富士宮 司

第1話 通学

 天音は、朝起きると机の上に透明な棒状のプラステックケースが置かれていた。中を確認してみるとプラステック製の指揮棒が入っていた。


「 昨日の夢は、本当だったんだ 」


 天音は、指揮棒の入ったプラステックのケースを鞄の中に入れた。

 その時だった。


「 天音、遅刻するわよ 」


 お母さんの声が、下の階から聞こえてきた。天音は時計を確認する。時間は、7時40分だ。いけない。入学式早々遅刻とか洒落にならない。

 天音は、急いでリビングに行くと食パンを食べ、お母さんの手製のコーンスープを飲み干し、天音は玄関に行く。


「 天音、今日から高校生ね。今日は、ディ

 ナーに行くから早めに帰ってきてね 」


「 うん、分かった。お母さん、行ってきます 」


 天音は、急いで家を飛び出す。


「 事故には気をつけてよね 」


「 分かってるわよ 」


 天音は、新しい制服に身を包み、学園へ行く道をゆっくりと歩く。新しい制服は、白を基調にしたブレザーと青と白のチェックをモチーフにしたスカートだ。多分、パンフレットを見る限り、男子も同じような感じだと思う。

 途中から気分が高まってきたのかスキップをしていると、後ろから聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた。


「 朝からそんなハイテンションだと後で疲

 れるぞ? 」


 天音が後ろを振り返ると、天音と同じような色の制服を着ている男子生徒が立っている。天音は、勿論彼の事を忘れたことはない。


「 廉 !! 」


「 よぉ、天音!! 小学校卒業振りだな 」


 彼は、春日井 廉。天音の幼馴染であり、今回通う桜木学園高校に入学する予定の生徒だ。彼は、エスカレーター方式でそのまま中学から高校に上がっているので、勿論のこと受験なんて一切受けていない。羨ましい限りだ。廉は、中学時代も吹奏楽部に入っていたらしく、ユーフォニアムを吹いているらしい。今は、続けているのか不安ではあるが…… 。


 天音は、廉に聞きたいことがあったので、その事を聞いてみる。


「 廉は、部活何に入る予定なの? 」


「 吹部。でも、今のところ悩んでる…… 」


「 どうして? 」


 廉は顔をしかめて以下のことを言ってきた。


「 噂で聞いたんだが…… 。桜木学園高校吹

 奏楽部は、呪われている 」


「 呪われてる?! どう言うこと? 桜木学園

 高校吹奏楽部は強豪校なんだよ!! 呪わ

 れる必要性なんて何も…… 。」


 廉は、首を横に振る。


「 ある日、突然退部届けも出さずに皆が部

 活に来なくなった…… 。皆が音楽から離

 れていった。新聞部やオカルト研究会の

 格好の的だよ。 」


「 でも、私は吹奏楽部に入る!! そして、

 皆を取り戻すんだ!!」


「 どうやってって…… 言われてもな

 ぁ…… 」


 天音が悩んでいると、綺麗な音色が聞こえてきた。風に飲まれてしまいそうだけど、芯のある力強いキラキラとした音色だ。


「 フルートの音色だな 」


「 フルート? 」


「 吹奏楽部に入るんだったら、それぐらい

 の知識ぐらい覚えておけ。 フルートは、

 クラリネットみたいに縦笛ではなくて横

 笛なんだ 」


 天音は、フルートの知識を習得した。しかし、天音はとあることに気がつく。


「 音が泣いている 」


「 はぁー? 何故、そんな事が分かるんだ

 よ!! 」


「 行かなきゃ 」


 天音は、フルートの音色のする方向に走り出した。後ろからは、いきなり走り出した天音を心配した廉が追いかけてきている。それでも行かないといけない。天音は、とにかく走った。

 すると、いつの間にかバラ園に到着していた。綺麗なバラとは異なり、もの悲しげなフルートの音色は、異様なものであった。

 そして、ついに見つけた。フルートを吹いているその主に…… 。同じ学校の制服を着ている男子生徒だ。彼の音色は、悲しく泣いている。何かに後ろめたさを抱きながら…… 。

 彼がフルートを吹いている間、天音は何も言うことが出来なかったのであった。

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