天音は音楽に恋する

鈴鹿歌音

プロローグ

 乙坂天音は、入学前日の夜とある夢を見た。

 光輝く舞台の上、キラキラと輝くトランペット・ホルン・トロンボーン・ユーフォニアム・チューバ。音楽の五線譜の上を跳ねるように踊るフルート・クラリネット・オーボエ・サックス。独特の味を醸し出すファゴット・バスクラリネット。躍動感溢れるパーカッションのリズム。

 ステージの上からは、たくさんのライバルたちと観衆が見えている。天音は、多分この高校の吹奏楽部のメンバーとしてコンクールに出ている夢だ。夢にしては、リアルすぎる? それは、あまり気にしない方が良い。

 曲は、クライマックスに向かって急・緩・急を繰り返し、音を紡ぎ合わせる。

 指揮者は、女の人だ。この人が、もしかすると天音の先輩にあたる人なのかもしれない。

 こんな音楽に恵まれているのなら、高校に入ったら吹奏楽部に入ろう、と天音は夢の中で誓うのである。


「 ……起きて…… 」


 ……ん? 何かしら声が聞こえる。


 先程見ていた夢に靄がかかり、何も見えなくなる。天音は、何らの悪夢だ、と考える。すると、目の前に先程夢の中に出てきた指揮者の女性が天音の前に現れた。


「ごめんなさいね。勝手にあなたの夢の中に現れて……」


「いえ、とんでもないです。どうして、夢の中で指揮を振っていたあなたが現れたのですか?」


 指揮者の女性は、困ったような表情をし、


「あなたに助けていただきたい事があります」


 と、言った。

 天音は、息をのみ女性を見つめる。


「 あなたに私たちの吹奏楽部を助けてほしいの 」


「 助けてほしい?何かあったのですか? 」


 夢にしては、リアルすぎる。これが、白昼夢ってやつなのかな?


「 あなたが今年入学してくる高校……桜木学園高校吹奏楽部は廃部の危機にあるのです 」


 桜木学園高校吹奏楽部……超強豪吹奏楽部だ。天音がこの学校を編入するために受けたのも、この吹奏楽部に入るためであり、死に物狂いで勉強したのを覚えている。

 なのに、廃部の危機ってどう言うこと?天音の頭の中にはてなが浮かんでは消えてを繰り返した。


「 何時からかは知らないんだけど、まるで呪われたかのように皆吹奏楽部に来なくなったのです 」


「 呪い……ですか? 」


「 はい、まるで何かに取りつかれたかのようだったの……だから、お願い!!私たち、吹奏楽部を助けてください。助けられるのは、指揮の力を与えられたあなただけだから…… 」


 指揮の力? どう言うことなんだろうか?天音にはよくわからなかった。

 しかし、朝が近づくにつれ、女性の姿が消えそうになっているのが分かる。

 天音は、決意した。桜木学園高校吹奏楽部の呪いを解くと……


「 分かりました。その話、受けます!! 」


「 有難うございます!! 後で学園で待ってますので…… 」


 女性の姿は跡形もなく消え去り、天音の意識も浮上していくのであった。

 天音の新しい高校生活は、ここに幕を開けるのであった。

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