第15話 神界の神々と下界のエル
「ぴぃ、ぴぃ」
僕の手から差し出される神果を、メロンは鳴きながら啄ばんでいる。
メネはテーブルに置かれた僕専用のティーカップに、こぽこぽと綺麗な色のお茶を注いでいた。
小さなメネは人間用の食器や道具は重たくて扱えないので、何かをする時は魔法を使っている。
何でもできる万能な魔法の力を持っているメネが羨ましい。
僕も練習すれば魔法が使えるようにならないかな、と彼女を見ながら思う僕なのだった。
「キラ、お茶が入ったよー」
「ありがとう。お菓子もあるんだね」
「蜂蜜を使って焼いたクッキーだよ。ラファニエルも美味しいって言ってくれたメネの自慢のお菓子だよ!」
「楽しみだなぁ」
生き物の育成は二十四時間かかりっきりになることではあるが、たまには休憩も必要だ。
僕はメロンの頭を指先でちょいちょいと撫でてから、テーブルに移動した。
席に着く僕の目の前に、皿一杯に盛られたクッキーが置かれる。ちゃんと人間サイズだ。
メネの分は別途用意してあるようで、小さな皿に小指の先ほどの大きさのクッキーが盛られていた。
妖精は蜜しか飲まないって思ってたけど、ちゃんと食事もするんだね。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
お茶で喉を潤してから、クッキーを一枚摘まんでぱくり。
さくっとした軽い歯触りの後に感じるとろけるような舌触りは何とも不思議な食感だ。今まで食べたことのあるどんなクッキーとも違う、癖になる一品である。
「美味しいね、これ」
「でしょう?」
メネは嬉しそうに笑いながら、小さなクッキーを口に運んだ。
「メネは料理上手って他の仲間にも褒められたんだよー」
「やっぱり、いるの? メネやカエラ以外にも、妖精が」
ラファニエルは自分のことを古き神々の一人って言ってたから、多分彼女の他にも神はいるのだろう。だから、その神々に仕えている妖精がいるのだろうとは思っていたが……
そうだよ、とメネは頷いた。
「いるよ。メネみたいに下界にいる妖精は稀だけど、神界に行けばたくさん。妖精は、神様のお世話をするのがお仕事だからね」
「ということは、カエラにも仕えてる神様がいるんだ?」
「うん。いるはずだよ。誰なのかは分からないけどね」
「ふうん」
世界の滅びを望む神か……
それってラファニエルみたいな神とは違う、邪神みたいな存在なんだろうか。
でも、それが例えどんな神であったとしても、僕は屈するわけにはいかない。
エルを増やしてこの世界を救うってラファニエルと約束したんだしね。
エルを増やすといえば──
「ねえ。エルの卵って、どうすれば手に入るのかな」
現状、エルの卵はラファニエルが持って来てくれたものを孵している状況だ。
指南書には卵はエルを交配させて手に入れるとあったけど、レッドやメロンが卵を産めるほどに大きくなるのはまだ当分先の話だ。
この状態では、エルを増やすなんてことはとてもできそうにない。
うーん、とメネは小首を捻った。
「卵はエル同士の交配で手に入れるのが普通だけど……神界にある卵を送ってもらう、っていう手もあるよ」
何でも、神界にもエルがおり、そこで産まれた卵を下界(ここ)に送ってもらうという手段があるらしい。
そのためには神界にいる神々と繋ぎを取り、協力してもらうことが必要不可欠なのだそうだ。
「アラキエルとゼナファエルはラファニエルと仲がいいから、お願いすれば多分協力してくれると思う。たくさんのエルの卵を手に入れるには、大勢の神々と関係を持つことが必要だからね」
「どうしてたくさんの神々の協力が必要なの?」
「それはね、神によって管理してるエルの属性が違うからなの。神だから自由に好きなエルを飼えるってわけじゃないんだよ」
ラファニエルは火と風のエルを管理する神なのだそうだ。
それ以外の属性を持つエルの卵を手に入れようと思ったら、他の神に頼むしかないということらしい。
「ひょっとしたらラファニエルから他の神に話が行ってるかもしれないけど……メネからもお願いしておくね」
「うん。宜しくね」
この世界をエルと精霊で溢れる生きた世界にする。
どうやら、簡単にはいかないようだ。
お茶を飲みながら、僕は神果を平らげて満足そうにしているメロンに目を向けて小さく溜め息をついたのだった。
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