第16話 精霊の誕生

 風の牧場が完成した。

 風の牧場は緑が溢れる、僕の中にある牧場のイメージをそのまま形にしたような姿をしていた。

 一面に茂った草には小さな花が咲き、大きく育った木は葉っぱを茂らせてエルが休憩するのに丁度良さそうな木陰を作り出している。

 緑色の水晶の結晶が地面から生えているのは火の牧場と同じだ。

 これで空が青かったら、最高の景色だったんだろうけどなぁ。

 早速、僕はメロンを連れてきて牧場の敷地内に放した。

 メロンは草の絨毯を歩きながら、きょろきょろと辺りを見回している。

 その周囲に、ちらちらと舞う緑の光のようなものが。

「あの光ってるのは何だろう?」

 光を指差して僕は問う。

 メネは何かを発見した子供のようにぱっと顔を輝かせて、言った。

「あれは精霊だよ」

「あれが?」

 精霊っていうと童話とかに出てくる綺麗な女の人みたいな姿をしているものってイメージがあるけど、この世界の精霊は蛍みたいな姿をしてるんだね。

 小さくて、幻想的だ。

「精霊はエルから生まれるの。エルが大きくなれば精霊の数も増えるよ」

「へぇ……」

 精霊はメロンに語りかけるようにメロンの周囲を絶えず飛び回っている。

 試しに触れてみようと手を伸ばしてみるが、精霊は僕の指の間をするりとすり抜けてしまう。

 どうやら、僕が精霊に触れることはできないようだ。

 ちょっと淋しいな。

「この調子で精霊が増えれば、この世界の様子も変わっていくよ。頑張ろうね!」

 メネはガッツポーズを取った。

 この小さな存在がこの広い世界を変えるなんて本当なのかなって思うところはあるけれど──

 これが全ての始まりになるんだと自分に言って、僕は草原の中で遊ぶメロンを静かに見守った。


 レッドとメロンが牧場に引っ越したので、家の中は再び静かになった。

 最初の状態に戻ったとも言うけど、身近に生き物がいる生活を一度体験してしまうと淋しさがより際立って感じられるようになってしまうから困ったものだ。

 牧場から二匹を連れ戻したくなる気持ちを我慢して、僕は指南書を開いた。

 見ているのは、交配のための休息地作りに関してが記されたページだ。

 二匹が大人になるまでどのくらいかかるのかは分からないが、そろそろ作っておくべきだろうと思ったのだ。

 いざ必要になった時になってから作っていたのでは遅いからね。

「メネ、これなんだけど」

「なあに?」

 メネが飛んできて、指南書のページを覗き込んだ。

「休息地作り?」

「うん。そろそろ作るべきなんじゃないかって思うんだけど」

「そうね」

 メネは頷いた。

「エルの成長は早くて、三十日もすれば大人になるの。交配ができるようになるのもその頃から。今から作っておいてもいいとメネは思うよ」

 三十日……っていうと、大体一ヶ月か。

 一ヶ月で大人になるなんて動物ではありえないことだけど、エルは神様だから、動物の常識は当てはまらないよね。

 レッドとメロンの可愛い姿を見られるのも今だけってことか。

 早く大きくなれとは思ったけど、何だか複雑な気分だ。

「休息地作りの魔法は複雑で完成にはちょっと時間がかかるから、やるなら手が空いてる今のうちがいいかも」

「分かった。それなら今やっちゃおうか」

 指南書を閉じて、僕は椅子から立ち上がった。

 それと同時だった。

「邪魔するぞ」

 背後から凛とした声がした。

 唐突の出来事にびっくりした僕が振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

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