next sense

 ・・・・・・・・・・夢を見た。



たったひとつの細胞が、長い長い旅の果てに、小さな生物から進化していく夢。

ときにはエラで呼吸をし、しっぽが生えてたこともある。

やがて、手足が伸びてきて、ヒレが指を形づくり、小さな心臓が鼓動をはじめた。


 どのくらい、時が経っただろ?

気がつけばあたしは、狭くて窮屈な場所にいた。

ほのかに光を感じる。

一面淡い、ピンクの世界。

まるで海のなかをフワフワと漂ってるみたいだ。

とってもあったかい。

柔らかな壁が、あたしを守るように包み込んでる。

指で押すと、弾力があって、プニプニしてる。

なんだかおもしろい。

あたしはいろんなところをつついたり蹴ったりして、遊んだ。


 だけど、そんな楽しい時間は長くは続かなかった。

激しい痙攣けいれんのあと、あたしは狭くて真っ暗なトンネルみたいな空間に、引きずり込まれていった。


ブラックアウト、、、、、


苦しい!

息ができない!

だれか助けて!

ここから出して!




トンネルを抜けると、今度はいきなり真っ白な輝く世界。

まぶしすぎて、目も開けられない。


ホワイトアウト!


その瞬間、あたしは、新しい世界に放り出されたのだ。

細い管をとおして、胎内でぬくぬくと過ごしてきたあたしにとって、自分の力ではじめた最初の呼吸は、すごく苦痛だった。


“おぎゃあおぎゃあ!”


まるで悲鳴のように、真っ白で四角い空間に、あたしの泣き声が響いた。




「可愛い女の子だな。将来が楽しみだよ。名前、どうしようか?」

「実はね。つけたい名前があるの」

「なに?」

「あれは、奇跡の瞬間だった」

「奇跡?」

「高校のときのことよ。

もし、あの時、あなたがトラックにかれてたら、あなたはこの世にいなくて、わたしたちつきあえてなかったし、この子が生まれてくることもなかったわ。

彼女はわたしたちにとって、命の恩人で、恋のキューピットで、想いを遂げられずに死んでしまった、わたしのいちばんの親友。

彼女にはもう一度、生き直してほしい。

だからわたし、その子の名前をつけたいの」

「そう、、、 か。そうだな。オレも賛成だよ」

「じゃあ、決まりね」


ママはあたしのほっぺを撫で、愛おしそうに名前を呼んだ。


「生まれてきてありがとう。幸せになるのよ、あずさちゃん♪」


END


9th Dec.2014 初稿

10th Nov.2017 改稿

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