opening 5
シ「さあスプリ、入って入って」
ス「あ、どうも
お邪魔します」
シ「ヘリィはどうする? 一泊してくかい?
夜道の一人歩きは危険だぜ、この国じゃあな」
ヘ「そもそもここお前の家じゃねえだろ
居候の分際でよくそこまで言えるな」
シ「まあ実際、一人増えたところで変わんないでしょ
んで、どうする?」
ヘ「やめとく。ロッカに負担かけたくないし、自分の家で寝たいからな
明日の朝、またこっちにくる」
シ「言わなくてもわかってると思うけど、いろいろ気をつけてね
騒ぎが広がってるとも限らない」
ヘ「オーライ
今日はゆっくり休むとするよ」
ヘ「スプリも、まだ混乱してるとは思うが
まあなんだ、この家にいる間は安心していい」
ヘ「……そいつが余計なちょっかいをかけてきても
無視していいからな」
ス「は、はい」
シ「あっはは
……厳しいなあ、ほんと」
ヘ「じゃあな、また明日」
(音)
シ「お、私の分の食べ物残してくれてる
ラッキー」
ス「あの、さっき居候って言ってましたけど」
シ「ああ、そうだね
協力者の一人の家に住まわせてもらってる感じかな」
シ「そしてテロ集団の本拠地でもある」
ス「見たところ普通の酒屋、って感じですけど」
シ「そりゃあカモフラージュしないと、すぐ捕まっちゃうからね
それに資金集めにもなるし」
シ「それじゃあ、秘密基地
もとい、地下室に向かおうか」
シ「んで、ここが私の寝室だね
スプリも、今日はここで寝てもらうよ」
ス「はい、大丈夫です」
シ「それじゃあ、とりあえず安全を確保したことだし」
シ「次はもちろん安心が欲しいところだよねえ」
ス「……まだ、納得できてないところはあります」
シ「じゃあ、説明を始めようか」
シ「スプリが一番気になってるのは
やっぱり自分の身に何が起こったのか、だよね」
シ「特に、自分が見つけたあの筒はなんだったのか」
ス「は、はい」
シ「簡単にいうと、あれは毒を噴出する機械だ
そして、その毒こそがこの国の呪いの正体」
ス「闇の呪いの正体、ですか」
シ「その通り」
シ「むかーしむかしの戦争が呼び起こした
人を狂わせる恐ろしい闇の呪い」
シ「そんなのは国がでっち上げた嘘っぱちってことだね」
ス「……」
シ「やっぱり、そう簡単には受け入れられないかな?」
ス「そうですね……小さな時から教わってきたことなんで
今更、闇の呪いが陰謀だ、なんて言われても、正直」
シ「加えて説明してくるのが私だからねえ」
シ「どこの馬の骨とも知らない奴の陰謀論なんて
今時、そこらのガキでも笑い飛ばすよ」
シ「でもね、いつかは受け入れてもらわないといけない
このしょうもない嘘が、君の命を消し飛ばそうとしてるわけだし、ね」
ス「……」
シ「ちょうどいい感じに脅したところで、説明を続けようか」
シ「あの筒には特殊な毒素が詰まっていて
ピンを抜くと周囲にそれを撒き散らすようになってる」
シ「毒素は風に乗ってかなり遠くまで運ばれ
呼吸で摂取した人間の脳神経を侵し、理性を砕く」
シ「その結果、悪魔にでも取り憑かれたような挙動を見せるようになる
っていうカラクリさ」
ス「それじゃあ、太陽の加護とか夜は危険とか
そういうのは全部でまかせってことですか……」
シ「いや、それらも間違ってるわけじゃない
もちろん加護だとか呪いとかそういう類の話じゃなくてさ」
シ「ほら、昼間の空って青いでしょ?
そして、配給者が売ってる電球の光も、白熱灯より青っぽい」
ス「ウリエルのことですね
たしかに、なんか冷たい色をしてた気がします」
シ「太陽光やウリエル光のような青い光に触れると毒素は消滅する
白熱電灯みたいな赤を多く含む光では効果は薄い」
シ「つまり、陽が出ている間は安全、陽が傾いたらお家に帰ろうってのは
非常に効果的な対策法だってことだね」
ス「なるほど、ウリエルの効果は太陽の加護なんかじゃなく
最初から最後まで科学的なものだった、と」
シ「どう?
少しは信憑性も出てきたでしょ」
ス「でも、それなら国の人たちはなんでこんなことをしたんでしょう
わざわざ予防方法があるような、不完全なものを……」
シ「逆だよ
予防方法が先にあるからこそ、毒を撒いたんだ」
ス「え?」
シ「言い伝えでは、呪いの起源はなんだった?」
ス「……百年以上前、この国で起きた戦争、でした」
シ「そう、リクタリアがまだ国であり、モヌドと合併する前の話
リクタリアが発動した古代兵器がモヌドの遺跡で暴発した」
シ「その結果、二つの国が合併してルクヴィルドになった後も
その全土は闇の呪いに包まれた、と」
ス「でも、それは国の作り上げた筋書きなんでしょう?」
シ「そうだね、古代兵器の暴発なんて起きていないだろうし
そうでなくとも、呪い云々は疑いようのない創作だね」
シ「でも戦争の歴史自体は本当だよ
リクタリアはモヌドを滅ぼし統治するために毒素を利用した」
ス「支配に利用って……」
シ「スプリの家はリクタリアの外だよね」
ス「はい、レーゲブンっていう小さな村です」
シ「それじゃあ、リクタリアから配給車がやってくるはずだよね」
ス「あ、そうですね
いつも優しいおじさんが月に2回ほど」
シ「なんで配給車が必要だと思う?」
ス「それは……開発力や文化はやっぱり衆都に頼るしかないし
何よりウリエルがないと夜の安全が……」
シ「そう、そこだよ」
ス「?」
シ「なんでルグヴィルドはリクタリア内でしかウリエルを作らないのか
旧モヌド領に工場を作らないのか」
ス「あ、そっか!」
シ「毒素をばらまいてモヌド民の生活を脅かし降伏させ
さらに技術を独占して金を巻き上げる」
シ「さらに言えば、毒素のカプセルを国中に散らすのも
配給車の役割だ」
シ「多分だけど、スプリを誘拐したのも……」
ス「……はい」
シ「ま、状況をまとめると」
シ「スプリはルグヴィルドが隠してる陰謀を知ってしまった
国から逃げ切るには、一生をこの地下で過ごすか」
シ「全てを明らかにするしかないってことだ」
ス「……やるしかないってことですか」
シ「なんで私がこんな理不尽に、って思ってるならそれは間違いだね
この国に住んでいる全ての人間は皆、すでに理不尽に巻き込まれてる」
ス「……」
シ「まあ、戦うための決断はスプリにしかできないけど
そう悠長に待ってはいられないよ」
シ「私たちはもうすぐ計画を実行に移す
そのあとスプリの面倒を見てくれるような人はいないからね」
ス「……でも革命を起こすってことは
この街の人達を傷つけることになりますよね」
シ「……安全安心の衆都生活はめちゃくちゃになるかもね」
ス「なら!」
シ「最初から歪んでる国に住んでるんだ、その軋みを放置していれば
後回しにすればするほど被害は大きくなる」
シ「それに、君の村の人だって知らずに苦しめられてる
さらに言えばスプリだって、私だって」
シ「だからこそ私は、たとえ誰かを傷つけることになっても
全てを、壊そうと思ってる」
(2なら選択肢)
1.テロに協力する
2.協力はできない
1ルートor1
ス「……わかりました」
ス「正しいかどうか、なんてわからないですけど
そんなこと言ってる余裕がないことはよくわかりました」
シ「悪いね、そういうことだ」
ス「それに、決めました」
ス「シュレさんたちを信じることを、決めましたから
私にできる範囲で、やってみます」
シ「……」
シ「いやあ、涙が出そうだよ、ほんと」
シ「ありがとう、その言葉が聞きたかった
こっちこそよろしくね、スプリ」
シ「それじゃ、明日から本格的に訓練に励んでもらうから
今日はとりあえず休むとしようか」
シ「私の夕食の取り置きで悪いけど、それで我慢してね」
ス「え、いいんですか?
それじゃあシュレさんが」
シ「ん、いいのいいの
そのぶん、明日からしっかり働いてもらうよ」
シ「本当に、しっかりとね」
ス(……色々なことがあってまだ理解しきれてないけど)
ス(とりあえず、私にできる戦いをするしかない!)
2
ス「……」
シ「……」
シ「納得はできない、か」
シ「そうだね、その選択も理解はできるよ
納得はできないけど」
ス「だとしたら……」
ス「だとしたら、あなたは私を殺しますか?」
シ「生かすよ」
シ「君の心が変わるまで、食事も与えるし寝床も与える
国の危険からも守ってあげる」
シ「ただ、全部終わるまでこの酒屋の中にいてもらう
力無いゲリラにとって、情報漏洩は禁物ってことで」
ス「コストがかかって不合理じゃないですか?」
シ「実は人手不足でさあ、猫の手も借りたいってやつ
ただ、この国じゃあ野良猫すら闇を避けて通るからね」
シ「この国に反抗する理由のある人材が、偶然現れたんだ
そう簡単には諦められないよ」
ス「……」
シ「それに、君は私のことを疑いの目で見ているとはいえ
言ってることは筋が通ってるんじゃないかと思い始めてる」
シ「なら、期待してみる価値はあるんじゃないかな?」
ス「……」
シ「ああ、もちろんだけど」
シ「私たちを殺す、なんて考えないでよ
私は殺されるほど弱くないし、殺さずに対処できるほど強くもないから」
シ「ま、そういうわけで、しばらくは大人しくここで過ごしてもらうよ
今日の食事は私の冷めた夕飯だけど、我慢して食べてね」
ス(……)
ス(信ずるには値する。だけど、あまりにも常識から飛躍している
自称テロリストの言うことをそうやすやすと信じてもいいのか?)
ス(それに、私を殺そうとしたのが国だという確証はまだ得られていない
私を突き落とした犯人の顔すら、私は見ていないのだから)
ス(……その犯人の正体が彼女であったとしても、何の不思議はない)
ス(もう少し、考える時間が必要なのかもしれない)
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