【片隅04】熊本発九州限定発売の文芸誌

k.m.joe

第1話【片隅04】評

東京生まれで、戦後熊本に移住されたSF作家光波燿子さんの「黄金珊瑚」は絶品。


「人間家畜テーマ」というらしいが、じわじわと巨大化していく「結晶体」に人間たちが支配されていく。出会う人々をどこまで信用していいのか、自分自身は侵されていないのか。疑心暗鬼の世界が展開する。描きようによってはホラーなのだが、柔らかい文体で淡々と表現されているので読者自身が光波さんの世界に良い意味で自然とはまっていく。謎を含むラスト。


豆塚エリさん「ドールハウス」。自殺願望の強い主人公が死にきれず車いす生活となる。献身的な弟の介助で生活している。見ようによっては甘えのカタマリの主人公なのだが、彼女の目線で世間を見ていくと、特殊なようで腑に落ちる。


熊本にも面白い書店が増えつつある。その一つ、ポアンカレ書店の牛島漁さん「160人」。チャラそうな文章の流れにグッと締まる一文が組み込まれて、全体のリズムも含め読み甲斐あり。


高橋啓さん「ニコラ・ブーヴィエの詩」は、放浪の詩人、紀行作家ニコラの人物像への興味が尽きない。結局、詩人・作家というカテゴリーを超えた「放浪人」なのだろう。


絲山秋子さん「プログレ沼」は、マニアックな人種に共通の世界観が窺える。沼から抜け出せないのだはなく、抜け出さない。そこから世界を観察していく。と書くと大上段な感じだが、ペーソスと言えばいいのか極めて人間的な悲哀が描かれていると思う。もちろん哀しみに終始するのではなく、秘めて愉しむ心の充実感につながっている。舞台のバーも雰囲気良い。

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