第3話
ここ最近は、なんだか調子がいい。もちろん身体もだが、心もすこぶる健康だ。
転校してから毎日が華やかに見える。転校してもう一週間になるが、やはり自由なお金がほしいので、アルバイトを探すことにした。家から通えそうなところにはスーパーとファミレスとコンビニしかない。
私にはファミレスとか無理そうだし、とりあえずスーパーかな…
そんなことをTwitterにつぶやきながら、登校する。あいにくの雨が、傘に軽快なリズムを刻んでいる。かわいい傘も雫が乗ると少し輝いて見えた。
学校に着くと、いつものけだるい授業が始まる。蓮華と小さいメモでやり取りをしているのは二人の秘密だった。
今日、蓮華は用事があるらしく急いで家に帰らないといけないそう。私を置いてさっさと帰ってしまった。いつもは一緒に帰宅するから、ホームルームの後は少し寂しく感じた。
そんな時後ろから「ゆーきかちゃんっ」
「わっ!! びっくりしたよ。たい、ようくん…?」
「おっす!今日は蓮華は一緒じゃないの~?」
「うん。急用があるらしくて帰っちゃった。美味しそうな和菓子屋さん見つけたから一緒に行きたかったのにな~」
「それって
「そうそう!ネットに、そこのいちご大福が美味しいって書いてあって…」
「…へへっ 行ってみっか!」太陽くんはなぜか含み笑いをしている。何かわけがあるのだろうか… とりあえず帰り支度をして、太陽くんと「満福茶屋」に向かった。
川沿いの土手を歩く。スカートを通り抜ける風が気持ちいい。優しい風は太陽くんの髪の毛を優しく撫でるようになびかせていた。
朝は雨が降っていたが、今は止んでいる。草に乗った露がキラキラと光っている。
「俺さー、カメラが趣味でつい、こういう風景撮りたくなっちゃうんだよね。『今シャッター切ったらこんな感じかな』っていつも想像しながら生活してる」
「え、すごい素敵。私カメラのセンスとかないからだめだなぁ…」
「スマホのカメラだって十分いいカメラなんだぜ。ほら、スマホ出してみてよ。」
言われるがままに自分のスマホを出し、カメラアプリを起動する。
「きれいに撮るには、ここのボタンを長押しすると…ほら、フォーカスがロックされただろ。そのままシャッターボタン押してご覧。」
「うわ…自分で撮ったやつじゃないみたい。太陽くん、すごい!」
液晶に映し出される川辺は自分の目に写っているより心なしか美しく見えて私をぼうっとさせた。
「この調子で、あとで大福も可愛くとろーな!思い出は、鮮明に残さないと!」
太陽くんは、楽しそうに土手をずんずん歩いて行く。
やっと目的の和菓子屋に到着した。ここでは飲食スペースを設けていてお茶も提供されているので、おやつには最適だ。古風な引き戸がまた好奇心を掻き立てた。
「こんにちは~…」
「いらっしゃいま…えっ?!」
目の前には和装にエプロンをかけた蓮華がびっくりした表情で立っていた。
「ゆ、雪華なんでここに?!それに太陽まで!」
「ここのいちご大福が食べたくって、調べてきたの。蓮華、ここでバイトしてるの?」
「そう!詳しいことはあとで話すよ。さっ、お座敷へどうぞ。」
座敷へと案内してもらい腰を下ろす。太陽はにやっと笑って小声でつぶやく。
「バイトしてるの、俺は知ってたけどなっ」
注文した、いちご大福が運ばれてきた。
もちっとしていて、どこか赤寄りのピンクのかわいい風貌にきゅんとしてしまう。
蓮華は仕事が一段落したらしく、厨房から休憩していいと声をかけられていた。
「これ、
お茶と最中をお膳に並べ、座敷にかけた。
「休憩もらったし、バイトの件話すね。ここ、私の叔父さんのお店なの。昔から代々継いでるお店で、叔父さんで三代目なんだ。和菓子大好きだし家も近いってことで、働かせてもらってるの。ただ休憩のたびについ失敗作のお菓子とかもらっちゃうから、どうも痩せないのよね。」と蓮華は笑う。
「でも、和装似合ってる!!いつもと雰囲気違ってかわいいよ。」
「そーそー、カワイイな!」
「ちょ、やだやめてよ。そういえば雪華もバイト探してたよね。決めたの?」
「ううん。まだ… でも近所にスーパーあるからそこのレジに応募してみようかなって思ってるの。どうかな、できるかな?」
「え、いいじゃん!やってみなよ!」
「へへ…じゃあ早速今日の夜電話番号調べよっと…」ふといちご大福に手を伸ばしかけたところで気づく。可愛いし写真を撮ろう。
「ねえねえ、ふたりとも」声をかけてインカメラでシャッターを切った。
大切な思い出は鮮明に残さないと、だよね。
いちご大福をぺろりと平らげ蓮華と少し話して満福茶屋をあとにした。少し暗くなりかけた空もまた美しい。
「ねえ、雪華ちゃん」太陽くんが真顔で話しかけてきた。
「ん?なあに?」
「あのさ…」なんだか言いづらそうな表情をして
「俺と付き合わない?」
Before after! 魚類 @gyorui-san
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