ずっと終わらないだけの退屈な仕事

ちびまるフォイ

休日がいっぱいあれば幸せ

「というわけで、今日からうちの会社も休日は振り込みになりました。

 各自忘れずに休日を引き出すこと」


会社の朝礼でついに休日の銀行振り込みがはじまった。

ずっとこの日を待っていた。


「よっしゃー! これで休みまくれるぞ!」


今まで休日しか休みなんて取れなかった。

クソほど混んでいるから映画館にもいけなかったし

あの憎き「月曜日の呪縛」からも解放された。


「これからは日曜日の休みを月曜日にして~~……。

 ん? でもこれだと仕事が忙しそうだなぁ。日曜日は休みのまま

 月曜日を休みにしてそうなると金曜日も……あぁあ~~! 悩む!」


「なんだお前。せっかく休日を振り込み型に変えたのに

 そんなに悩むことなんてないだろう」


「おおありですよ!! 休みをどう配置するか考えるという手間があるんです!」


「お、おお……」


「しかし! しかしですよ! 全然休日が足らんのです!

 俺の日常を謳歌するには今まで勝手に土日に割り当てられていた

 しょっぼい週休2日せいじゃ足りません!!」


「ゆ、有給つかえば……」


「もう使ってますよ! 使い切っちゃいましたよ!!

 どうしてくれるんですか!!」


「え、えええ……!?」


俺の圧に負けたのか上司はじりじりと後ずさっていく。


「それじゃ給料前借り……する?」


「そんなことができるんですか!?」


「まあな。休日を銀行振り込みできるようになったってことは、

 好きなように先々の休日も前借りすることができるんだ」


「はい! 前借りします!!」


休日を大量に前借りしたことで一気に連休に突入した。

毎日休みたい放題で本当に最高。


「いやーー! やっぱり休日は最高だぜ!!」


休日を前借りしているとはいえ、休日は未来のぶん。

歳をとってやることもなく日がな1日家でだらだらしているくらいなら

今の若くて時間が惜しいうちに時間を手に入れたほうがいい。


時間の価値は年齢によって大きく変わるんだ。

縁側に座ってお茶すする時間よりも、今の方が絶対に有効だ。


 ・

 ・

 ・


「ひさしぶり~~。いやぁ、休んだ休んだ」


前借りしまくって、小学校の夏休みばりに会社に戻って来た。

みんな忙しそうに働いている。まるでアリとキリギリス。


「はははは。みんなも将来の自分の休日を前借りすればいいのに。

 今の大事な時間をあくせく働く時間にばかり浪費してどうする?」


「お前こそ、そんなに休日を大量に前借りして大丈夫なのか?」


「大丈夫っしょ。どうせ年取ったら年がら年じゅう休みなんだし」


「……じゃなくて、歳をとったときに休日がなかったら

 体がついていかないのに働くことになるぞ?」


「……マジ?」


急に怖くなった。

そこでコンビニの横にある未来研究所にやってきた。


「ようこそ、未来研究所へ。ここでは未来にいくことができますよ」


この時代ともなればタイムスリップなんて日常茶飯事。


「休日をだいぶ前借りしたので、未来の自分の様子が見たくって」


「わかりました! では参りましょう! スイッチ~~オン!!」


時空が歪んで光に包まれる。

目をあけるとボロボロになった自分がいた。


「あれが……俺かよ!?」


みすぼらしい男はぶつぶつ言いながらふらふら歩いている。


「消化しないと……全部終わらせないと……終わらない……」


「う、うわぁ……」


その姿はまるでホームレス。

こんなにも毎日仕事に追われるようになったのか。


「も、戻してください」


「いいんですか? あのドブネズミみたいな未来の自分に声かけなくて」


「誰がドブネズミだ! 早く戻してください!」


「はいはい」


現代に戻ると、休みボケを取り戻すように仕事に取り組んだ。


「どうしたんだ急に。あんなに余裕ぶっこいていたのに」


「未来に行って、ぼろぼろになってる自分を見てきたんだ。

 あんなになるまで終わらない平日が待っているかと思うと怖くなって……」


「ははは。未来の自分が反面教師になるなんてな」


必死に働き始めたものの、数日で限界が来てしまった。



「うわぁ~~ん!! 休みたいよぉ~~~~!!」


「早ぇよ!!」


前借りした分を取り戻すために、プラスアルファで仕事をしなくちゃいけないが

週休2日ですら悲鳴を上げていたのにさらに働くなんて狂気の沙汰。


結局、前借り分を取り戻すために追加の仕事はできなかった。


「どうしようか……。使った分の未来の休日を手に入れなきゃいけない。

 でも今から大量に働きたくない……。


 そうだ、銀行強盗をしよう!!」


至った結論は、雨が降ったら傘を差すくらい常識的な発想だった。




「オラーー!! 全員手をあげろーー!!」


銀行に押し入ると、事前に映画で見たセリフそのままに実行した。

ビクつく銀行員に銃を突きつけた。


「オラ、出すもんだしな」


「お、お金ですか……?」


「ちがう!! 休日だ!! 休日よこせや!!」


金なんてどうでもいい。

休日が銀行振り込みになったんだから銀行には休日があるはず。

働かずに休日を手にするのはこれしかない。


「きゅ、休日ですか!?」


「文句あるならお前の顔がちょっとばかし風通しよくなる穴ができるぞ」


「休日ならいくらでも差し上げます! さぁ、こちらへ!」


「えっ」


銀行はおどしを聞くなり表情を明るくして奥へと案内してくれた。

レッドカーペットをしいたり、最高級のウェルカムドリンクを出したりとその扱いは国賓級。


「いやぁ~~、休日強盗さんが来てくれるなんて助かりました!

 休日ですね? たくさんありますよ!」


「い、いいんですか? 銀行の運営とか大丈夫なんです?」


「大丈夫ですよ! むしろ休日がたまりすぎて困っていたくらいです。

 日本人はみんな休日返上で働くものだから使い切れない休日が

 こうして銀行にたまっていくんです。


 で、ぽっくり過労死でもしたら休日だけ残っちゃって処理に困ってたんです」


「はぁ……」


「さぁ強盗さん! お好きなだけ持って行ってください!」


「ありがとうございます!!」


思ったような手順で運びはしなかったが、結果オーライ。

通帳がカンストするくらいの休日を手に入れることができた。


「やった! これで年がら年じゅう休みたい放題だぜーー!!」


その日から、俺の超絶連休がスタートした。



 ・

 ・

 ・


数十年後。


「終わらない……休日が終わらない……」


大量に手に入れた休日を持て余して、平日は一向に訪れなかった。

膨大な時間の前に趣味や旅行の時間つぶしはとうに飽きている。


今はただ「休日を消化する」という何よりも辛い仕事をする毎日。


「戻りたい……平日と休日のバランスがよかった時代に……。

 休日の消化することが……こんなに辛いなんて……」


今はあてもなく時間つぶしに公園をさまよっているだけ。

それくらいしかもうやることがない。やりつくしてしまった。


休日を消化し尽くすまでは平日に戻ることは許されない。



「消化しないと……全部終わらせないと……終わらない……」


「う、うわぁ……」



そんな自分の姿を見た、過去の自分が思わず声をあげていた。

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