素質

ス「それにしても、地下にこんな秘密基地があるなんて

  見た目じゃ全然わかんないですよね

ス「どこからどう見ても料理屋にしか見えないです」

シ「ま、もともと普通の酒屋だからね

  そう見えてもらわないと、わざわざ掘った甲斐がない」

ス「えぇ! シュレさんたちが掘ったんですか!」

シ「ま、案外やれないことはないってことだね

  幸い周りは夜の店ばっかだし、昼に作業すれば誰にも気づかれない」

ス「へぇ〜、すごいですね」

シ「テロなんかやめて真っ当な仕事すればいいのにね、私たち」

ス「いや、まあ、確かにちょっと思いましたけど」

ロ「……」

シ「ん、ロッカも言いに来たのか?

  あのときの武勇伝を」

ロ「武勇伝ってなによ

  大家にバレないよう必死に取り繕ってたこと?」

ロ「そんなことよりシュレ、今夜あんたに話があるんだけど」

シ「なんだよ、家賃の取り立てか?」

ロ「それは諦めたわよ、とっくの昔に

  死人に貸した金は返ってこないってことで」

ロ「とにかく夕食の後、絶対にきなさい。いい?」

シ「……へーい」

(エフェクト)

(音)

シ「よう、来たぜい」

ロ「スプリは?」

シ「かわいい顔してスヤスヤだよ

  んで、要件は何さ? 愛の告白かい?」

ロ「スプリについて」

シ「ああ、スプリと愛を育むのか」

ロ「茶化すな、めんどくさい」

シ「んで、スプリがどうしたって?」

ロ「あの娘が良い子なのは十分わかったわ

  彼女なりの覚悟があることも、信用に値することも」

ロ「でも、とても戦場に連れて行けるとは思えないのよ」

シ「戦力になるなら犬でも連れて行く

  そういってたのはお前だろ」

ロ「そうだけど……このまま訓練を続けて力を付けたとしても

  あのお人好しのままじゃあ、それこそ犬死する未来しか見えないわよ」

シ「そうかねえ、スプリにはあると思うけどな、素質」

ロ「素質?」

シ「闇に染まる素質、かな」

シ「あれはただのお人好しじゃあない気がする

  そう例えば、人のために人を殺せるような、そんなお人好し」

ロ「なによそれ。子供だって騙されないわよ、そんな御託」

シ「ま、経緯はどうあれ自分の意思でここに来てんだ

  どうあがいても地獄行きは免れない。それをとやかく言うのは野暮だよ」

シ「責任を負うのはスプリ本人だ

  私たちにできるのはせいぜい見守ることくらいだろ」

ロ「でも、それと馬鹿な選択を傍観するのは違うでしょ」

シ「傍観者じゃないんだよ、私たちは扇動者だ

  自爆テロをするんだ、弾は多いほうがいい、だろ?」

ロ「……ほんっとあんた、変なところで真面目ね

  いや、臆病なのかもしれないけど」

シ「そりゃどうも。そのおかげで今ここに立ってるんだ

  むしろお褒めに預かり光栄なくらいだぜ」

ロ「勝手にしろ、落伍者」

シ「ま、実際のところどうするかはスプリ次第なんじゃないかな

  私は期待してるけどね」

ロ「私だって期待はしてるわよ

  同じ目的を持ってる仲間は多いほうがいい」

ロ「だからこそ、見捨てるようなことはできない」

シ「まあ、私だって仲間が死ぬとこなんか見たくないけど

  優しさや同情で目的が後になっちゃあ本末転倒でしょ」

ロ「……私があんたをここに住まわせてんのも

  その優しさや同情のせいなんだけどね」

ロ「じゃあね、おやすみ」

(音)

ス「……おおう、参ったぜ」

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