第14話 【パルス】不都合な真実 その2

「いろいろあって、あんまり部活来れなくなるかもしれない。」と、僕が言うと川村は信じられないというような顔をしてから、遠慮がちに「いろいろって何?」と聞いてきた。僕はそれに明確に答えられない状況を誰より悲しく思った。




 そして、落ち着くことなどあるだろうかと思いながら「うん。落ち着いたら。言うよ。」と、答えた。




 川村は僕の答えに対して何か言いかけてから、「わかった。」と、言ったけれど、少しも納得した顔をしていなかった。山門から不穏なメッセージを受け取ったのは、他ならぬ川村だ。何かを察してくれたのだろう。


 詳しい説明を求められると覚悟していたから、安堵した半面、物わかりの良さに寂しさを覚えた。自分勝手なのは分かっている。結局は自分で解決しなければならないのだ。四の五の言っている場合じゃない。






 ゲームセンターの一件から数日後のある日、山門達に鞄を埋められた。


 事の始まりは、学校帰りに突然山門達が、僕の卒業した小学校に行きたいと言い出したことに始まる。


 勿論、断ったのだけれど、みるみる山門の機嫌が悪くなって来たので、仕方なく小学校に連れて行った。小学校は十六時に締まるので誰も居ない。




 はじめは高鉄棒でグライダーの距離を競って遊んでいたのだが、誰かが置き忘れたスコップが砂場に刺さっていて、山門が宝探しをしようと言い出した。




 何が始まるのかと思えば、宝は僕の鞄で、埋められた鞄を僕が掘り当てるというものだった。


 何がそんなに面白いのか嬉々としてゲームを始めた彼らは、僕の抗議など無視して、僕を拘束すると鞄を奪い砂場に埋め始めた。


「一分以内に見つけろ。」


 山門は木陰に腰かけて、僕が砂場を掘り返すのを見ていた。




 僕が鞄を掘り返すと、興味を失った様に何も言わず帰って行った。


 何がしたいのか分からない。


 砂だらけの鞄を抱えて家路を急いで、道の向こうに家の明かりが見えた時、僕は目を閉じて大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。






 今日も子分二人を引き連れて山門達はやって来た。


 そう、山門達は毎日やって来るようになったのだ。


 それは昼休みかもしれないし放課後かもしれないし、両方の時もある。


 その日は、昼食を終えてほどなくした頃、山門達はやって来て、おもむろに僕の席を取り囲んむと「聡く~ん。遊びましょ~」と、松本がおどけた声を出した。その後ろで山門はうすら笑いを浮かべている。




 僕は無意識に視線を走らせて、何人かが、こちらを見てから慌てて目をそらすのを確認してしまった。


 僕は何か断る理由を探したが、すぐさま山門はがっしりと肩を組んでくる。


 目が笑ってない。


 右ポケットの財布の中にいくら入っていたかを咄嗟に考えてしまう自分に、嫌悪感を抱く。


「今日は天気が良いから三階に行こうぜ。」


 池田が僕の脇に腕を入れて無理やり立たせようとした為、急いで立ち上がった。


「わかったから。自分で歩くよ。」


 はがいじめのまま三階まで移動するなんてごめんだ。僕は虐められてますと宣伝して歩く様なものだ。




・・・僕はいじめられています・・・。


 僕は自分の言葉に傷つく。


 僕を一番傷つけるのは僕の言葉だ。


 なんてことない。ばかばかしい。


 今日は何が始まるのか。


 嫌な予感しかしない。


 松本と池田のうすら笑いが、感に触るので出来るだけ見ない様にして歩く。




 僕は前後を挟まれて、階段を一列になって歩いた。まるで死刑囚の様な気分だ。


 僕等とは関係ないところで、女子の笑い声が聞こえる。


 バレーボールを上げる度に数字をカウントする声が聞こえる。


 誰かが廊下を走っている。


 僕は行く先に誰もいない事を願い、同時に誰かいてくれと思った。




 三階の音楽室の向こうは行き止まりになっていて、広いスペースになっている。校舎が階段状になっていて、三階は屋根が無い。


「ここらで良いか。」と山門は呟いて振り返ると、「聡君?例えば教養を深めようとするにも、ちょっと息抜きするにも、何をするにも金がいるだろ?」と、言った。


 やっぱり金の話だ。胃がきゅっと持ち上がる。


「水を飲むにも金がいる。米を買うにも金がいる。」


 そう言いながら山門はニッコリ笑って僕に二十センチ定規を握らせた。


 僕は定規と山門の顔を交互に見る。何のつもりだろう?


 僕の事などお構いなしに山門は喋り続ける。


「だけど僕等はいたいけな中学生。バイトも出来ない。そこでだ。正々堂々戦って勝った方が金をぶんどる。」


 定規を指差して「それ、お前の武器な。」と言った。


 山門君はポケットからカッターを取り出してカチカチと刃を出して構えた。


 訳がわからない。


「えっ?・・・僕は戦わないよ!」


 僕はすぐさま踵を返すが松本と池田が回り込んで構えた。三人はリーリーリーリーと言って僕の回りを回り出す。


 僕は定規を放り投げた。馬鹿げている。


「僕は戦わないよ。」


 腹が立つ。訳がわからない。なんなんだ。


 三人はバカみたいに笑っている。




 そのうち「問答無用!おりゃ~」と言って、突然山門が突っ込んで来た。


 鋭い痛みが右手にはしって僕はたまらず声を上げた。


「痛て!」


 カッターの刃が僕の手にあたったのだ。血がタタタタっと落ちて。コンクリートの床にシミを作った。


「あっ汚ったね!」と、山門は言うと、お得意のうすら笑いを浮かべている。


 人差し指がジンジンと脈打つ。


「何やってんだ、財布!財布!」


 山門の声で二人が僕を取り押さえに来る。抵抗してないのに乱暴に床へ取り押さえられて、両腕をねじりあげられた。


「確保!十二時三十一分!確保!」


 松本が警官の口調を真似て言った。


「止めろって!なんなんだよ。お前ら。」


 僕の抗議の声が虚しく響く。


「汚ね~なぁ~、大地を汚すなよ。」


 僕の声を無視して山門はカッターの刃を交換している。替刃を持ち歩いているのだ。


 心底気持ちの悪い奴だ。




「財布。」


 山門が言うと、池田の手が僕の右ポケットの財布を造作も無く奪う。


「うぇ~い。」


 財布は綺麗な放物線を画いて山門の手に渡った。


 三人はバカみたいに笑っている。


 何がそんなに面白いのだろう?早く予鈴が鳴ればいいのに。


「どれどれ~…はい二千円ゲット~」


 金を抜くと山門は財布を後ろへ、ポイッと捨てて「んじゃ、聡君。落ちた血を舐めろ。お前の血をお前に還す。」と言った。


「え?」


 訳がわからない。




 どうしてそんな事思いつくのだろう?僕の傍にしゃがんだ山門の目は笑って無い。


「ハハッ。」


 それに対して僕は思わず笑ったけれど、どうしてこんな奴に僕はこびへつらう様に笑いかけているのか無力感でいっぱいになった。


「ん?なんか可笑しいか?な~め~ろ~よっ!」


 山門が僕の髪を掴む。


 僕は口に力を入れて抵抗したが、グイグイ地面に顔を擦り付けられて、口の中に血味が広がった。


「止めろよ。痛い痛い!」


 眼鏡がコンクリートの地面に擦れて嫌な音をたてた。


 三人はバカみたいに笑っている。早く予鈴が鳴ればいいのに。


 三人はひとしきりバカみたいに笑うと「あ~。疲れた!戻ろうぜ。いい運動になったな。」と僕を残して歩き出した。




「僕は戦わないよ~」


 池田が声色を変えて突然言ったセリフが、さっき僕が言ったセリフだと気が付くと。起き上がる気力も無くなってしまった。


 池田はものまねが気に入ったらしく廊下に僕のものまねの声が響く。




 その間も僕の右人差し指はジンジンと脈を打つ。


 見ればもう血は固まり始めている。


 鼓動と共にジンジンと脈を打つ。


 なんてことない。ばかばかしい。


 僕は目を閉じて大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。


 得体のしれない何かが揺らめく。


 それは深い水の底に有るが、水面が揺らいで輪郭はつかめない。


 黒い影がユラユラと揺れている。それはマグマの様に動いている。


 少しづつ動いている。


 鼻の奥が痛くなる。なんてことない。なんてことない。ばかばかしい。




 仰向けになると、はるか上空をトンビが二羽旋回している。


 僕を見ているのかもしれない。今さっきまでの滑稽な様子を見ていたのかも知れない。


 間抜けなトンビの声と共に黒い影は沈んで行く。


 五限目の予鈴が鳴った。


 上半身を起こすと眼鏡が右に傾いた。フレームが曲ってしまったのだ。投げ捨てられた財布が向こうに見える。


 眼鏡を押し上げるが、すぐに下がって来る。


 何もやる気が起きない。


 あいつらの頭はおかしい。何がそんなに面白いのだろう?






 前例が出来ると前例が出来る前より確実にハードルが下がる。


 松本と池田は僕から金を巻き上げる事に躊躇しなくなった。


 彼らの中では僕は虐めてもいい人に成り下がったらしい。世の中に虐めてもいい人なんて居ないのだけれど、前例は経験として蓄積されて、その経験を生かすことにしたのだろう。


 要するに僕は対応を誤ったのだ。


 ではどうすれば良かったのか?そんなの考えても分からないけれど、誤ったという事実だけが明瞭に僕を追い詰めた。




 今日も三人は僕を迎えに来るだろう。


 山門は『関係は作るのも壊すのも、そいつ次第だ。』と言った。僕等の関係は構築されてしまった。今更無かった事には出来ない。


 考えても、考えても答えは出ない。だけど、考える能力があるのに考えない様にするのは、誰が考えたって大変だ。だから今日も僕は無駄だと分かっていても、考えずにはおれないのだ。


 僕は完全に袋小路に追い立てられている。






 毎日山門が僕を迎えに来るから、僕の数少ない友人の遠山と飯田があからさまに僕を避ける様になり、僕はぼっちになった。




 もしかしたら、川村が警告を受けた様に、彼等も何らかの警告を受けたのかもしれない。


 ある程度予想はしていたけれど、日が経つごとに精神的ショックが大きくて、何もかもを他人の目を通して見ている様に、現実の事として受け入れられなかった。


 僕は彼らに助けられ、知らず知らずに依存して生きていたのだ。


 でも僕に彼らを責める権利は無い。


 僕と関わったって良い事なんて何も無いからだ。


 僕だって僕に関わらない方がいいと思う。山門達の事を抜きにしたって、遅かれ早かれ圭の事件で、こうなっていたかもしれない。そう、事態が少し早まっただけだ。




 最近、圭もこんな気持ちだったのだろうかと考えるようになった。


 圭もこんな風に僕に助けを求めていたのか?


 どうにもならないと知りつつも、僕に、僕なんかにまで、助けを求めていたのだろうか?


 その時僕は何をしていた?


 馬鹿みたいに笑って無かったか?


 大丈夫だったか?


 病室で切り落とした、圭の髪を撫でる。


 手の中に納まるそれを見ていると、まるで圭自身が、こんなにも小さな存在になってしまったような気がして、心臓が収縮したきり戻らずに痛んだ。


 僕は目を閉じて大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。






「おい。」


 僕を呼び止める声に、また山門かと振り向くと、洋平が眉根を寄せて立っていた。


「聡。お前、佐々木とつるんでるのか?」


 ああ、ついに来てしまった。


 洋平になんと言い訳しようかと、なん通りもシミュレーションしたのに、いざとなったら言葉が出てこない。でも洋平にばれてしまったら母さんにばれたも同然なのだ。従って絶対にばれるわけにはいかない。


「洋ちゃんには関係ないだろう。」


 精一杯拒絶しなければならない。


「関係ないってなんだ!心配してやってんのに!」


「心配いらないよ。」


「お前。まさか虐められてるんじゃないだろうな?」


 何てことを言うのだろう!


 しかもそんな大きな声で!




 顔面が熱くなって、赤面しているのが自分でもわかる。


「なっ!そんな訳ないだろう!止めてよ!」


「本当か?」


 掴まれた腕が痛い。


「痛い!離してよ!」


 腕を振りほどくと洋平を睨み付けた。


「聡。」


 洋平は思わぬ反撃に驚いた顔をしている。


 洋平の単純な思考回路に腹が立つ。山門に筋肉脳と呼ばれている事も知らずに!


 もう、僕の事は放っておいて欲しい。


「何にも知らないくせに!偉そうに言うなよ!余計な事したら、一生許さないからな!」


「聡!おいっ!余計な事ってなんだよ!」




 僕は振り向かずに走った。


 きっと単純な洋平は、僕が不良になったとか、都会に憧れて馬鹿な奴だとか、見当違いなレッテルをはって、圭にした様に、僕を突き放すに違いない。


 腹が立つ。


 洋平にも、自分にも、腹が立つ。


 悪いのは山門だ。そんな事は分かっている。これは八つ当たりだ。


 どうしてこうなった?


 何がいけなかった?


 僕は目を閉じて大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。






 今日も本当に意味がわからなかった。体育館の倉庫でパンツを脱がされた。


 切れそうになったが、態度が悪いと言って、パンツは返してくれなかった。五時間目からノーパンで授業を受けなければならなかった。


 吐きそうだ。






 今日最悪なことがあった。


 山門が昨日僕から奪ったパンツを有村さんの机の中に入れたのだ。朝、教室についたら大騒ぎになっていた。


 僕は血の気が引いて倒れそうになった。


 有村さんは泣いていた。


 佐野さんが大きな声で「まさか中村のじゃないわよね?」と、言った時、僕はどんな顔をしていたのだろう?


「どうして僕がそんな事をしなきゃならないんだ。」と言い返したけれど、きっと挙動不審だったに違いない。




 僕のパンツはトイレの火ばさみでつままれて後ろの黒板に磁石で止められたけれど、それを見た佐野さんが里山からすごい勢いで火ばさみを取り上げると、パンツをゴミ箱にぶん投げた。


なぜか帰りに有村さんに謝られた。


「疑ってごめん。」と、言われたけれど、僕には返す言葉が無かった。だから何も言わずにその場を逃げるように立ち去った。だけど、その時の僕の態度は最悪だったと思う。


 人を思いやる余裕がない。






 出会い系サイトに登録したと山門に言われた。


 顔はギリわからないけれど制服でわかるんじゃないかと思う。


 ニュースで小学校の教師が四歳の男児にいかがわしい行為と撮影をした容疑で捕まったらしく、山門がこれで金を稼げるといっていた。


 どこまで本気かわからないけれど、サイトにあげたらすぐに反応があったらしい。


 世の中腐ってると思う。






 放課後の終礼中に、ふと廊下を見ると、一足先に終礼を終えた山門達が僕のクラスの終礼が終わるのを、うすら笑いで待っていた。


 目が合うと、頭から血の気が引く。あわてて目をそらすが、吐きそうだ。


 じっとりと汗をかく。


 何人かが廊下の山門達に気が付いて僕を盗み見る。




 僕は今この瞬間に世界中の人間が居なくなれば良いのにと思う。


 僕を見るな。


 終礼が終わると、山門達は僕の席へやって来て「買い物に付き合えよ」と言った。


「お金が無いよ。」と僕が言うと、「そりゃそうだ。」と言った。


 僕はギュッと拳を握る。


 何がそりゃそうだなんだろう?


 至極当然の理。


 僕だけ知らない理。


 何でも無い。何でも無い。大した事無い。至極当然の理。






 春には真新しかった制服が汚れて行くのを見て、僕は何とも言えない気分になった。少し大人になった証の様に思っていたから、制服が汚れていくのを見ては、証がはく奪されていく様な気分になった。


 僕は振り出しに戻る。何も出来ない子供。自分じゃ何も出来ない。何の権限も無い。戸惑う僕を僕が見ている。


 僕は少し戸惑っている。


 そうか、僕は少し戸惑っているんだ。








 ある日


 夕飯を食べ終えてみんなでテレビを見ていたら、電話が鳴った。


 母さんは、よそ行きの声で愛想よく電話に出てから、少し声を潜めて「幸ちゃん?どうしたの?」と、言った。父さんと爺ちゃんが居る時間に幸子さんが電話をかけて来る事は珍しい。自分が嫌われている事を知っていて、その事で母さんが何か嫌味を言われてやしないかと一応気にしているのだ。


「妊娠した?」




 妊娠と言う言葉に、テレビを見ていた僕等は一斉に受話器を握る母さんを見つめた。


 母さんは口を開けたまま、何も無い空間を見ている。


 妊娠?


 圭が死にかけているというのに幸子さんは妊娠したと言うのか?


 相手は宗教家だろう。


 離婚の話は立ち消えになってしまったのか?


 僕は天を仰ぎ見てから膝を抱えた。




 圭は捨てられた。


 圭は捨てられた。


 圭は捨てられたのだ!


 いつか圭が言っていたじゃないか、『私と宗教家どっちを選ぶか、母さん次第なんだよ。』と、圭はそう言っていた。




 そして今、驚くべき答えが出たんだ。


 あの言葉は勝算があっての発言だろう。まさか自分が捨てられるとは思っていなかったはずだ。


地獄だな。


 今この瞬間に、圭が目を覚ます事を切に願っているのは一体何人いる?


 今この瞬間に、圭が目を覚まさない事を切に願っているのは一体何人いる?




「圭。」僕は心の中で呼びかけた。


 お前は戻って来るべきだ。


 この地獄の惨状に戻って来て拳をあげて抗議すべきだ。


 味方は僕しか居ないかもしれないけれど、負けたっていいじゃないか尊厳の問題だ。


 このまま良い様にさせておくのか?


 僕は暗い自室に戻ってベットに倒れ込んだ。


「圭。」僕はどうすればいい?


 僕は追い詰められている。


 世界の人口は増えているそうだけど僕等はどんどん孤独になっていく。


 圭は、ずっと、こんな気持ちを抱えて生きていたのだろうか?


 いつから、こんな気持ちを抱えて一人きりで生きていたのだろうか?


 圭は強いな。僕にはとても耐えられそうにない。


 ここで中村聡という僕が、息をして、あるいは息を殺して、眠って、眠れなくて、拳を握ったり、開いたりして、生きている。生きたまま死んでいる。






 地獄の釜の蓋はいつ開いた?


 僕が気が付かなかっただけで、もっとずっと前から開いていたのかもしれない。


 ペットボトルのキャップを開けるくらい簡単に開いて、誰も閉め方がわからない。


 たぶんもう閉らないのだと思う。






「もうこんな事は止めてよ。」


 僕は何度目か分からないセリフを山門に言った


「お前は原因を考えたのか?」


「山門が僕の事、嫌いなだけだろ?」


「お前の事は嫌いだが、嫌いな奴は他にも居る。」


 どういう事か分からないけれど、どういう事か山門に問うのも疲れた。


 僕に非があるとすれば、圭に近づくなと言った事だが、あれから何カ月も経っている。


 原因は他にあるに違いない。


「山門。言ってくれなきゃ分かる訳ないだろう?」


「考えろ。」


「考えたよ!」


「いいや、お前は考えてない!」


 声を荒げて言った山門の顔は何故か苦しそうだった。


 一体、僕は何を考えていないのだろう?

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