案しました。そのメンバーに部長の竹田と常識人でイケメンの木下が選ばれました。しかしその中になぜか、この漫画の実質主人公であり学校きってのバカでトラブルメーカーの前野も選ばれていたのです。

 補欠になることが多い前野がなぜ選抜メンバーに選ばれたのか? それは以前出場した大会で卓球名人と入れ替わって出場した際の強豪校のエース選手に勝利した成績が考慮されてしまった為に起きた悲劇でした。

 当然、竹田たち常識をわきまえたメンバーは「実力不足のお前が選抜メンバーに混ざって何ができるんだ?」「俺たちが現代人としたらお前はウホウホ言ってるレベル」として辞退するよう説得します。しかし、前野が選抜メンバーに選ばれては何か不都合があるのか? 恥ずかしいのか? とゴネたり、いつも一緒につるんでいるバカ・変態チームの井沢と田中から笑われ煽られたきつけられる形で選抜メンバーに参加する道を選んでしまいます。

 さて、市長の下での選抜メンバーの初顔合わせの場――。大会では火花を散らしあう卓球の実力者たちが一同に介します。学校対抗の場ではライバルたちであっても同じチームとなれば、君のテクニックはすごい、いや俺こそお前のスタイルには憧れる、それにしてもこういう形で話するのは何か照れるな……等、中学生とはいえ日の当たる場所に居続けたトップクラスのアスリート同士リスペクトを交えた卓球トークに花を咲かせだします。

 当然、本当は卓球の実力なんてあるわけがなく、バカで変態で性格もひねくれている上に見た目もパッとしないため異性からはモテない前野はそんな爽やかな場に参加できません。卓球トークになど加われません。

 その果てに言い放ったセリフがこれなのです――「サメの話しようぜ?」。


 ――この件を読んだときはとにかく笑いました。

 笑った後に前野の立場に凄まじいシンパシーを抱き、「ああこんな最低なキャラクターにシンパシーを抱いてしまうなんて……」と面白い以外にも猛烈な悲哀を呼び覚ましたのでした。

 華やかで明るく爽やかな人たちの会話に混ざれない、地味で暗くて陰湿で明るい集団にはなじめない前野。そんなキャラクターにみてしまう自分自身――。笑うだけでは終わらず心にずんとしたものを残していったのです。お陰でいまでもこの件は稲中で一番お気に入りのネタとして燦然と輝いております(その次に好きなのが「ますだくんのケーキ」回。傑作)。


 校内で唯一の男子生徒に群がる美少女、恋愛小説にかぶれていい恋をすることが大人になることだと信じて疑わないムカつく同級生、誰もかれもが恋愛(特に異性愛)に頭が沸きかえる思春期まっさかりの十四歳の時期に全く恋愛をめぐる話にピンとこないアセクシャル気味な女子の身の置き所のなさが本作で語りたいことでもありました。

 人間ならば異性に胸をときめかせてあた当たり前。異性に胸をときめかない人であっても同性に胸をときめかす。とにもかくにも人類は皆恋愛をする。

 人類の多くが疑わない規範を素直に飲み込めず、恋や愛をめぐる話を楽しむ人々の輪に入ることにどうしても疑問を覚えずにはいられないアウトサイダーな主人公・サメジマサランの立場を象徴する言葉としてどうしても採用したかったのが「サメの話しようぜ?」でした。


 ――まあ、当初狙っていた内容とズレが生じてきてしまったわけですが、それでも名残として登場人物の名前にはどこかしらサメの要素が入っている次第です。サメの話をする小説でしたので。



【舞台設定と二千年紀ミレニアムブーム】

 本作の主な舞台は、環太平洋圏から戦闘少女の素質を持つ少女たちが集められた亜熱帯の島にある学校である、ということになっております。


 地球規模の災害に対応する少女たちが集う学校なんだから、ワールドワイドというかコスモポリタンというかダイバーシティというかまあそのような様子でなければおかしいだろうという発想により様々な人種民族の女子が集う学校に設定しました。

 環太平洋圏というエリアに限定しているのは、舞台を太平洋の島にしたがためです。他作品でみてもこういう区切り方をしているものは見かけないのでありっちゃありなんではないかと……。知らんけど。

 ちなみに南北アメリカの東よりとヨーロッパ圏アフリカの西側の候補生たちは大西洋校に、旧共産圏および中東やインド近辺の候補生はユーラシア校に通常籍をおくことになっています。校風は作中でも触れられている通り、ざっくり言う、「スマートでエリートな大西洋校、学業優秀・研究分野でも最先端をいくユーラシア校、フリーダム過ぎてよくも悪くもアホの多い太平洋校」というカラーがすでに出来上がっています。


 作中では翻訳機の仕様ということになっておりますが、たいていのキャラクターの喋り方がいかにもフィクションチックなのは、あまり民族や人種のステレオタイプを投影させたくない(例:ブロンドのアメリカン娘に「ハーイ、ミーはU.S.A.からきまシータ!」みたいなことを言わせるのを避けたい)という意図によります。

 やっぱりさぁ……これからの時代にいつまでもブロンド娘に「ヘイ、なんとかデース!」と言わせてみたり、チャイナ娘に「なんとかアルよ」と言わせるのってそれどうなの? というエキゾチシズムに対する問題意識があったが故の判断なわけですが、そのくせ和服着用のエキゾチシズム全開お嬢様を出しているわけですから全く徹底できておりませんね。とほほのほ。


 

 二千年紀ミレニアムブームという形で作中に登場する90年代日本の女子文化リバイバルブームに関しては、「平成および令和の女子が、大正や昭和初期の文化をめでるように二十一世紀末の乙女らもこの当時の文化を面白がっているかもしれない」という単純な思い付きによります。

 大和民族以外のルーツを持つ女子たちも在りし日の日本文化を面白がっているのはポリティカルコネクト的にどうなんだろうという不安もありましたが、フィクションをきっかけに中華王朝やヴィクトリア朝やロココ調などに興味を抱く本邦女子はぞろぞろいるし、また執筆時に大正時代をイメージした洋服を展開した中国のアパレルブランドの話題を見聞きしたこともあって、「アリ!」という判定をくだしました。


 おかげで今の流行について行かなくてもよかったので、おばちゃん助かっちゃいましたね……。



【登場人物について】

 以下、恒例の登場人物いについて一言、二言。

 本邦各キャラクターの名前の由来になった鮫要素などについても、お応えしようと思います。


●メインキャラクター

・サメジマサラン(鮫島砂蘭) 太平洋校初等部三年 文芸部副部長→演劇部(食客)→文芸部副部長復帰

 児童文学好き、アセクシャル気味だが性欲は旺盛という、本作主人公です。当初はのんびりと毒を吐くというようなキャラクターをイメージしていましたが、動かしているうちにこのような偏差値の高いアグレッシブバカになっていました。アグレッシブなだけあって、リアクション芸人のような目に遭わせても何しても食らいついてくるという、作者にとっては非常に信頼のおけるキャラクターに成長しておりました。少々痛い目に遭わせても大丈夫というイメージが私の中にあるキャラクターです。中盤以降のイメージベースは、昭和の営業のエースで宴会部長でした。ありがとう、サメジマ。ご苦労だったなサメジマ。

 彼女のコンシェルジュキャラクターはお察しのとおり、サンリオの偉大なる女王・キティさんです。初期キティさんの専門のマニアという設定があったのですが、後半活かしきれなかったことに悔いが残ります。

 「~よう。」というのは彼女の口癖でございます。

 本編前半、さんお書店で買って部室で読んでいた文庫本は大槻ケンヂの『新興宗教オモイデ教』『くるぐる使い』という設定でした。

 学力レベルは、地方の公立校では神童だ神童だとちやほやされるけれど、県下随一の進学校に進学してみれば自分レベルなんてゴロゴロいると気づかされて目が覚めるレベルだと設定しています。

 サメ要素は、まんま名字の「鮫」ですね。サランという名前は語感で選んだので意味や由来などは全然ありません。二十一世紀末なんだからこれくらい派手な名前の方が一般的なのかなというあたりから漢字をあてております。


・シモクツチカ(撞木槌華) 太平洋校退学

 文系不良お嬢様です。イメージとしては彼女の愛読書に設定している山田詠美の小説に出てくる十代女子、90年代の一部の社会学者にもてはやされていた「経済的に問題が無いにも関わらず援助交際するような基本的に良家の女の子」なしゃらくさいイメージ、大槻ケンヂさんの青春小説『グミ・チョコレート・パイン』に出てくる文科系ファムファタルな女子・山口美甘子、同級生にいた「全然好きじゃないけどこの子にはどうしても勝てる気がしない」という敗北感を植え付ける圧倒的なしし座オーラを持った女子などの印象を煮詰めて作った女の子です。粋で無敵で知的な小悪魔(でも本当は背伸びしてます)、みたいなイメージでしょうか。うへえ、しゃらくさい。

 自分が十代のときにこう言ったタイプの女の子がフィクションでもてはやされ勝ちで、それにムカついていたことを思い出し、今更炊きなおして作ったキャラクターともいえますが、力不足で狙っていた通りのキャラクターとして書ききれませんでした。とはいえ彼女に言いたい放題言わせるシーンや暴れさせるシーンはストレス解消になって楽しかったです。

 本編でタイトルをあげていない彼女愛読の文庫本は、先にあげました通り山田詠美の『放課後の音譜』角川文庫版という設定でした。個人的には山田詠美の小説を夏の文庫フェアに入れるなら『ぼくは勉強ができない』よりこっちだと思う。

 サメ要素は本編にもあるとおりシュモクザメから。ツチカの「槌」の字もハンマーからひっぱっています。


・ワニブチジュリ(鰐淵珠里) 太平洋校初等部三年 文芸部部長

 自分探しに迷走している自意識過剰な僕ッ子文学少女……に見せかけて実は我儘お嬢様の優秀な侍女だった過去をもつ女の子です。内にため込む気質らしく苦労を重ねておりますが、本人はさほど苦ではないようです。

 もともとはサランと組んで学園内をいたずらに掻きまわす女の子の予定でしたが、いざ台詞をしゃべらせてみるとどうにも気立ての良い女の子にしかならなかったので現行のキャラクターになりました……というのは先にあげた通りです。

 愛読書は桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』です。桜庭一樹経由で興味を持った倉橋由美子の『暗い旅』をサランから渡され喜んで受け取っています。

 動かすのが難しいキャラクターでしたが、時に見せるエモい内面を語らせる回は結構ノリノリで書いておりました。

 なお、彼女のワンドが砲なのは、ゴシップを取り扱う読み物誌ということで文春砲が元ネタになっているためです。

 サメ要素はサメの古語である「ワニ」です。ジュリの名前も、サランとおなじくこの当時の旧日本では珍しくなさそうな名前としてつけたインスピレーションのみで出来た名前です。



●メジロ姉妹

・メジロタイガ(目白タイガ) 太平洋校初等部二年 新聞部

 元ゲリラで現ギャルかぶれしたアホの子でオレっ子で戦闘力の高い巨乳ちゃんという属性てんこ盛り娘です。マレー系の孤児というぼんやりとした設定はあります。

 どうしてアメを常食しなければならないといけないのか、作中にちょろって出てくる目白児童保護育成会と人造ワルキューレの関係は何か、結局メジロ姓の二人はその後どうなるのかといったことに関する詳しいことは本作のスピンオフに詳しいのでこちらを参照に……。https://kakuyomu.jp/works/1177354054886975228

 90年代日本の女子文化リバイバルが起きてる学校が舞台という設定なのだから、黒ギャルちゃんは必要。それから、ラブコメ漫画におけるサブヒロイン的なキャラクターも欲しいという点から用意したキャラクターになります。当初は新聞部員らしく抜け目がなくて頭の回転の速い娘という設定があったはずなのですが、書いているうちにフィジカル面以外では怖ろしいまでのアホ娘になりはてておりました。まるっきりのアホでも恥知らずでもないので、そこの匙加減が難しかったと言えます。

 オレっ子なのは単に私の趣味です。腕っぷしが強くて胸が大きい、しかし残念ながら賢さが足りないという設定なのは、オレっ子好きになった切っ掛けが「うる星やつら」に出てくる藤波竜之介さんだったりするためです。

 サメ要素は、メジロザメとイタチザメの英名タイガーシャークから。


・メジロリリイ(目白リリイ、Лилия、小戚) 

 太平洋校初等部二年 合唱部 → 文芸部(食客) → 新聞部(食客) →卓上ゲーム研究部部長 初等部生徒会長

 美少女で極道なアイドルの卵です。高麗人と中央アジア系のダブルで極東スラム街育ちという生い立ちはタイガの項目にリンクをはったスピンオフで詳しいので是非。最終章に登場するスラブ系女性がどういった方なのかもそこで書かれております。

 某ゲームの某姉妹を参照にタイガのオマケとして用意した子だったのですが、気が付けば本作の裏の主役といっていいほどの存在感を発揮しておりました。おそらく本作の一番人気キャラクターでしょう。

 スラム街の浮浪児設定は早い段階からあったのですが、ヤクザ設定を付与した瞬間からイキイキ動き出したキャラクターでした。本作が読んだ方の胸に残る作品になりえていたとしたら、おそらく彼女の力のおかげです。ありがとうリリイちゃん(ちなみに卓ゲー研の面々が彼女のことを「ちゃん」づけで呼ぶのは、ジャニーズのアイドルさんが後輩たちから「~くん」付けでよばれているのを参照にしたからです)。

 サメ要素はタイガと同じくメジロザメから。リリイの名前は『ピーター・パン』に出てくるインディアンの娘・タイガーリリー由来です。タイガと対になる名前にしたかったのですよ。


●フカガワハーレム

・フカガワミコト(深川尊) 太平洋校初等部三年 → 2010年代、海辺のとある中学校へ

 本作唯一の名前のある男性キャラクターであり、おそらくもっとも可哀そうな登場人物です。

 住み慣れた環境から強制的に引きはがされるわ、プライバシーは侵害されるわ、戦闘行為に従事させられてるのに大っぴらに語られないわ、同世代の女子からセクハラされるわ、そんなポジションなのに主人公ですらないという有様。そんなキャラクターにしたのは誰でしょうね? 私ですね、本当にごめんよ。書きながらしょっちゅう謝っておりました。せめて「ときめきメモリアル」における早乙女好雄的な友人キャラでも作ってあげればねぇ……。でも本作一応百合モノだし、男性キャラを不必要に登場させてもねぇ……という理由で却下してごめん。

 フカガワハーレムパートはレディハンマーヘッドの報告でのみ語られるだけの存在で本筋には登場させないというのが当初の予定だったため、ロクにキャラクターもなく少年の書き方に頭を悩まされるハメになりました。が、途中でノコとからませると「面倒見のいいお兄ちゃん」というキャラが生まれ、そこからトントンと身の丈にあった幸せを大人しく享受するのが似合う草食系の穏やかな少年という個性でまとめることができたような気がする……多分。

 とりたてて目立つ個性がない少年が複数の少女から慕われているという設定の説得力を持たせるために、対人関係には誠実でサメジマサラン以外の人間を尊重する少年であるという点だけは気を付けて描写していたような……、うん。

 しかし少年を書くのが正直億劫でもありまして、侵略者の攻撃をうけて一時的にTSしてしまうという展開をちょっとだけ考えておりました。やらなくてよかったです。

 サメ要素は、フカガワの「フカ=鱶」です。ミコトという名前は、女の子を助けてモテモテに……という点から英雄を連想し、古事記の男神につく「ミコト」を名前としました。


・トヨタマタツミ(豊玉辰巳) 太平洋校初等部三年 → 2010年代、海辺のとある中学校へ

 フカガワハーレム正ヒロインです。

 ハーレムものの正ヒロインっていえば、ポニテ剣道少女で主人公がセクハラしたら問答無用で天高く吹っ飛ばすような暴力女子であり、正ヒロインであるにもかかわらず読者人気が一番低いことになってしまうような子だろう……ということでこうなりました。私自身が聊か古い世代に属するので、正ヒロインときけばこういう子をイメージしてしまうのです。ごめんやで。

 暴力ヒロインなところを膨らました結果、姿を見せてからすぐなど単なる猪娘でしかなく「これのどこが学年首席……」と頭を抱える羽目になりました。本当はかなり賢くて優秀なワルキューレでであるという演出するのが難しかったです(一応、優れた巫女姫であったけれど恋を知ってしまったために猪娘化してしまい、巫女としては堕落したという後付け設定を用意しています)。

 サメ要素は、出産時に八尋の鰐に変身していたという逸話を持つ女神として有名な、古事記に登場する豊玉姫から(ワニはジュリの時と同様、サメであるという説をとりました)(女官長・八尋の名前もここから頂戴しています)。とはいえ、彼女の実家の神様は豊玉姫ではなく、海に纏わる別の神様をお祀りしております。

 辰巳は海や水に関係する名前がいいなということで、安易に龍→タツ→タツミ、という発想からこうなりました。


・ノコ(S. A.W. - Ⅱ Electra)

 一見人形のように美しい、フカガワミコトのワンドである人工生命体です。本気を出した戦闘時には電動鋸に変化します。

 二次元文化によく登場する、おのが肉体をを武器に変形させる少女の系譜に連なるキャラクターですが、剣やら銃ではありきたりだし、ノコギリザメというサメもいることだから電ノコに変身することとなりました。おかげで「オーパーツ的な物体のくせに電ノコってなんじゃらほい?」と、本作全体の世界観にほどよい良いマヌケ感がだせてよかったのではないかと。

 当初はよくある無表情クール幼女をイメージしていましたが、大食い設定に則ってキャラクターを掘っているうちに、元気でわんぱくで食いしん坊で賢さ不足のおしゃま幼女となりました。強さの演出には難儀させられましたが、フカガワミコト相手ではお姉さんを気取って見せるところ、お菓子を欲しがるところ、マーハやレネー・マーセル辺りには甘えるけれど、サランに対しては辛らつなところなどは書いていて非常に楽しいものでした。「私、幼女書くの得意なんじゃ……?」と調子にのるほどでした。

 サメ要素は先に挙げた通り、ノコギリザメから。型番の「S.A.W.」には何やら意味がありそうですが、鋸の英名「saw(ソー)」をばらしただけです。なにかしらそれっぽい英単語をあててやろうと考えましたが、英語の偏差値が低いことをばらすだけになりそうでやめました。


・ミカワカグラ(三河神楽) 太平洋校初等部三年

 世界を救ったプリンセスの転生体および高い感応能力をもつテレパスちゃん。そんな要素を持ってうまれた上に控えめで家庭的な大和なでしこ的キャラで語られがちだけど、本人は集英社の少女漫画が好きそうな(現代日本の感覚で)ごくごく普通の女の子というキャラクターです。

 そして、作者にとっては非常に重宝したキャラクターの一人でした。彼女のもつ感応能力のおかげでなんど進行を助けられたことか。もっとも小説の演出としてアリなのかナシなのかはわかりませんが……(少なくとも邪道であるようには思う)。

 当初は地味なメカクレちゃんでしたが、途中から大化けして可憐な見た目に反する生生しい本音をぶちかます子となりました(そういう所も込みで「ごく普通の女の子」なわけですが)。ぶちかまさせる台詞を吐かせる際は楽しいものでした。

 書きながら「フカガワミコトはこの子と付き合った方がしあわせになるだろうになぁ」と思っていたことは内緒です。最初から失恋することが決まっていた子なのね、実はちょっとぐらいいい目にあわせてあげたかったのですが書く尺がなくなっておりました。返す返すもごめんよ。

 サメ要素は、カグラザメから。参考にしたサイトで「三河湾でよく目撃される」というような一文をみたために姓をミカワにしたはずなのですが、そのサイトが今見当たらず……。うーん、困った。


・ジャクリーン・W・スペンサー(Jacqueline W Spencer) 太平洋高等部一年

 世界的ポップスター兼一騎当千なワルキューレであり、スキャンダルクイーンなニンフォマニアさんです……が、ポップスターの名前がジャクリーンてのはどうよ! と命名してから自分でツッコンでしまいました(ジャクリーンて確かかなりババくさい……もとい、今時らしくない名前のはずなので)。実家が軍閥系の名家で本来なら大西洋校に行く予定だったのですが、本人の強い希望により太平洋校に籍をおいているという設定があります。

 跳ねっかえりのじゃじゃ馬パーティーガールでもありますが、その分思い切りと気風がよいという一面もあります。享楽的なところも含め、そういった一面が遊び仲間のシモクツチカに影響を与えたのでしょう。

 ――実はツチカ放校の理由が中々決定できなかった頃に初めて彼女をメインで登場させ、そして侵略者との間に愛娘がいるのをパトリシアに感づかれ、それをごまかすため(そして合法的にキタノカタマコから遠ざかるため)にツチカが身代わりになった……という展開を思いつけた時は首の皮一枚でつながった思いがいたしました。

 メインで活躍することはすくなかったのですが、私にとっては救世主のような存在でございます。

 サメ要素は、映画の「JAWS」から(Jacqueline W Spencer)。

 

●演劇部

・ジンノヒョウエマーハ(甚兵衛マーハ) 太平洋校高等部二年 演劇部部長

 元女神様という経歴を持つ、旧日本仏教界を代表する名家(ってなんだよ? と突っ込まないでいただくとたすかります)の養女、かつ演劇部のスターであるお嬢様なお姉さまです。

 ヒマラヤの尾根あたりで女神様をやっていた……という経歴からクマリを想像された方がいらっしゃるでしょうか。いらっしゃったのならそれで正解ですとだけ告げさせていただきます。ただクマリに関する知識がないので(←ちゃんと調べてから書けよ)、あくまでそういうイメージなだけなのですが……。どちらか言うと、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『クリストファーの魔法の旅』に出てきた女神が元ネタだと思っていただけると嬉しい。

 とにかく品の無いキャラクターばかり出てくる作品でしたので、品があり典雅でちょっとばかしお茶目な一面もあるという、どこに出してもおかしくないお嬢様として描こうと最大限気を付けておりました。こだわっていた面は「激高しない、声を荒げない」と「~ですわ、という語尾をしようしない」です(ただの持論ですが、語尾を「~ですわ」にするともはやネタ系お嬢様にしかならないので)。

 お陰でこの方を登場するときは心洗われる思いが致しました。色恋を否定しない人でもあるので艶やかなシーンを書けたのもなかなか楽しかったです。

 サメ要素は、ジンベエザメですね。おかげでお寺関係の娘さんなのにジンノヒョウエなる武家みたいな姓を頂くことになってしまいましたが。下の名前であるマーハは大日如来のサンスクリット名 Mahāvairocana(マハーヴァイローチャナ)から。


・ホァン・ヴァン・グゥエット(黄雲月 Hoàng Vân Nguyêt) 太平洋校高等部二年 演劇部

 演劇部の男役スターにして環太平洋圏のアジア側で強い影響力をもつ黒社会一家の大物ということになってる少女です。アオザイの似合うオリエンタル美人、もしくはお化粧すると矢沢あい漫画の登場人物になりそうなタイプの美人ということで設定したような。エキゾチシズム全開なキャラクターは避けたいとか言っといてアオザイかよ等、突っ込まないでいただけると助かります。

 極端な無口と無表情、或いは怪しい方言という二種類ある喋り方(しかもどちらも非常に面倒)、イケメンキャラとしての印象付け、実は切り札的能力を持っている、ヤクザとして幹部級の実権をもっているらしいからそれなりに頭良くないといけないし、なかなか口には出さにけれどマーハのことは大事に想っているようだし……というので、もぉぉぉ~……本当に演出に頭を悩ませる人でした。書くのが難しかった人のトップはこの人でしょう。イケメン女子キャラは毎回気を使いますが彼女は今までのキャラクターの比ではなかったですね。

 ちなみに方言じゃないバージョンの喋り方では「、」を使わないという特徴がありました。お気づきでしょうか。

 名前は最初からマーハのパートナーとして設定していた人だったため、マーハがジンベエザメならこっちはコバンザメだな……と、ベトナム語女性名などを調べて黄金月(黄金→小判という連想から。ちなみ彼女の渾名「ヤマブキ」も小判と言えば「山吹色のお菓子」でしょ、という所が由来です)と名付けたのです、が! 

 今このあとがきを書いている時に「金」のベトナム語読みを最終確認していた所、「Vân」とは読まないことが判明いたしました……。どうやら初動で勘違いしていたらしい。うそやろ……⁉ と目の前が真っ暗になりましたが今更変更が聞かないので、漢字の方を読みに合わせて「黄雲月」にしれっと変更することとしました。――私が悪いとはいえ、最後まで難しい人でした……。


 ちなみにリリイが主役のスピンオフで起きている事件は、彼女の人生にも大きな影響を与えています。その辺のことはまた書ける機会がありましたなら。


●文化部棟

・シャー・ユイ(沙雨依、沙唯)太平洋校初等部三年 文芸部

 吉屋信子系エス小説を二十一世紀末に復活させようと尽力している酔狂で硬派な文芸女子です。そんなマニアックな作風のくせにファンがあちこちにいるのだから大したものですよ。

 それにしても、ミカワカグラと並ぶ使い勝手のいい便利なキャラクターでした。ツッコめる、ボケられる、進行に一躍買ってくれる、まさにオールマイティ。便利さ故に出番が増えたのは内緒です。

 作中でもふんわり触れられていますが、実家は成金で時々でる鈍りは苦労して財を築いた祖父の出身地の訛りという設定です。

 あと、混乱されている方もいらっしゃるかもしれませんのでここにまとめます、沙唯というのは彼女のペンネームで、シャー・ユイは渾名、沙雨依が本名ということになります。

 サメ要素は、中国語でのサメ「鲨鱼」の読みがシャーユィらしいということから。


・ケセンヌマミナコ(気仙沼美奈子)太平洋校初等部三年 漫画研究部

 女体に執着する神絵師です。

 80年代アニメのファンということで、ちょっとオタクで不思議ちゃんっぽいすっとんきょうな娘にしようと語尾を「~ござる」にしてみたり、妙な知識に詳しかったりと思い切ってかなり濃いキャラクターをつけた子です。当初は恥ずかしかったのですが、実は頭の回転がかなり速いというキャラクターをつけると狙っていた以上に面白い子になったようなそうでもないような……。

 しかし、ワンドを眼鏡にしたのは失敗だった……。常から眼鏡っ子にするべきだった……。

 サメ要素は、フカヒレの名産地・気仙沼から。ミナコという名前は、この時代だときっと相当古風な名前なんじゃないかなと想像したりしています。


・パール・カアフパーハウ(Pearl Ka`ahupahau)太平洋校初等部二年 卓上ゲーム研究部部長→副部長

 陰キャな電脳技師系小悪党ちゃんです。メジロリリイとは犬猿の仲です。

 自分で自分の人生を切り開くためににはどんな手でも使ってのし上がるという点はリリイと共通しているのですが、着眼点もこ狡さもそなわっているのに彼女よりかなり欲深い面があるので詰めで失敗しがちという小悪党らしい宿業を持っています。そんなキャラクターですが、意外と手下からは慕われています(得た富の配分をきっちりするからでしょう)。イメージキャラはドロンジョ様でした。

 邪気眼系厨二病設定を上手く活かせなかったのが心残りではあります。

 メジロリリイは後に女優として大成するのですが、彼女含む卓ゲー研の面々はブレインやスタッフとして渋々協力し続けたという設定になっています。

 ちなみに彼女のアウトロー弁とシャー・ユイがキレた時に出る訛りの系統が一緒なのは、パールの所属している団体の初代代表とシャー・ユイの祖父の出身地方が一緒だから、ということになっています。まあこのあたりのことは後程……。

 サメ要素は、ハワイ先住民に信仰されていたサメの女神様・カアフパーハウから。真珠湾を護っていたそうなので、パールの名前もそこからきています。ちなみにこのファミリーネームはハワイ先住民系ではないのにパール自身が自分でつけた設定になっています。

 なんでも先住民の反対をおしきって真珠湾に軍事基地を建設する際に何度も事故が起きて難航したという話があるそうで、そういった「やられたらやり返す」「転んでもただでは起きるまい」マインドが彼女のジャイアントキリングを好む精神に合致していたのだろうと思われます。


・ビビアナ・リモン(Bibiana Limón )太平洋校初等部一年 卓上ゲーム研究部

 教会運営の孤児院で育った、渡世人気質の少女です。命を助けられた事情からメジロタイガとそのパートナー、リリイを慕っています。

 小悪党たちの下っ端として働くのと、敬虔なシスターの下ではぐくんだ健やかかつやや保守的な倫理観が彼女の中では矛盾なく同居しているようです。

 執筆中に見ていた二十年ほど前のOVA「てなもんやボイジャーズ」に出てきた焼津のまあこという女の子があまりに可愛かったために安易に影響を受けて登場させたキャラクターでもあります。いわばマスコットのつもりでした。いやしかし、まあこちゃんは可愛かった……ピカチュウの声で江戸っ子口調でしゃべる十四才女子(ヤクザの舎弟)が可愛くないはずが無いだろう。ちなみに、アウトローガールたちの一部が中国地方風の方言で訛り出すのもこのアニメの影響です。

 サメ要素は、レモンザメから(レモンのスペイン語がlimón)。彼女のフルネームはもうちょっと長かったのですが、今回こちらを正式としました。


・パトリシア・ニルダ・ゲルラ(Patricia Nilda Guerra)太平洋校高等部二年 新聞部 『夕刊パシフィック』デスク

 腹に一物、二物抱え持っている食えないゴシップ屋女子です。初等部時代に何かを探り当てたために、理事会の意志で危うく消されそうになった過去をもちます。何があったか、真実を記録することに対するへの熱意があったりするようですがそれを大っぴらにすることを良しとしません。

 実は両親は貧富の格差や地球環境問題について積極的に発言することで知られる大学教授と社会活動家という裏設定があったりしました。経済的に困窮していても文化や教育に関する資本は裕福すぎる家で育った知識階級のお嬢さんであるという裏設定があります。

 サメ要素は、タガログ語によるサメ「pating」から(Patricia Nilda Guerra ……「i」がちょっと厳しい)。


●高等部

・アクラナタリア(阿倉ナタリア Natalie Akura)太平洋高等部二年 初等部風紀委員長→園芸部→高等部生徒会長

 表向きは女児の憧れスーパーヒロイン、校内ではかつて大粛清を行った鬼の風紀委員長という内外に向けて二つの顔を持ち、演じ分けることのできるエリートの策士です。イメージはエリート士官でした。ジェーン・オースティン好きという一面もあります。

 実は幼少期からエリートワルキューレになるべく教育を受けてきた少女で、ワルキューレ憲章にも忠実であり将来専科に進むことも当然と捉えているような少女であるという裏設定がありました。そんな子がなぜレネー・マーセルのような子とパートナーを組んでいるかについては機会がありましたらお話させていただきます。

 かつてフランス領だった南太平洋某諸島の出身者と旧日本人の間に生まれたダブルということになりますので、母語はフランス語です。パートナーのレネー・マーセルとはフランス語で会話しております。

 実はもともとロシア人の設定で、プラチナブロンドで軍服めいた服と乗馬鞭を持ちながら尋問するようないかにも旧ソ連女軍人風ベタなサドキャラを設定していたのですが「これと「ヘーイ、なんとかデース!」とか言うブロンドメリケン娘となんの違いがある?」と気づいた結果、物語の途中で設定変更し、上の形におさまりました。空いたロシア圏出身者をリリイちゃんが埋めています。

 サメ要素は、元はロシア人という設定だったこともあってロシア語でサメをさす「акула」から。

 ナタリアもロシア人っぽい名前ということから考えてつけたものなので、設定変更の際には大いに往生しましたが、フランスならナタリアでもギリギリ行けそうなので上記設定に収まりましたとさ。


・レネー・マーセル・ルカン(Renee-Marcelle Requin)太平洋校高等部二年 初等部生徒会長→園芸部

 環太平洋圏女児の憧れである素敵に無敵なスーパーヒロインが表の顔、その実態はなんだかパトリオット且つ物騒な発言ばかりする色んな意味で危なっかしい女子です。彼女がなにものであるかはそのうち語りたいのですが、現状は非常にシンプルな思考回路のみ搭載された核弾頭みたいな女子だとお考え下さい。ナタリアは彼女の暴発を抑える係ために太平洋校に来る前から一緒にいるという設定があります(この辺のことはまたの機会に……)。

 レネー・マーセルが倫理観のない悟空でナタリアが脳筋じゃないベジータというイメージでした。

 サメ要素は、フランス語のサメ「Requin」から。なぜフランス語なのかといいますと、カナダのフランス語圏出身の女子だからです(カナダのフランス語圏ってアメリカ大陸の東っかわじゃない? というツッコミは聞き流す方向で)。


・アメリア・フォックス(Amelia Fox)太平洋校高等部三年 生徒会長

 実直謹厳、数字とデータを最重視して合理的判断を下す名戦略家になれそうな知私室を秘めた大器……であるはずなのに、本人の性格が気弱で卑屈すぎてその特性を発揮できていない不器用というか反対に器用貧乏というか、放っとけないような女子です。そのせいで、パニくりやすく騒々しい性格のわりに慕われているようです。

 初等部生徒会長がやたらめだっているのに、高等部生徒会長はなにをやっている? という疑問から登場させたキャラクターです。なのでほんの一回顔みせ程度に紹介させるだけの予定だったのですがなんだか気に入ってしまって結構な出番を与えていました。

 実は終盤、生配信中に嫌がる彼女に眼鏡をかけさせた姿が大評判になり、環太平洋圏で眼鏡ブームが巻送るというちょっとした展開を考えてたのでしたが、差し込むタイミングがありませんでした。ごめんよ。

 サメ要素は、オーストラリアでホホジロザメツアーなどをやってるサメ関連の事業で有名人らしい、ロドニー・フォックス氏から。名前のアメリアに関しては、アメリア・イアハートからなんとなく頂戴した気がします。

 一番最後に出来たキャラクターなだけあって、この辺になるとネーミングに疲れ果てております……。


●OG

・サンオミユ(鮫美柔 상어미유)

 古本屋のきれいなおねえさん兼国連所属の尉官クラスのプロワルキューレです。

 場数を踏んだプロだけあってちょっとしたことでは動じませんが、時折生来の文学乙女な所が顔をだしたり、年下の子が危ない目に遭っていたり危険な仕事に従事させられている面をみたりするとブートキャンプの鬼軍曹のようになって激高したりします。ちなみに鬼軍曹風になるのは「シモクツチカがおびえるくらいのブチギレっぷりってどんなんだ?」と考えた結果でてきたのがそれだったためです。

 高橋留美子の漫画に登場するおねえさんキャラを参考に、全人類おもわず小さい弟妹状態にしてしまうような人として全力を傾けて書いていた気がする……。マーハと並んで、書いていて心洗われる人でした。

 実は野球がかなり上手いという設定があるのですが、その辺のことはサンオコサメとのなれそめも兼ねていつか語ってみたい……いっちゃらいっちゃらしたやつを。

 サメ要素はハングルでのサメ「상어」からそのまんま。本当はこんな姓は無いと思いますがアレンジの仕様が無くて仕方なく……。


・サンオコサメ(山尾小雨)

 ミユと同じく国連所属の尉官クラスのプロワルキューレで、現在特殊任務についています。後半ではほとんどデウスエクスマキナでした。

 愛らしい外見に反して性格は横暴で口が悪くて毒舌屋の乱暴者ですが、職務には忠実かつ有能なようです。パートナーとは相思相愛なようですが「サンオミユはサンオコサメの何に一体惹かれているのか?」と同期一堂を困惑させたこともあるほどおかしなカップルだと受け止められています。

 来ている私服はピンクハウスという設定です……というのもコサメ初登場付近でみていた朝ドラ「半分、青い」に登場した井川遥さんのピンクハウス姿が大変素敵だったためです。安易に影響を受けた結果ですね。

 なお、ミユの部屋にあった野球漫画のコレクションはコサメの持ち物で、なおかつ「ドカベン」であるという設定です。

 サメ要素は、シンプルにコです。


●北ノ方関係

・キタノカタマコ(北ノ方真子)太平洋校初等部生徒会長 → 大西洋校

 フカガワハーレムのツンデレお嬢様枠……と見せかけて侵略者と闘う意志はあるけれども、人類の言いなりになる気はない。ていうか人類が私の言いなりになれ、という気満々な本作ラスボスです。実権を握るため、欲しいものを手に入れる為にはなんだってしますが、自分のものを他の人間にとられることは我慢ならない気質のようです。

 というわけで……ですね、彼女の目的は何なのか、シモクツチカはなぜにどうしてキタノカタマコをあげつらうのか、自分でもわからぬままに書き始めたためになんともかんとも大変だったといいますか、正直上手く書き上げられなくて悔いも大いに残るところではあるのですが、それでも最後まで冷徹に冷酷に高慢で人を人とも思わないお嬢様が書けたのではないかなぁと多少自負しております。

 実は彼女を書く最大の目的が「世にも邪悪なお嬢様を書くでした」

 昔語りを唐突に始めますが、幼少のみぎりに読んだルーマー・ゴッデンの児童文学に『人形の家』というものがあります。その物語に、非常に高価で美しいけれどとんでもなく高慢ちきで人を人とも思わない人形が出てくるのですよね。悪事を悪事と思わないまま人形一家の家を乗っ取って女主人に収まり、取り返しのつかないことをしでかすという。その上それをちっとも反省しない、というか反省の概念がない邪悪の権化みたいな人形が……。この物語を読んだときにはそりゃあもうこの人形への怒りと憎しみで破裂しそうになったものですよ。今でもあれほど感情をゆさぶる悪役に遭遇したことがありません。

 さて、幼少期の私を怒りに駆り立てちょうど出ていた読書感想文の宿題にこの本を取り上げて怒りの丈をぶつけまくるという行動に走らせたその人形への感情ですが、月日が経つにうちに「いつか私もアイツほどの悪役を書いてみたい」という思いに変質してゆきました。意地悪な女の子は好きなので今まで書いて来たものの、どこか可愛気や愛嬌を残した彼女らとは違って、可愛げも愛嬌なんてものは高価な靴の爪先で踏みにじるような血も涙もなく冷酷無比な少女を書いてみたい、と。

 本作がやたら長大化しそうな予感がしてきた時に気付けば彼女をそんな風に書きだしてしまい、そしてあっという間に取り返しのつかないキャラクターに成長をとげていったでした。そんな経緯でできあがったのがキタノカタマコでございます。

 しかし読者を怒りで奮い立たせるようなキャラクターを書くのなんて並大抵のことでは達成できませんね……。自分の力不足を実感するばかりでしたし、二転三転するプロットに振り回されたあおりを食らって結局何をしたい女子なのかがよく分からないことになってしまったことに悔いが無いでもないです。もっとこう、思春期の少女をヘイト創作に駆り立てるような少女として書きたかった……。この辺は今後の目標にしておきます。

 サメ要素は、ポリネシアの言葉でサメを「マコ」と呼ぶことから。本当は旧字の「眞子」にしたかったのですが、それだとやんごとなき方と同じおなまえになってしまうので……。キタノカタという姓は、正室をそう呼んだことから。


・ヨシキリヒヅキ

 最終話の終盤に突然登場する人物です。

 人形のような十二人姉妹のみそっかすな末っ子、右手に古傷があり、冷酷な主人に対する恨みつらみがやまのようにあるという点から何者か探っていただければ。

 ヨシキリ姓の姉妹も、メジロ姉妹同様人造のワルキューレです。その辺の事情はメジロリリイ主役のスピンオフにちらっと出てきますので興味がおありでしたらぜひお読みください。

 サメ要素はヨシキリザメから。



【小ネタなど】

 

 登場人物紹介で力尽きそうになってしまいましたので、簡単に小ネタについてなど。


・この時代の日本ってどうなってるの?

 亜州連合という共同体の一部になってるらしいです。残念ながら盟主ではありません。一応自治権はあるみたいですが。そのせいで一部ではナショナリズム熱とかも過熱してるらしいですよ。


・80年代アニメなど

 90年代ブームが起きてるというのに、必殺技はミンメイアタックだし九十九市は「メガゾーン23」みたいに過去の時代に閉ざされてるし……ということで、何故か大昔のアニメネタが多い本作でございます。

 ちなみに「メガゾーン23」は大昔にテレビで見て、トラウマを与えられたアニメでした。そのせいでSFとヴァーチャルアイドルは怖いものだ云うイメージを植え付けられてしまったものでしたっけ……。本作はそのトラウマを解消ついでにリスペクトも添える意図がそれなりにありました。

 閉ざされた偽物の街なんだからヴァーチャルアイドルだけは何とでも出さねば! という使命感から帳尻合わせのように登場させたのが、CG版のレディハンマーヘッドです。


・シャー・ユイの小説。

 泰山木の女神云々というシャー・ユイの書いた小説というのは以下のものになります。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885972572

 後から作中に組み込めばよかったと気づいて後悔しました。

 しかし、こんなクオリティでファンがつくかね……?


・天女とプレアデス 

 思いつくままに書いております。あまり真に受けないでください。


・サメジマサランの故郷

 東北の方にある米どころをイメージしています。政府肝入りの穀倉地帯がちゃんとあるのは、特撮番組などをみるたびに「ああやって田んぼがダメになるとすぐ食糧不足になるんじゃ……!」と心配することが多々あったからです。エヴァンゲリオンで三号機が使途に憑りつかれる回などなんどお米の心配をしてきたことか。

 どうでもいいのですが、米どころ育ちなのが作用したのかサメジマサランは大人になると日本酒党になるという裏設定があります。


・前世のフカガワミコトがいた町

 隠岐島事変というヒントしかだけ出してはおりますのでぴんと来た方もいらっしゃるかもしれません。実は島根県某所をイメージしております。イメージだけで実態は全然違いますけどね……。

 風力発電もあって海があって、お米が美味しい。良いところです。


・『女獣心理』

 演劇部の演目の原作です。野溝七生子による素晴らしい小説なので読んでいただきたいのに今は絶版品切れ状態らしいよ! なんてこった。図書館で借りて読んでね。『山梔』もいいよ。


・『幻の朱い実』

 最終話に登場する本です。作者は翻訳で有名な石井桃子。

 私は常々、百合マンガで文学少女キャラが読んでる作品がいつもいつもいつもいつも谷崎潤一郎の『卍』なのに不満があってねぇ……。馬鹿野郎、文学少女ならこれぐらい読みやがれ! みたいな気持ちがありましてですねぇ……。でも素晴らしいがゆえにあんまり人には勧めたくない(自分はブックガイド経由で知った癖にな!)というジレンマも抱えていたのですよ。

 でもまあ思い切って登場させたわけですよ。今は岩波現代文庫からハンディでお手頃な文庫本も出てるんだから読むんだ、みんな。


・物語の隙間

 特定の怪物に対抗できる唯一の存在である特殊な能力を持った戦闘少女たち……という設定は近年ごくありふれたものですね。自分が見聞きしてきたそう言った作品群からまんべんなく影響を受けて作られたという自覚はありますが、その中で一番大きいものの名前をあげねばなりますまい……。まあぶっちゃけますと「艦これ」ですけどね。

 その中でもゲーム本編より、彼女らが陸上や海上でのんびり日常を過ごしているタイプの二次創作品に影響を受けていると思います。ガチガチの戦闘を書くより、その合間合間の日常に興味が湧く方なのです、昔から。

 戦闘の合間ついでに、ラブコメ、少女小説、昔のアニメ、変身少女、都市伝説、戦争もの、政治劇、児童文学、伝説に伝奇、セカイ系、……その他諸々の色んな物語の隙間隙間にいて日常をすごすのが本作の少女たちなのでした、という自分で言っちゃあおしめえよ、な狙いもちょっとあったりしたのでした。



 ほかにも小ネタなどはありますが力尽きました……、なにかあったらまた追加いたします。ばたり。


【終わりにあたって】

  それにしても、終わったな……と。

 

 本当に終わるのか、私はちゃんとゴールまでたどりつけるのかと後半はそればかり頭にあった本作も、手さえ動けばなんとか終わらせられました。あちこちにほころびも、ひっかき傷もある、散々なありさまですが、それでもゴールはしましたとも。


 こんなややこしい物語もう書かない! と半泣きの半ギレになったことも何度かありましたが、それでもこうしてゴールまでたどりつけました。

 そのことが今になってようやくじわじわ身に染みております。


 そうすると何かかきたくなるものですが、本作で全力をふりしぼったので燃料がもうありません……。

 しばらく書きたい物語の芽が出てくるまで、しばらく一休みしつつ、本作のにぎやかな登場人物との別れを終えたいと思います。――一部キャラはそのうち再会しそうですが。 

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