第8話 【パルス】転校生
圭は三日遅れで学校へ来た。
圭と圭の両親と学校側で話し合いが行われた。
学校には卒業生からの寄付で制服のストックがあるらしく、燃やしたはずのセーラー服はまた圭の家に持ち込まれたらしいが、燃やしたという事実は衝撃を持って先生達に伝えられて、着用は無理強いしないという事になったらしい。
そしてクラスには家庭の事情で制服は着用しないと先生から説明があったらしいが、先生は詳しく触れられたくない様子で、早々に話を打ち切ったという。
圭のクラスの担任は理科担当の近藤先生で、見るからに内気な性格で、いつもネクタイにアーガイルのベストを着ている、良く言えば真面目な人で、悪く言えば融通の利かない人だ。
生徒の心情を慮って気配り出来る器用なタイプじゃない。
上下黒のジャージで登校した圭は針のむしろの様な状態をもろともせず、何事にも関心が無い様に見えた。あれではますます孤立を深めてしまうと思ったが、では他にどうすれば良いかなんて思いつかない。
うわべだけ取り繕う様な愛想を振りまける性格じゃないし、もうそんな段階じゃないのだ。
同じ小学校の奴等は圭の爺ちゃんの葬式も宗教の事も知っていて、関係はこれ以上ないくらいにこじれている。関係が悪くなる事はあっても、良くなる事は無いだろう。
だけど僕は知っている。
あのポーカーフェイスの下に、暗い炊事場で泣いた圭を知っている。
堅固な壁の中で一人孤独に耐えているに違いないのだ。
入学式から二週間ほど経ったある日、圭の制服きっかけで騒ぎになった。
女子生徒の一人が圭に、何故制服を着てこないのかと、問いただしたらしく、その返答が性同一障害だから仕方が無いのだと、まるで天気の話をするように圭が話したので、騒然となったそうだ。
圭と同じクラスに川村が居て、パソコン部に移動中に教えてくれた。
それからますます腫れ物に触る様に誰も話しかけなくなって、圭は完全にそこに無き者として扱われている様だった。
五月、体育祭の翌週に転校生が圭のクラスにやって来た。
都会に出て行って戻って来ない者がほとんどのこの村に、転校生が来たのだ。
しかも東京からの男子と聞いて女子達の浮足立った様は凄まじく、正直呆れてしまうほどに酷いものだった。偵察から戻って来た者の中には興奮冷めやらぬといった感じで、手を叩いてぴょんぴょんと飛び跳ねながら、話している子もいる。
確かに田舎にイベントは少ないけれど、いくらなんでも騒ぎ過ぎだと思う。転校生が気の毒だ。会話から漏れ聞こえて来る感じでは、どうやら男前らしい。
前に座っている遠山が「どうして女子じゃないんだよ。」と嘆いた。
女子が転校して来たとしても僕等には関係ないよ、と思ったが口に出して言うのは止めた。遠山は本気で彼女が欲しいのだ。
女子の見立ては眉唾物だと思ったが、本当だとしたら都会の男前がこんな田舎でやっていけるものかと毒づいてから、僕も遠山とそう変わらないなと思った。
男子共は通夜の晩の様に押し黙り、死んだ魚の様な目を向けている。
男としては気になっていても女子達と一緒に偵察に行く訳にはいかないのだ。
幸いにも僕には川村という心強い友達が二組にいる。
放課後になって、パソコン部の扉を開けた川村に早速、転校生の事を聞いてみた。
川村はパソコンを立ち上げると、少し考えてから、こちらに視線を寄越して一言「関わらない方が良いと思う。」と言った。随分な意見に僕は少し驚いた。
「どうして?仲良くなれそうもないの?」
「無理だね。何て言うか。都会の空気をまとってる。」
都会の空気?高層ビルと人ごみという漠然としたイメージしか沸いてこない。
「上手く説明できないけど、見たらわかると思うよ。」
川村が受けた印象は良くないらしい。
隣のクラスなのだから、慌てずとも、時期に見かけるだろうけれど、学年で一番かわいい伊藤さんと付き合う事になったら嫌だなと思った。別に伊藤さんが好きな訳じゃないのだが、都会の男に伊藤さんを奪われるのは何だか面白くない。
「ふーん。でもさ。びっくりしたよな?転校生なんて都市伝説だと思ってたよ。本当にあるんだな。」
パソコン部の新入部員は僕と川村だけで、先輩を入れて総勢五人。
もちろん全員男子だ。全く女っ気が無い。
こんなに人気が無いと思っていなかったので、少し驚いたが、僕には居心地の良い時間と空間だ。
花形のサッカー部やバスケ部の様な派手さは無いけれど、みんな技術習得に真剣に取り組んでいる。上下関係もゆるく、先生も滅多に顔を見せない。
課題も文化祭に展示する作品を自分のペースで作ればいいというもので、僕はもっぱら専門書の手引き通りにプログラムを組む練習に勤しんでいた。分からない事は川村が教えてくれる。
残念なのは、この一カ月ほどでサッカー部の洋平とはグループが離れてしまった事だ。共通の時間を共にしないと、共通の話題は生れない。
「でも、村上にとっては良かったんじゃないかな。」と、川村が言った。
「どうして?」
思っても無い事を言われたので、声が大きくなってしまった。
圭と転校生に何の関係があると言うのだろう?
「だってさ、一人だけ目立ってたけど、しばらくは佐々木に注目が集まるだろうし。聡のクラスからも女子達が見に来てたよ。」
「なんだ、そういう事か。確かに、それは有るかもな。転校生がかわいそうになったよ。男前なんだろ?」
「どうかな。雰囲気だけだと思うけど、テレビに出てきそうな奴だよ。」
「ふーん。」
川村は僕と話すようになってから、圭の事を少し気にかけてくれている様だ。
洋平達の様に縁を切れと言って来ないし、圭の悪口も言わない。それだけで僕は嬉しかった。
春祭りの時に圭に向って『異教徒』と叫んだのは洋平の兄貴の友達らしい。僕は気が付かなかったけれど、川村もあの現場に居合わせて、叫んだ本人のすぐそばに居たのだ。
「圭は、相変わらず?」
「うん、まぁ。透明人間だよ。でも、女子だからな。陰で何をされてるか分からないよ。」
そうなのだ。女子の関係性は僕等男子にはいまいち分かりにくい。
「でも、体育祭でリレーのアンカーに選ばれてたよな?」
圧巻の走りで一位でゴールしたのだ。あれは見ていて気持ちの良いものだった。小さい頃からサンダル履きの圭にさえ勝った事が無い。
「あれはタイム順で先生が勝手に決めたんだよ。自主練に参加させてもらえて無かったと思うよ。」
「えっ?そうなの?」
知らなかった。
そんな事圭は言っていなかった。てっきり、みんなで決めたと思っていた。
一番盛り上がるリレーのアンカーをクラスで透明人間扱いされている奴が奪ってしまったら、面白くないだろう。
「それで、あんまり盛り上がって無かったのか・・・。」
走る事に関しては認められたのだと思って、少し安心していた僕は馬鹿みたいだ。先生も余計な事をしたものだ、一位だったから良かったものの、男子みたいにこけていたら、何を言われていたか分かったものじゃない。
川村のタイピング音を聞きながら、点滅するカーソルを眺めた。
コードを書き終えたが正常に作動しない。
何処かが間違っている。
後日廊下ですれ違った佐々木は、なるほど確かに都会の空気をまとっていた。
髪型が左右不対象のツーブロックで、右の前髪が長い。
どんな風にオーダーしたらあの髪型に仕上がるのだろう?たぶん駅前の床屋では、あの髪型をキープ出来ないと思う。
それにドラマでしか見たことが無いような学生パンツの穿き方をしている。
片方の裾を折って左右で丈が違うのだ。足首にプロミスリングを二本付けている事も、長財布がケツポケットからはみ出ている事も、歩く度に皮のチェーンベルトが揺れるのも、何から何まで都会の風は衝撃的だった。同じ制服を着ていると思えない。
日本に住んでいて、こうも文化が違うものなのかと、地域格差を目の当たりにした気がした。
中でも一番衝撃的だった事は、すれ違うと女子より良い匂いがするのだ。何か香水をつけているのかもしれない。
川村の言う通り関わらない方が良いだろう。
佐々木は良くも悪くも目立ち過ぎる。都会人に舐められまいと、田舎のヤンキーに難癖を付けられるかもしれない。
田舎には沢山ヤンキーが居るのだ。
しかし、一カ月経っても佐々木がヤンキーに絡まれている様子はなかった。
それどころか取り巻きが着こなしを真似る様になった。しかし田舎者の付け焼刃の猿真似は、滑稽で見ているこっちが恥ずかしい。どこかあべこべで恰好が付かない。自分で切ったであろう不対象の髪型は、もはやギャグの域に達していた。
佐々木の詳細な情報は、新聞記者顔負けの正確さで伝わって来た。
それによると、正しくは東京では無く横浜から来たそうで、親が離婚して父親と二人で実家のある隣の地区に帰って来たらしい。家はシイタケ農家で父親が後を継ぐそうだ。兄弟は無く、サッカー部に入った。
同じサッカー部の洋平は腹が減ってる牛みたいに首を振って機嫌が悪い。
どうやら熱血漢の洋平もまた、佐々木を良く思ってないらしい。
僕はと言えば佐々木に不思議な感情を抱いていた。
佐々木は圭の事をよく見ているのだ。
圭に話かけている場面に出くわす事もある。初めは何か嫌な事を言われたり、されたりしているのでないかと心配したが、圭曰く他愛もない話を一方的にするらしい。
これに僕は激しく動揺した。
初めての感情に、どう向き合ってよいのか戸惑うばかりで、感情が着いて来ない。
佐々木が一体どういうつもりで圭に付きまとっているのか全く理解できない。何のメリットがあると言うのだろう?
もちろん佐々木は圭の性障害の事を知っててやっているのだ。どう考えても親切心から圭に話しかけている様に思えない。かと言って実害が無いから本人に抗議に行くことも出来ない。
そうこうしている内に、佐々木と圭が笑い合っている場面に遭遇した時、僕は落雷を受けて絶命した脳の悲鳴を聞いた気がした。
そして、気持ちの悪い餓鬼が傍に来て、僕に言うのだ。
『お前が居ないのに随分楽しそうじゃないか?』
稲妻を受けて死んだのは僕の良心かもしれない。
いつの間にこんなに嫌な奴になってしまったのだろう?
自分の事を特別良い奴だとは思わないが、バランスのとれた人間だと思っていた。
これはただの嫉妬ではないか?
圭には僕が付いててやらないと他に頼る奴も居ないし、閉じこもりがちな圭と世間の橋渡しを買って出たつもりだったのだ。圭の事を思い、圭の為を思っていたはずなのだ。
ただの支配欲だったのだろうか?
僕はスマートフォンの画面を睨んで書きかけの文章を削除した。
『佐々木と何を話していたの?』
何を話していたっていいじゃないか。
僕と圭は物心つく前からの知り合いなんだ。佐々木なんて気にする事は無い。僕の方が信頼を得ているはずだ。アイツに一体何が出来る?何も出来やしないさ。
それに女子達が黙っている訳がないのだ。最下層の奴に王子様を撮られて面白いはずが無い。圭に対する風当たりがきつくなるのは必至だろう。そうすれば佐々木も圭に話しかけなくなるはずだと思って、何て嫌な事を思いつくのだろうと、自分が嫌になった。
そんな事を思い悩んでいたある日の昼休み、廊下を歩いていると、トイレの前で圭と数人の女子がにらみ合っていた。
「あのさ、村上さん。もうちょっと周りと合わせて行動できないの?世界の不幸を一身に背負ってますって顔してるけど、皆を巻き込まないでくれる?性障害か何か知らないけれどさ、それってそんなに偉い訳?不幸を振りまいているのよ?自覚してるの?」
山田さんは話している内に興奮して来たのか、段々と声が大きくなっていく。
こちらに背を向けて立っている圭の声は聞こえない。
「だったら、もうちょっとやる気を出してよ!村上さんのせいで皆迷惑してるの!分るでしょう?私たちは普通に!楽しく過ごしたいの!ふつうに!」
それは暗に圭が普通では無いと言っている様で、僕は嫌な気分になったが、僕もそう思っているのだろうか思うと、また、やるせない気分で僕は足を止めた。
圭は何と答えたのだろう?
「それと村上さん!前から思ってたんだけどさぁ。村上さんは男なんでしょう?女子トイレを使うのはまずいんじゃない?私たちも気になるし。ここのトイレは使わないでくれる?」
僕は何か言わなければと思って圭に駆け寄った。
山田さんと目が合って僕が息を吸い込んだ矢先、僕の横から佐々木がぬっと現れると、「職員用のトイレを使わせてもらえる様に、先生に言ったらいいじゃん。俺が言ってやろうか?交渉事は割と得意なんだ。」と、言った。
『交渉事は得意なんだ?』
思わず佐々木を睨み付けたが、佐々木は僕の肩に手を置くと、「なっ?」と親し気に僕に向って同意を求めて来た。
これまで会話もしたことが無かったのに、あまりの急展開に驚いて周りを見ると、皆がこちらを見ている。
「えっ?あっ!嗚呼。」と慌てて頷くと、僕の様子を見て佐々木は満足そうに笑った。
「村上も良いよな?」と、話を勝手に進める。
なんて強引な奴だろう。
圭は僕にどういう事かと訝しげにこちらに視線を寄越したが、僕だってさっぱり分からない。
「じゃ、そういう事で、良いかな?山田さんだっけ?」
佐々木の投げかけに山田さんは、少し目を見開いたがすぐに無表情になって「いいんじゃない?お互いに気を使わなくて済むし。」と、言うと行ってしまった。
気のせいか気落ちした声だった様に感じた。
「見たか?今の顔?俺に名前を憶えられてなくて、怒ったんだよ。じゃ、後は上手くやれよ。俺は何もしないから。」
佐々木は、僕の目を覗き込む様に見てから、頭の先から足の先まであからさまに僕を眺めると、馬鹿にしたように口角を上げて、行ってしまった。
露骨に品定めされた気がして驚いた。
交番に居る駐在員だってあんな目をしないと思う。都会ではあんな風に人を値踏みするのだろうか?
「聡。」
圭がこっちへ来いと、少し先で僕を手招きしている。
僕等は人目に付かない体育館へと続く道を歩いた。
「いつの間に佐々木と仲良くなったの?」と、剣のある声で圭が聞いて来たが、こっちだって分からない。
「さあ?僕も知らないよ。まともに話したのは初めてだよ。」
「そうなの?知ってる風だったけど?」
「うん。びっくりした。」
圭は探偵みたいに顎に手を当てると「佐々木は本当によく分からないな。」と、呟いた。
「圭も分からないの?」
「うん。まぁ、佐々木も色々あるみたいだけど。よく分からない。」
色々あるって何だろう?
佐々木は圭に悩み相談でもしていたのだろうか?
いつも何を話しているのか、さり気なく聞けるチャンスではないかと思ったが、先ほどの佐々木の目が、気になってしょうがなかった。
「トイレの事は僕等でやれってさ。職員トイレは遠いけど、言うだけ言ってみようよ。」
「嗚呼、うん。それは良いんだけどさぁ。まぁ、そうだね。」
「うん。僕も一緒に言うよ。」
「いいよ。一人で大丈夫。トイレの事だし。」
「そ、そうか。そうだな。」
「うん。ありがとうな。じゃ。」そう言うと、背を向けてしまった圭の肘を咄嗟に掴んでしまった。
何故だかこのまま行かせたくない。
「圭。待って。ちょっと話そう!最近話せて無かったし。」
言ってしまってから恥ずかしさで、どうにかなりそうになった。僕は何を言っているのだろう?もっと他に言いようが有るだろうに!
頬が火照って来た。
振り向いた圭は、真剣で、寂し気で、よくわからなかった。
「駄目だよ、聡。誰かに見られたら聡まで嫌な目にあうよ。」と、言って首を振った。
祭りの日、参道で振り向いた時の様に、来てくれるなと言っていた。
「・・・嫌な目にあってるの?」
「・・・大した事じゃないよ。」
それは何処まで行ったら大した事になるのだろう?
永遠に大した事になる日は来ないのではないだろうか?
「嘘だ。」
僕の言葉に圭の目が揺れたのを見逃さなかった。
だけど圭は「大丈夫。何かあったら相談するよ。」と、言うと顔を伏せてしまった。
待っていたって圭は僕に相談なんてしてこない。
「佐々木には相談出来て僕には相談できないの?」
顔を上げた圭は本当に驚いた顔をしていた。
「なんで佐々木が出て来るんだよ?・・・聡、ちょっと変だぞ?」
僕は変だ。
さっきから変だ。僕を選んで欲しい。佐々木じゃなくて僕を選んで欲しい。
圭の為なんかじゃなく誰の為でも無い。
僕の為に僕は今、喋っている。
「佐々木とは話さない方が良いよ。アイツ女子から人気があるから、山田さん達も面白くないんだよ。」
嘘だ。僕も嘘をついている。
僕は圭に佐々木とは二人きりで話してほしくない。圭の味方が一人増えようと、今よりも事態が好転しようと、僕が嫌なんだ。
「・・・分かってるよ。」
そう言った圭が何を分かっていて、何を分かっていないのか、僕にはまるで分からなかった。
「分かってるならいいんだ。・・・ごめん。」
「うん。じゃ、また、連絡するから。あんまり心配しないで。」
圭が行ってしまうと、ため息が出た。
あんまり心配しないでとは、どういう意味だろう。拒絶された気がする。
一人残された薄暗い廊下でたたずんでいると「酷いなあ。」と、真後ろで声がしたので、心臓が痛いほどに跳ね上がって、思わず大きな声を上げてしまった。
人が居るとは気が付かなかった。
振り返った先には、さっき退散したはずの佐々木が、ポケットに両手を突っ込んで、まるでカメラマンの前でポーズをとっているモデルの様に僕を見ていた。
一番聞かれてはいけない奴に会話を聞かれてしまった。
佐々木は、圭に佐々木と二人で話すなと言った事を酷いと言っているのだ。だけど佐々木の顔は憤慨するどころか不気味に笑っていて何だか怖い。何が可笑しいのだろう?
「内緒話をする時は周りを良く確認した方がいい。」
そういう佐々木の口角は上がっているがよく見ると、目が笑っていない。
「聡君は圭ちゃんが好きなんだね?」
「なっ?」
?聡君?圭ちゃん?
「圭ちゃんも圭ちゃんだね。聡君の気持ちを分かってて利用してるんだ。がっかりだな。高潔で純潔な圭ちゃんにも自尊心はあるって事か。」
何だって?
何に対してがっかりしているって?言っている事がまるで分からない。
「さ、佐々木!」
「ん?何だよ?」
「違うんだ!佐々木と喋ると圭が山田さん達に嫌な目にあうんだよ。」
「どんな目に合っているか知らない癖によく言うなぁ。」
「えっ???ど、どう言う事?」
「俺は田舎者と違って親切じゃないからね、そんなの自分で調べろよ。それに俺の行動を他人に制限されたくないし。」
「制限するつもりは無いけど・・・でもそうか、制限する事になるか・・・だけど、圭はちょっと違うから、協力って言うか、佐々木はモテるし友達もいるし、佐々木は困らないだろう?」
「圭ちゃんはちょっと違うの?圭ちゃんは普通じゃない?」
「えっ?」
「さっき山田さんが言ってたじゃん。私達は普通に過ごしたいって、圭ちゃんは普通じゃない?要は、聡もそう思ってるって事だろ?」
「えっ?何が?」と、答えながら、呼び名が君付けから、もう呼び捨てにされた事にも驚いてアタフタしてしまう自分が嫌になった。
「何だよそれ?」
一歩近づいた佐々木は、やはり怒っている。
「えっ?えっ?」
「聡が嫌なんだろ?俺と圭ちゃんが楽しくおじゃべりする事が!だからあんな事を言ったんだろ?案外、恩着せがましいんだな?」
「・・・。」
まともに図星を付かれて頭に血が上った。
佐々木が放った矢は僕の脳天を綺麗に打ち抜いてしまって反論の余地は無い。だけどどうしようもなく腹が立って手が震えた。
「違う!そんなんじゃ無い!何だよ、さっきから!何も知らないくせに!」
そうだ!何も知らないじゃないか!僕の事も!圭の事も!
「本当の事を正面突破されると、たいていの人間は怒り出すものなんだよ。当てずっぽうに言ってみるもんだな。」
「何だよそれ!」
僕はとうとう声を荒げて怒鳴ってしまった。
だけど僕の体は意図せず一歩後ずさった。
佐々木は降参だとばかりに両手を広げると「ごめん。ごめん。今のは嘘だ。当てずっぽうじゃない。聡君は自分が普段どんな顔をしているのか自覚したほうが良いと思うよ。からかった事は謝るよ。でもそれ以外の事に関しては謝らない。必要が無いからね。」と、言った。
まるで芝居がかっている。
何だコイツと思うと同時に不思議と、怒りがスポイトに吸い取られたみたいに引っ込んだ。
佐々木は厨二病に違いない。
こんな風にしゃべる奴なんて漫画の中でしか見たこと無い。まともに相手にしない方が賢明だろう。
「・・・。」
「いいか?俺に命令するな。分かったな?」
また一歩近づいて、佐々木が僕の肩を突いた。
「痛て!」
よろける僕を転がっている石ころを見るみたいに一瞥すると「またな。」と言って圭が去って行った方向へと歩いて行った。
「・・・またなんて、無いよ。」
僕は名一杯虚勢を張って言ったが、それは佐々木の足音が聞こえなくなってからだった。
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