opening 3

−−衆都リクタリア南部・シューケル通り

ヘ「ここまで来れば顔を隠す必要もないか」

 (音)

ヘ「もうすぐ私たちの拠点に到着する

  とりあえず今夜はそこで過ごしてもらいたい」

へ「あんたが何をしでかしたのかはわからないが

  しばらくの間は身を隠しておいた方が良いだろう」

ス「……」

ヘ「いろいろなことが起こって、疲れてるようだな

  詳しい話は明日にしようか」

ス「いえ、それよりも」

へ「ん?」

ス「ここは、どこなんですか?」

ヘ「……」

ヘ「どこ、って言われてもなあ

  舞踏場から見て南、って言えばわかるか?」

ス「舞踏場……」

ヘ「光都舞踏場、中央地区で一番でかい建物だが」

ス「やっぱりここは」

ス「あの衆都・リクタリア、なんですか」

ヘ「は、何を当たり前なことを……

  いやわかった、なるほどそういうことか」

ヘ「つまりお前は塀の外からここに来た、と」

ス(リクタリア。通称、光の街)

ス(無数の街灯は闇を塗りつぶし

  人々は聖なる光に包まれる)

ス(……穢れた闇に包まれた国土の中で輝き続ける

  地上で唯一、夜の来ない楽園)

ス(そんな場所に私は今いて

  そしてそんな場所で私は殺されようとしていた)

ス「……そういうことになるみたいですね

  あんまり実感は湧いて来ないんですけど」

ス「気を失ったのは、確かに私の村……塀の外でしたし

  目が覚めた時にはもう身体は空中に投げ出されてましたから」

ヘ「……こりゃますます話を訊く必要があるな」


シ「へえ、そんな面白そうなことになってんだ?

  私も混ぜてよ、その尋問」


ヘ「はあ、くそ、一番厄介なのが出やがった」

シ「ひっどいなあ、お前らを逃がすために

  体で時間を稼いでやったのに」

ヘ「ほんとお前は……

  なんでそう変に誤解を生むようなことを言うかな」

シ「鬼の眼光には敵わないっすよまじで

  いやあ、尊敬しますわその愛想のなさ」

ヘ「……」

シ「(笑)」

ヘ「いや、もういい

  相手するのも馬鹿馬鹿しくなってきた」

シ「辛抱が足りないなぁ、いいかい?

  良好な関係の維持には双方のたゆまぬ努力が不可欠なんだぜ?」

ヘ「チッ……」

シ「あそこにいた奴らは建物ごと焼いといた

  取り逃がしがいるかもしれないから安心はできないけど」


シ「んで、本題なんだけど

  その子、名前は?」

ヘ「……聞きそびれてた」

シ「ええ……さすがにドン引きだわ

  商売人としてその社交性のなさはどうなのよ」

ヘ「うるせえな、必死で逃げてたから聞く暇がなかっただけだ」

シ「へいへい、言い訳はいいからいいから

  君、名前なんてーの?」

ス「!」


ス「スプリ、です

  スプリ・フェルディ」

シ「そう、スプリね

  教えてくれてありがと」

ス「……」

シ「ああ、大丈夫

  無理矢理に聞き出したりはしないから」

シ「むしろそれくらい警戒深い方が役に立ちそうだし」

ヘ「おいおい」

ス(役に……?)


シ「私の名前はシュレ・グラッチ

  んでそっちのでかい奴が」

ヘ「ヘリィ・ギブスン、だ

  いろいろ遅くなってしまったが、とりあえずよろしく」


シ「そんでそんで、もう一度聞きたいんだけどさあ

  君、実はリクタリアの人じゃないんだって?」

ス「……はい」

シ「この街が外部の人間を滅多に中に入れないことは知っているよね」

シ「それなのにここに連れてこられて、しかも殺されかけるなんて

  何か特別な事情があるはずなんだけどさあ」

シ「心当たりとか、ある?」

ス「……私自身もよく思い出せないんですけど」

シ「うん、続けて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る