第2話 バラのフルート吹き
学校のチャイムが聞こえてきた。これは完全に遅刻だ。
しかし、天音はフルートを吹いている人を探してバラ園の奥に進んでいく。遅れて廉も天音を追いかけてきていた。
遂に、天音はフルートの音の主を見つけた。女の子ではない。フルートを優雅に奏でていたのは、同じ高校の制服に身を包んだ男子生徒であった。多分、先輩にあたる人だろう。
男子生徒がフルートを吹くのをやめる瞬間を見計らって天音は、その人に拍手を送った。
「 ブラボーです!! 」
「 ?! 」
「 凄いです!! これが、吹奏楽なのです
ね。 私、感動してしまいましたわ!!
私、是非吹奏楽部に入って皆と一緒に音
楽を奏でたいですわ!! 」
天音の喜ぶ声とは裏腹に、後ろの方でびくびくしている廉と怒りに耐えているフルート吹きの男子生徒がその場にいた。
「 あれ? 何か言葉を選び間違えましたか? 」
「 あぁ、新入生の方でしたか。 」
「 そうですよ? 私は、乙坂 天音です。1年
生です。」
「俺は、天音の幼馴染の春日井 廉です。 富
士宮 司先輩ですよね? 」
先程のフルートを吹いていた先輩は、富士宮司先輩だということが分かった。昨年のフルートのソロコンクールで金賞を獲得した凄腕のフルート奏者だ。そんな彼が何故ここへ来ているのか、天音は気になった。
「 どうして音楽室で練習しないんですか?
」
「 ……それは、やっぱり皆が言う呪いの話
があるからかな? 誰も入ってきてくれな
くて困っているし、僕の音色にも不安があ
る。それなのにパートリーダーはないと思
うんだ。ごめんね、これは痴話話だから気
にしないでね 」
「 分かりました、富士宮先輩!! 私と
廉…… 吹奏楽部に入部します!! 」
「 はぁー?! 俺は、まだ何も言っていな
い…… 」
廉は、話そうとしたが天音の制止をくらってしまい、何も話せなかった。いつの間にか天音は、吹奏楽部の入部届けにサインしているし、ここは仕方ないので廉もサインをするのであった。
天音は、あることに気がついた。ここは、どこなんだぁ~、ということに。さっき、チャイムが鳴っていた。これは、ギリギリセーフではなくて、スライディングアウトだ。目の前に迫る鬼の形相の生徒指導の先生。般若面をつけて竹刀を肩に背負っているイメージが出てきてしまう。
そんな天音の考えを富士宮 司がぶったぎった。
「 そんな般若面つけて竹刀を持つなんてい
つの時代の話なんだ!! とにかく、入学
式早々遅刻はあれだから僕の家の車に乗
せていってあげるよ。後、吹奏楽部を助
けてくれるという契約約束つきでさ 」
この後天音と廉は、富士宮司の家の車に乗せられ、入学式会場に到着した。富士宮司は、天音と廉を送り届けると1人で音楽棟の中に入っていった。
入学式の始まる前だったから助かった。とにかく、音楽に楽しみを持てなくなったり、自分の楽器を愛せなくなり、音楽に裏切られたと思うようになり、音楽に嫌われていると思うようになり、さまざまな思いが彼女達・彼達に芽生えてしまい、吹奏楽部から退部届けを出さずに部活に顔を出さなくなったようだ。しかし、それでも聞こえてくる吹奏楽部の音色…… 。 それが、原因で吹奏楽部は呪われている、というレッテルを貼られてしまったのである。
「 諦めるつもりなんてないわ 」
「 そうだな。俺も諦めるつもりなんてな
い。諦めたらそこで試合終了ですか
ら…… 」
「 廉 、それはパクリだから…… 」
廉は、手元にある入部届けを鞄の中に押し込み、再び天音と向き合った。クラス替えの結果、もちろん廉とはクラスは離れ離れになってしまった。でも、それで良い。天音にとったら、とても動きやすくなった。廉とは、LINEで連絡のやり取りをしていけば良いだろうと考えたのであった。
入学式の会場に入るときらびやかな吹奏楽の演奏が鳴り響いている。多分、この人達は関係のないところからつれてこられたのだろう。次からは、このようなことがないように天音は良いことを思い付いたのだった。
天音は、上機嫌で吹奏楽部の演奏する曲を鼻唄で歌ったというが、これはまた別の機会の時にお話ししよう。
桜木学園高校吹奏楽部を救えるのは、乙坂天音1人であることが確定しているのであった。
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