第6話練習試合(4)
「そもそも、人間」エリザベート・バートリは語り出す。
「貴様に力を貸したところで、妾に利益があるのか?」
外見は確かに、簪刺 後後路。だが―彼女の黒かった瞳は赤くなり、歯も鋭くなっていた。
「妾はやらぬ。貴様らに貸しなど作らぬ。妾は人間を信用できぬ」
「いや、アンタには、力を貸してもらう。そもそも―お前に魔法の発動を願っていない。本来ならば同意を得た上でこの魔法を使いたかったが――仕方ない。〈
「貴様、妾に何をした――?」
「何もしてねぇよ。んじゃ、後後路を返してもらおう。〈
奥義継承――その能力は。他人の同意の有無に関わらず、一時的に他人の魔法が使えるようになる――というモノ。それをもって、エリザベート・バートリの能力。憑依と吸血を使う。
憑依と吸血。その力は。対生物であれば、触れただけで、体を操ったり、殺せたりと、能力名そのものだ。しかし、これを対生物に使わない場合。この場合は、ショッピングモールに使った場合。建物のどこに何があるのか。誰が何をしているのか――それら全てが把握できる。建物に触れた状態で、後後路に魔法を返す。
「理純。行くぞ」レンは理純と共に、客の誘導を開始する。――が、遅かった。
「〈
「――めんどくさい。蓮々殿。私に任せてくれないか」許可も得ずに、理純は。感情のままに――魔法を使う。
「――動くな、愚か者共め」理純の、低い声が。地を這う――地獄の底のような。そんな声が。反逆者の動きを一瞬で止めた。
――
理純・F・ノット
私立七箸学園・学園内序列〈5位〉
魔法
〈絶対王政〉
〈精神干渉〉
武器
広域支配補助用札
――
よく見ると、建物の至るところに札が張ってある。
いつの間に、そんな事を――。レンの思考も追い付かないうちに、理純は笑う。
「ハハハハハッ!どうだ蓮々殿!!私にかかればこれくらい――ッッ!!」自慢げに胸を張る彼女を、背後から弾丸が貫く。
「バカ。油断するからそうなるんだよ」レンは〈
「さて。爆弾の設置。銃の乱射。理純を銃撃。3回だ。オマエら――覚悟は出来てるな?」
サングラスを取って、腕時計を付け直す。ブレザーを脱いで袖を捲る。
学園1位が。
本気を出した。
*
「お待たせしました――って、これは、どういう状況ですか?」生徒会役員の一姫が到着する。が、しかし。既に〈
「レン。後後路ちんが爆弾を見つけたで」
(前から思ってたけど、御伽と後後路って母娘みたいだよな)ふとそんなことを考えながら。
「後後路。場所を教えろ。壊しに行く。一姫。付いて来い」御伽、後後路、理純を残して、爆弾の処理をしに行く。その場にブレザーを残し、サングラスを付けて。レンは後後路の教えてくれた場所に向かう。
「一姫。見えるか?」レンは、傍らの彼女に問いかける。
扇状 一姫。学園指定の制服ではなく、着物を着ている。目を覆い隠す黒い布。彼女の目を直接見たのは、レンも1度だけだ。
「ハイ。次の角を曲がったところに1つ」
「よし。〈
だが―その1つは。
「ガハハハハッ!!来たか!大憑 蓮々。サウザンドソードの敵を取らせて貰おうぞ!」左手にダイナマイトを持って、豪快に笑う男が守っていた。
「誰だ――お前は」一姫の前に立って、右腕を1振り。握られる武器―覇刀・逆鱗逆撫。
「俺は、ホット・ボマー。爆弾魔だ!!」右手に持った、爆弾のスイッチを押す。
だが――それは爆発しない。
その隙を狙って。
「大憑流剣術――蜂鳥!!」音速を超える速度で繰り出される128連撃。その剣さばきは、ホット・ボマーには見えない。なす術もなく、彼はその場に倒れた。
――
扇状 一姫
私立大憑学園・学園内序列〈5位〉
魔法
〈
〈
武器
扇状 一姫専用鉄扇
――
「私の半径10メートル以内では、あらゆる武器、魔法が無効化されます。まぁ、その魔法を打ち消す〈
「ありました、会長。恐らく―本部と繋がってる通信機です」
「んじゃ、辿れ」レンのその命令には答えずに。
「――〈
「見つけました。どうしますか?」
「そうだな。ウチの使用人に任せよう。さて、帰るぞ」
掛けていたサングラスを外して。待っていた3人と合流する。特に何も無かった――とりあえずそう言っておいた。余計な心配をさせたくないから。それは、果たして。気遣いと呼べるかは別として。
*
翌日。学園の競技場には、七箸学園の生徒が
5人。そして―大憑学園の生徒会役員と、大夏、遊霧。
「やあ――レン。昨日はボクの妹が迷惑を掛けたね。すまない」一人称は、ボク。メガネの奥。光のない瞳が薄らと笑う。まるで吸い込まれそうな程に、それは黒く、黒く――どこまでも深かった。その気味悪い笑顔に怯み、後後路はレンの服を掴む。彼女の肩を抱いて、レンは―
「いや、気にするな。実際、理純の制圧能力は役に立った」真顔で答える。薄気味悪い笑顔に対峙しても尚、その威厳は崩れない。
羽純・F・ノット。
メガネの奥の、光のない瞳。肩まで伸びた黒髪。白いブレザーが異様なまでに似合わない。まるで、頑張って似合わないようにしているかのように。スカートから覗き見える足は、黒いタイツに覆われて、肌が見えない。薄気味悪い雰囲気が、決して高身長ではない彼女を、大きく見せる。
「さっそくやけど、始めようか。ウチは待たされるんが嫌いやからな」御伽が2人の会話に割って入る。
「そうだね。七箸からは、逢魔。君が最初にいくんだ」
「ハイ」逢魔。そう呼ばれた生徒は、フィールドの中央に立つ。
「それじゃあ―正義。お前がいけ」
「ハイ」生徒会長―大憑 蓮々。彼の命令に従い、正義は逢魔の前に立つ。
「先生―やってやりますよ!」と、強く意気込み。
御伽の合図で試合が始まった。
結果として、大憑と七箸は、それぞれ2勝2敗。
「良い試合が見れてよかったよ。でも、ボクはまだ戦ってないんだけど――レン。良いかい?」羽純は、その黒い瞳でレンを見る。それに見つめられては、レンも断れない。
「あぁ」とだけ返事をして、レンは立つ。目の前の羽純と対峙する。
「さぁ―ボクと共に、踊ろうよ」
*
「〈
羽純の薄気味悪い笑みが消え、残虐な笑みに変わる。刹那、彼女の周りに現れたのは、16体の吸血鬼。それぞれが、個別の能力を持っている。
「―ホント、面倒臭い魔法だよ。16対1なんて」対して焦る様子もなく、レンは。淡々と魔法を使う。
「奥義継承――〈
――が。
「〈
「一徒、〈栄光徒グロリア〉」しかし、出てきた吸血鬼は1体。16体に使う魔力を、1体に集中させる。
武者鎧に身を包んだ吸血鬼。その大きさは、レンとほぼ同じ。しかし、その体の横幅が圧倒的に違う。腰に刺した刀。それを構えて、咆哮を放つ。鼓膜を震わせるその声が、聴覚を狂わせる。
「笑えねぇな。まぁ、どんな相手でも。俺はやる。羽純。お前の最大の敗因は―俺を相手にしたことだ」
覇刀・逆鱗逆撫を携えて、栄光徒グロリアの間合いに入る。振り下ろされる刀。しかし、その斬撃は、彼の手で止められる。
「〈
消える刀身。止まること無く、レンは栄光徒グロリアを消す。振り返りざまに、第二徒―鮮血徒メアリーと対峙する。
「愛しのメアリー」まるで慈母のような、慈しみに溢れ愛に満ちた笑顔を浮かべる羽純。
「レンを殺せ!!」だがその表情は、歪みきった狂気へと変貌する。
「鮮血徒メアリー。奥義〈
メアリーから飛び散る血液。それは細い針となってレンに向けられる。羽純の合図で、その針はレンに飛んでくる。
「〈
見えなくなった彼は、背後をとって。
「大憑流剣術―蜂鳥」音速の128連撃。その剣戟に追いつけるはずもなく。鮮血徒メアリーは消えた。
「次は何だ?」レンは羽純を見る。濁った瞳の奥を見る。
「ふふっ――第三徒―〈鉄壁徒イージス〉」巨大な盾を構えて、自身は動かない。
「〈奥義継承〉―〈偽証権〉。この盾は絶対に壊れない」言った事が嘘になる。よって、その盾はすぐに崩れる。そして、鉄壁徒イージスの本体に、〈
「本当に強い。それじゃあ、ボクが直接いこうか」レンに1歩―近付く。レンが〈動いた〉―そう認識するよりも早く、羽純の拳がレンの鳩尾に入る。
「レンが反応出来ない――!?」後後路は驚き、御伽の腕を握る。
「さぁ―ボクを楽しませてね?生徒会長」両手を広げて、高らかに笑う。
――
羽純・F・ノット
私立七箸学園・学園内序列〈1位〉
風紀委員長
魔法
〈
〈永久侵犯〉
〈
武器
羽純・F・ノット専用戦闘用糸〈ノット〉
武術
羽純自己流暗殺術
――
そこにいたのは。七箸の生徒なんかではない。レンですら震える程の狂気。
「どうしたの?レン。君は世界一になった男だろ?ボクの攻撃くらい、見切ってよ」
二撃目が反対の鳩尾にヒットする。
「早い――そう思っているだろ?残念。君が遅いんだ」羽純は笑って、レンの顎を蹴りあげる。勢いを殺せずに後ろに吹き飛ばされるレン。フィールドの壁に当たって何とか止まる。
「ほらほら。抵抗しないと死んじゃうよ?」
「
その場に倒れ込んだレン。容赦なく追撃を食らわせる羽純。
(童話さん――貴方なら、どうしますか?こんなとき―どうしたら良いんですか?)
*
「蓮々。俺はな、戦いを光と闇だと思っとる。まぁ―日向と日陰でもええわ」
「何でそんな話をすんだ。興味ねぇよ」二年前の大憑 蓮々は、今のように力を上手く使えはしなかった。誰にでも噛みつき、怪我をさせ、怪我をして。それでも懲りずに他の学園の生徒も喧嘩ばかりしていた。誰もが距離をとる中で、童話だけは彼の話を、彼が気の済むまで聞き続け。けして否定も反論もしなかった。そんな童話も――レンに、戦闘に関することは無理にでも叩き込んだ。
「興味なくても聞いてくれると有難いんやけど」
「わかったよ。聞いてやるよ。なんだっけ?光だ闇だって」
「あぁ。意識を光に。無意識を闇に例えよう。人はどうしても意識の方に目が行く。光を見ているんだ。だが、無意識に目を向けられれば。今よりも強くなれる」
人は、他人の大きい動作に目がいってしまう。その動作とは別の小さな大きい動作は見えなくなる。その無意識を見なければ、強くなれない。見えないものは、見ようとしなければ見えない。恐らく羽純は、攻撃の為の初動を無意識に持って来ている。だから分からない。だが――その攻略法さえ分かれば。
(闇―日陰―無意識。そこを見るんだ!)
「レン。君は――どうしてそんなに弱いんだ?ボクを楽しませてよ」
「あ?テメェ――今、何つった?」
「何だい?急に」
「なぁ、何て言った?」
レンがこの世で最も言われたくない言葉を、彼女は吐いた。それだけで十分だった。レンには―それだけで。殺意を抱くのには十分過ぎた。覇刀・逆鱗逆撫を構えて。レンは立ち上がる。その目には、確かな怒りが現れていた。
「俺のことを弱いって言っていいのは――童話さんだけなんだよ!ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!!!!羽純――今すぐそこに直れ!!」
1歩。たった1歩に、競技場は揺れる。
「後後路ちん。今から見るんは――昔のレンかもしれへん。それでもええなら。ウチのそばから離れたらあかんよ?」腕を握っていた後後路を、抱き寄せる。その異常さが伝わったのか。後後路は抵抗しない。
「〈奥義継承〉―〈共鳴連鎖〉」
その魔法は――御伽には分かる。紛れもない、童話の魔法である。御園尾 童話―彼の魔法。6つの内の1つ。怪我も、思考も。何もかもを相手と共有する魔法。自分が傷付けば相手も傷つく。逆もまた然り。だが―レンは構わず、発動する。
「童話さん。俺は―貴方に追い付いてみせます。待っててください」
傷だらけの生徒会長は。どこまでも真っ直ぐな瞳で。立っていた。
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