(3)おめでたい知らせ

 友之と義則が、まだ帰宅していない時間帯。先に夕食を食べ終えて真由美と共にリビングに移動した沙織は、お茶を飲みながら考え込んでいた。


(何だかね……。この何日か友之さんの様子が変って言うか、何か物言いたげにしていると言うか。挙動不審まではいかないにしろ、何となくすっきりしないのよね。仕事上では、特に問題は無いみたいだけど)

 この何日かの友之の様子を思い返しながら沙織が無意識に眉間に皺を寄せていると、向かい側のソファーに座っている真由美が、不思議そうに声をかけてくる。


「沙織さん、随分難しい顔をしてどうしたの?」

「あ……、いえ、何でもありません。そう言えば、明日の夕食は要らない事は、伝えておきましたよね?」

 問いかけで我に返った沙織は、慌てて明日の予定を持ち出して話題を逸らした。それに真由美が素直に頷く。


「ええ、聞いているわ。沙織さんの結婚祝いの会なのよね? でも友之は、祝って貰えないのよね? この前義則さんにぶちぶち文句を言っていて、思わず笑ってしまったわ」

 そう言ってからその時の様子を思い出したのかクスクスと笑い出した真由美を見て、沙織は苦笑いの表情になった。


「はぁ……。まあ確かに、世間一般の結婚祝いの席とは、趣が異なる事は確かですね」

「良いじゃないの。お祝いの席を設けると言ってくれているのだし、お友達と楽しんできて頂戴」

「ありがとうございます。……っと、ちょっと失礼します」

「ええ」

 スラックスのポケットに入れていたスマホが無音のまま振動を伝えてきた為、沙織は真由美に断りを入れてからそれを取り出し、その内容を確認し始めた。しかし豊からの連絡だった事を確認した沙織は、如何にもうんざりした口調で独りごちる。


「うわ……。豊ったら、何をやってるのよ……」

 反射的にそう呟いてから、沙織は即座にディスプレイ上で指を滑らせ、即行で豊に返信した。そして再び、しみじみとした口調で愚痴めいた呟きを漏らす。


「はぁ……、限度とか節度とかいう言葉の意味を知っているかどうか疑わしい身内を持つと、本当に頭が痛いわ……」

「沙織さん、お兄さんがどうかしたの? 何か緊急の用だったら、私に遠慮せずに連絡を取ったり出掛けて良いのよ?」

 この間、黙って沙織の様子を観察していた真由美が真顔で申し出たが、沙織はあっさり首を振った。


「それは大丈夫です。急を知らせる内容ではありませんでしたから。兄から送られてきたメッセージが、いつものそれとは雲泥の差の頭のネジが何本も抜け落ちたような、あまりにも馬鹿っぽい内容だったので。取り敢えず文面で叱っておきました」

 それを聞いた真由美が、意外そうな顔になって問い返す。


「あらまあ……。以前お会いした時は冷静沈着な方に見えたけど、何かあったの?」

「義姉の柚希さんに子供ができて、今、八週目だそうです」

 沙織が極めて事務的に報告すると、真由美は明るい笑顔になりながら感想を述べた。


「まあ! それはおめでたいこと! お兄さんは、よほど嬉しかったみたいね。良い父親になるんじゃない?」

 それに沙織が溜め息で応じる。

「嬉しいのは分かりますが、浮かれて騒ぐにも程がありますよ……。絶対に騒ぎすぎて、柚希さんに迷惑をかけたり嫌がられていると思いますので、少ししたら直接電話で柚希さんと話してみます」

「妹としては、兄の不始末のフォローしておかないといけないのね?」

「そういう事です。愛想を尽かされたら困りますので」

 そこで女二人は顔を見合わせ、楽しげに笑い合った。それから少ししてリビングから自分の部屋に引き上げた沙織は、早速柚希に電話をかけた。

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