11th sense 6

現世と訣別するように、あたしは振り返り、足下あしもとにひろがる風景を眺めてみた。

急にいなくなったあたしを探して、航平くんやミクがキョロキョロとあたりを見回してる姿が、豆粒みたいにちっちゃく見える。


なんか、おかしい。

あたしのいた世界って、こんなにちっぽけな所だったんだ。

とってもごちゃごちゃで。

ちんまりとしてて。


そのなかに、たくさんの命がひしめき合ってる。

ほんと、数えきれないくらい、無数の命。

それは、この地球だけじゃない。


感じるーーーーーーーーーーー


宇宙全体に、命が溢れてる。

無限に。

永遠に。


いや、、、

宇宙自体が、ひとつの生命いのちだったんだ。

生きてる時にはわからなかった、宇宙の真理。

それが今、自分の前に広がっているのを感じる。



<それで、、、

これからあたしたち、どこに行くの?>


上も下もわからない、雲のように淡い色彩の空間を、如月摩耶と漂いながら、あたしは訊いた。


<転生します>

<転生? それって、生まれ変わりってやつ?>

<はい。あなたの魂は、これから新しい命に宿るのです>

<生まれ変わりって、ホントにあったんだ! これ、みんなが知ったらビックリするだろ~な。

そんであたし、どこのどの命に生まれ変わるの?>

<それは、あなたが生前行ってきたカルマによって、決められます>

<え~~~っ?! 自分で好きなように転生できないの~~?!

まさか、人間じゃない動物や虫とかに生まれ変わったりしないでしょうね!? そんなのやだ>


ブウたれるあたしに、如月はやさしく微笑みかける。


<大丈夫です。どんな生物に転生するかは、持って生まれた魂のエネルギー量によるのです。

なので、よほど理性や知性のかけらもないような極悪人でない限り、人間界から転落することはありません。

酒井さんなら次の命も、きっといいものになりますよ>

<そっか。じゃあ、今度こそ、素敵な恋人作っちゃうんだ。

そして、クルマにかれるようなドジは、もうしない!>

<ふふ。そうですね>


楽しそうに、如月は笑った。やっぱり彼女、死んでからも超絶美少女だ。


<如月さん。あなたとも来世では友達でいたいね。

面倒かけてごめんね。

あたしがいろいろ執着したばっかりに、あなたの命まで犠牲にして。

あたしがバカすぎた。ほんとに今までありがとう>

<あやまらなくてもいいですよ。わたしにはすべて、わかっていましたから。

死ぬことなど、少しも苦ではありませんでした>

<死ぬって、苦しいことじゃないの?>

<昼と夜を繰り返すように、人の生き死には表裏一体。

そして宇宙もまた、この輪廻のことわりを繰り返しているのです>

<へえ~。そうなんだ。

でもどうして、そうやって何度も生まれ変わったりするんだろ?>

<魂を切磋琢磨せっさたくまするためです>

<切磋琢磨ぁ~? 

よくわかんないんだけど、、、

それって具体的に、なにをどうすればいいの?>

<完全なる生命を全うするよう、生きるのです>

<完全なる生命?>

<欲に溺れず、怒りや憎しみに身を任せず、生きとし生けるものをいつくしみはぐくみ、宇宙の崩壊に逆らって生きることが、生命に与えられた、究極の目標なのです>

<うっわ~~! なんかすっごい難しそう!!>

<そうですね。そこは神の領域ですから>

<神ぃ?!

無理っ。あたしには!>

<そうかもしれません。人の感情は、自分の思い通りには、なかなかコントロールできませんから。

酒井さんも体験したように、人は簡単に闇の世界に堕ちてしまいます。欲望を振り切って生きることは、まず不可能なのです。

だから人間は不完全なまま、何度も輪廻転生を繰り返し、それでも神を目指すのです>

<そうか~。如月さんって、なんか悟ってるんだね。やっぱりあなた、すごいよ!>

<そんなことありません。

正直言ってわたしも、生きることは辛いです。

いじめにあったとき、『慣れてる』なんて強がりを言いましたが、本当はやはり、寂しかったのです>

<そっか。なんか安心した。如月さんにも弱い人間の部分があって>

<なので、死んでしまったあとだったとはいえ、酒井さんとこうしてお友達になれて、嬉しいです>

<あはは。死んでから友達になるなんて。なんかおかしいよね>

<ふふ。次の転生までは、わたしたちのいた世界の時間で、何年かはかかります。

それまではふたりで、この天界で浮き世の垢を落として、ゆっくりしましょう>

<死ぬってことは、魂の休息なんだ。まるでバカンスに来たみたいだね>

<そうですね。現世に戻ったら、また肉体のある苦難の日々がはじまります。

それなら死んでいる間くらい、のんびりさせてもらわないとですね>

<そっか。あはは。なんか変>

<ふふふ… 変ですね>


はじめて見る。

如月摩耶の楽しそうな笑顔。

生まれ変わっても、この笑顔を見てみたいな。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る