(4)ダメダメな女
「ぶわははははっ!! 関本、お前っ! 男の話かと思えば、猫の話だったのかよ!」
「猫っ……、振られたって……」
「先輩、何事かと思いましたよ。別に良いじゃないですか。野良猫の一匹や二匹、来なくなったくらいで」
朝永は腹を抱えて爆笑し、友之は口を押さえて必死に笑いを堪え、佐々木は心配して損したとでも言わんばかりに呆れ果てた口調で応じた。それを聞いた沙織が勢いよく頭を上げ、目を血走らせながら盛大に言い返す。
「何言ってるのよ! ジョニーはそんじょそこらの猫なんかじゃ、太刀打ち出来ない猫なのよ! ジョニー・ディップ並みにキリッとしてどことなく陰があって苦み走った、近来稀に見るイケメンならぬイケネコなんだから!!」
「イケネコっ……」
「駄目だ、こいつ」
大真面目に主張する沙織を見て、友之は益々笑いの発作に襲われ、朝永は笑うのを通り越して盛大に溜め息を吐いた。すると佐々木が、迷わず友之を指さしながら沙織に尋ねる。
「じゃあ先輩、社内一のイケメンと言われている課長と比べたら、先輩はどっちが好みですか?」
「ジョニーに決まってるわ!」
その即答っぷりに、思わず友之は笑いを収めて遠い目をしてしまった。
「そうか……、ジョニーはそんなにイケネコなのか……」
「課長、微妙にプライドが傷付いてますか?」
「いや、猫と張り合おうとは思わない。次元が違い過ぎる」
「そうですよね……。佐々木。いらん質問をするな」
「すっ、すみません、課長!」
慌てて佐々木が謝っている間に、沙織は再びテーブルに突っ伏して声高に叫ぶ。
「ジョニ――! カ-ムバ――ック!!」
「もう黙れ! この酔っ払い!!」
「いった――い! 暴力反対ぃ――!」
朝永が本気で彼女を小突き、益々収拾がつかなくなってきたところで、もう既に十分店に迷惑をかけていたのが分かっていた友之は、通りかかった店員を呼び止めた。
「お騒がせしてすみません。そろそろ引き上げますので、お勘定をお願いします」
「うわぁ……、ここまでダメダメな関本先輩、初めて見た……」
朝永に延々と説教されている沙織を眺めながら、佐々木は彼女に対する尊敬の念が、一部崩壊しかかっているのを自覚した。そして友之は会計を済ませながら店員にタクシーを呼んで貰い、すぐ目の前の通りにやって来たそれに微妙にふらついている沙織を乗せてから、背後を振り返る。
「それじゃあ、お疲れ」
「すみません、課長。そいつをお願いします」
「ああ、大丈夫だ。俺は大して酔ってないからな。明日もあるし、二人とも気を付けて帰ってくれ」
「はい」
「失礼します」
そこで友之達が乗り込んだタクシーを、二人は見送った。しかし佐々木が、何やら不安そうに言い出す。
「大丈夫かな……」
「課長がついているし、大丈夫だろう。課長は紳士だしな」
「いえ、そういう意味ではなくて……。先輩がこれ以上、課長に対して失礼な事を口にしたり、やらかしたりはしないかと……」
それを聞いた朝永は一瞬黙り込んでから、タクシーが走り去った方角に目をむけた。
「やっぱり、一緒に送っていくべきだったか?」
「もう手遅れです。俺達も帰りましょう」
「そうだな」
若干の不安要素はあったものの、ここで悩んでいても仕方が無いと割り切った二人は、自宅に向かってゆっくりと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます