第3話練習試合(1)
4月7日の土曜日。午前9時。私立大憑学園内の競技場には、生徒会長―大憑蓮々をはじめとした生徒会役員と、他に2人の一年生がいた。
1年――
1年――
「さて―君達に集まってもらったのは他でもない――明日の〈私立七箸学園〉との試合の為だ。生徒会メンバーについてはその実力を把握している。だが―1年の2人に関してはあまり分からない。そこで。御伽と大夏。準と遊霧で試合をしてもらいたい」
生徒会長――大憑 蓮々の言葉に驚くのは、1年の2人だけではない。彼の許嫁であるところの、簪刺 後後路もまた、驚いた。そして何よりも疑問を呈したのは。
「せ、先生―何故、副会長達2人なんですか?普通は、俺たち2年がやるべきなんじゃないっすか」
レンを先生と呼び、師として尊敬する2年―水瓶 正義。
「そうです。私たちがやるべきでは?」同じく意見する、扇状 一姫。
「ん?だから、お前らにも試合をしてもらう。相手は――後後路と俺だ。2対2のタッグ戦でな」
「さて―他に質問は」レンは1回だけ手を叩く。
「んなら、ウチから質問させてな。疑問なんは、何でレンと後後路ちんの組み合わせなん?魔法の相性で考えれば――準と後後路ちんやろ?それに―遊霧に関しては、対レンの方が勉強になるんとちゃう?」
「あぁ。そうだろうな。だが、正義の相手は俺以外に出来ねぇだろ。頭の良い御伽なら分かるはずだ」
「なるほど。わかった。ウチはもう質問はないわ。他にある子はおる?」
しばらくの沈黙が流れる。その沈黙を、疑問はない――そう受け取ったレンは、手を叩く。そして。
「んじゃ、始めようか。まずは、準と遊霧だな。相手が生徒会副会長だからってビビるなよ。頑張れ」レンは背中を押して遊霧をフィールドに送る。
そして、座ろうとした刹那―振り返りつつ右手を1振り。しっかりと握られた彼の武器――覇刀・逆鱗逆撫。その切っ先と、刀身1.6メートルの日本刀、〈黒蝶〉の切っ先がピタリとくっつく。
「理事長――義姉さん。いきなり斬りかかろうとしないでください。俺じゃなきゃ死んでますよ」武器をしまって、その場に座る。その後は背後にいる理事長を、全く気にせず。
「――始め!!」
静かに、試合を見ていた。
*
目の前にいるのは、身長188cmの大男。学ランを着た、屈曲な男。自分の魔法で勝てるのか、さっぱり分からない。けれど。やるしかない。早々に決着を付けるしかない。だが―見るからに物理的な攻撃は効きそうにない。けれど。やる。背中を押してくれた生徒会長の為。自分を選んでくれた生徒会メンバーの為に。
「決める!!
朝河 遊霧―その能力は。
――
朝河 遊霧
私立大憑学園・学園内序列―〈34位〉
魔法
〈
武器
遊霧専用爆弾
――
フィールドを、漆黒の霧が覆う。その中で、全てを見通す遊霧。この霧の中では全てが遊霧の手の内にある。相手がどこにいるのか。相手の脈拍、心拍数、体温、血流の全てに至るまで――把握できる。更に。この霧は相手の五感を鈍らせる。これなら、あの屈曲な副会長も――倒せる。
手に持ったのは、クラッカー式爆弾。投げた後、地面に着くまでは爆発しない。つまり、遠くへ投げれば、それだけ相手を撹乱できるわけだ。
勿論、その爆弾で爆殺しても良い。
「これなら―!!」背後に周りこみ、爆弾を投げる。狙うのは―準。直接決めにいく。
投げられた爆弾は、準に当たる。聞こえる爆発の音。
「勝った――ハァ!?」思わず声を上げる遊霧。それもそのはず。彼の爆弾をくらっておいて――そこにいる生徒会副会長は。無傷だったのだから。
遊霧は知らない。生徒会副会長、串切 準。彼は――。生身で、
そして。準の魔法を知らない。
準の魔法は。
――
串切 準
私立大憑学園・学園内序列〈3位〉
生徒会副会長
魔法
〈堅牢岩窟〉
〈
武器
なし
――
ただでさえ硬い体を、更に硬くする。どこまでも上がる硬度。その硬さは―ダイヤモンドを遥かに超える。
そして。その驚異的な体を使って突進する、彼の唯一の攻撃手段。〈
「だったら!」遊霧は、一転―逃げ回る。手に持った爆弾は、感圧式。設置した後、何かが上に乗ると爆発する。それを、逃げ回りながら、至る所に置いていく。それは―足の踏み場もない程に。彼はフィールドの1番端に立つ。どこから来ても、手持ちの全ての爆弾で、何としても爆殺する。
その気迫は、霧の外にいる他のメンバーにも伝わってくる。
「レン。レンなら遊霧にどれ位で勝てる?」ふと、そんな事を尋ねる後後路。
「3秒」即答だった。レンは、考える素振りすら見せずに、即答。
「私なら1秒だ」後ろで理事長が謎の主張をするが、後後路は相手にしない。
「まぁ、いいだろ。それより―しっかりと見てやろう」再び、2人は霧の中を見る。
「ハァ―ハァ―どこから来る!?」手に持った爆弾。それを握る手に、力が入る。
把握できるハズの、心拍数、脈拍―それら全てが、全く分からない。代わりに聞こえるのは自分の荒い呼吸と、心臓の鼓動。
「――そこか!」がむしゃらに投げた爆弾。10秒にセットされた時限爆弾。だが―それは不発。爆発音すら聞こえない。
「なんだ、この程度か。弱いな」突然。それは何の前触れもなく。それは耳元で囁いた。まるで、遊霧を笑うかのような、嘲りを含んだ声で。
「―ひッッッ!!」恐怖で。こえがでない。こわい。そこにいたあっとうてきなそんざいをまえに、遊霧は。
気を失った。
「勝負ありだな。準の勝ちだ。だがな――」
レンは客席からフィールドに降りて、準の前まで行く。そして。
「―――ッッッッッッ!!!!」準を全力で殴る。爆発でも傷1つ負わなかった準が、レンの拳でフィールドの端まで飛ぶ。
「手合わせをしてくれた相手に弱いなんて言うんじゃねぇ。普段は、誰も手合わせすらしてくれねぇだろ。だが遊霧は怯まずにココに立った。それに対する感謝をしろ」
レンが立っていた場所は。試合開始時に遊霧が立っていた場所だった。
「すみません、会長」
「分かればよろしい。さて――次に行こうか。御伽、大夏―準備しろ」
「ハイハイ。さぁ、大夏ちん。楽しもうな?」
*
準は怪我を治すために保健室へ。他のメンバーは観客席で座って見ている。フィールドに立つのは御伽と大夏。
「よろしくね―大夏ちん。ウチの事は知ってると思うけど、御伽いうんよ」
「ハイ。よろしくお願いします」紅く、燃えるような髪の色。橙色の瞳。全てが赤く見える。オーラが違う。
「んじゃ、行くぜ――始め!!」
レンの合図と共に、先手を取りにいく御伽。
「結界!!」御伽の魔法は、知っての通り、結界。その能力は、周知の事。誰もが知ってるように―自身を守る空間を作り出す事。
「やけど、それを相手に使えば―檻になる」
不敵に笑った彼女。結界の中の大夏。
「なるほど。分かりました。その魔法―解いて見せましょう」
大夏は結界に両手を触れる。刹那、結界が消える。
「ウチの結界が消えた―?何したん?」
いつものニヤニヤとした顔が、マジメになる。目つきが鋭くなる。
「これが私の魔法です」
――
七海 大夏
私立大憑学園・学園内序列―〈33位〉
魔法
〈読み解く右手と紐解く左手〉
〈
武器
なし
――
「なるほどなぁ。正直に認めるわ。大夏ちん――アンタは凄いわ。やけど、勝つのはウチや」
「結界!!」再び発動する魔法。だが、その全てを読み解き、消し去る腕に消される。だが、それを気にせず、何度も結界を作り出す。
「レン。御伽ちゃんは何をしてるの?」観客席で見ていた後後路は、隣に座るレンに尋ねる。彼女には意味が分からなかったからだ。消されると分かっていて結界を作り続ける御伽の行動が。
「あぁ。アレな。見てればわかるさ」
レンは特にハッキリとした答えを出すわけでもなく。けれど無視するわけでもなく。
「ええなぁ。その姿勢。大夏ちん―好きやわぁ。頑張ってる女の子は好きやで」自身の出した結界を消し続ける大夏に対して恍惚の表情を浮かべる御伽。
「やけどな。何度でも言うわ。勝つんはウチや」笑いながらも結界の生成を続ける。
「どしたん?さっきよりも消す速度が落ちとるよ?」ニヤニヤと笑いながら御伽は問いかける。
ただ繰り返される、作っては消す作業。それに嫌気がさしたのか―大夏が動く。
「〈
そして―御伽の前で跳躍して。手を振り下ろす。否。振り下ろされたのは、前足と言うべきだろう。なぜなら。そこにいたのは。人の姿をした七海 大夏ではなく。
赤い毛に覆われた、口から炎を吐く巨大な狼だったから。
「モフモフやなぁ。狼になったらカッコええやん。なるほどなぁ―これは勝てそうにないわ。やけどウチは結界を作り出すで。狼なら―なおさら檻に閉じ込めなあかんやろ?」
笑った御伽。対して―唸る大夏。
「結界!!」御伽は、魔法を発動する。目の前に生成されるのは、結界。―というよりもバリアに近いだろうか。透明な壁ができる。それを、御伽は。
「偽証権。これは絶対に破られるバリアである」手を触れて、そのバリアに向けて言った。
「それじゃあ、始めようか――最強の
彼女は流暢な標準語で、目の前の狼を睨み付けた。
「グルルルゥ」唸る狼。それは、御伽の生成したバリアを破壊しようと、手を振り下ろす。しかし、全く破れない。
「ウチの2つ目の魔法だ。〈偽証権〉。ウチが触ったものに対して言った事が嘘になる。もう分かるよな?このバリアは絶対に破られない」
今までの雰囲気とまるで違う。殺気を纏った、まるで―オーラだけで人を殺せそうな気がする。
「なぁ―狼。力任せで戦おうとしてるなら辞めておけよ。〈偽証権〉―七海 大夏が勝つ。おしまいだよ。諦めな」冷めきった瞳が見据える先は、狼。そこに、怯む様子もなく、悠々と歩いて行き―手を触れて言い放った。
刹那―狼は人の姿に戻り。
七海 大夏は。意識を失っていた。
*
「勝負ありだな。御伽が最初から偽証権を使っていればもっと早く片付いただろうが―それじゃあつまらないしな。まぁ、あそこまで結界を消し続けた大夏は素直に凄い」
「せやろ?大夏ちんは凄いんよ?やからウチが連れて来たんよ!」
御伽は、いつも通りの適当な感じの女子に戻っている。あの変容の仕方はレンも久しぶりに見た。それだけ彼女は――。
(いや、これ以上はやめよう)レンは、御伽について考えないことにした。理由は特にない。だが―何となく。いけない気がしたのだ。
怖くなったのだ。
もう――あの時みたいになりたくないから。
御園尾 童話――御園尾 御伽の兄のようになってほしくないから。
考えるのをやめて、レンは。後後路と共にフィールドに立った。しっかりと繋いだ手。そこから何かを感じたのか。後後路はレンの方を見て「大丈夫?」と問いかける。レンは笑顔で「あぁ」とだけ答える。
第三試合―蓮々、後後路と正義、一姫の試合が
御伽の合図で始まった。
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