11th sense 5

「あ、、、?」


意識が遠のきはじめる。

肉体からだの感覚が薄れてくる。

そんななか、天上からは聞き覚えのある、優しい声が響いてきた。

この声は、、、


<酒井さん。この日が来るのを、わたしもお待ちしていました>

<きっ、如月さん?>

<いっしょに参りましょう。あなたが行くべき、本来の場所に>

<本来の、場所>

<わたしが案内いたします。

あなたを導くために、わたしは一足先にったのですから>

<如月さん、、、

わかった。

でも、その前にちょっとだけ、時間ちょうだい>


横断歩道の信号が青に変わり、ミクやクラスのみんなが驚いた形相で、航平くんの元に走り寄ってきた。航平くんとあたしを交互に見ながら、呆気にとられてる。スマホを構えてムービーを撮ってる子もいる。

あたしは立ち上がり、薄れていく意識を取り戻すように、二三度首を振って、人ごみのなかからミクを探し当てた。


「ミク。今までごめんね」

「あっ、あずさ?! ほんとにあずさなの? 幽霊、、、 じゃないよね?!」


ミクの声はひっくり返り、その大きな瞳をさらに見広げて、ポカンとあたしを見つめてる。

航平くんと同じように、ミクも今の状況を飲み込めないでいるみたい。

そんなことには構わず、あたしはミクの手をとり、一気にしゃべった。


「あたしもう、行かなきゃいけないの。時間がないの。

ミク。

今までごめんね。

あたし、あなたの気持ちに全然気づけなかった。

あなたが航平くんを好きだったなんて、ちっとも知らなかった。

なのにあたしばっかり、浮かれて恋バナして。

ミク。

辛かったよね。

苦しかったよね。

なのにあたしが死んでも、あんた、あたしに義理立てようとしてくれたじゃん。

嬉しいよ、ミクのその気持ち。

もういいよ。

あたしのことは気にしないでいいから。

あたしはもう死んじゃったんだから、ミクは航平くんとつきあって。幸せになって。

あたし、だれも恨んでないし、だれも呪ったりしない。

ミクと航平くんの幸せだけ、心の底から祈ってるから。

ミク。

ありがと。

あんたほんとに親友だよ。

死んでからも親友でいられるなんて、あたしも幸せだよ!

さよなら。ミク!」

「あず、、、 あずさーーーーーっ!!!」


ぎゅっと握ってたミクの手の感触が、すーっとなくなっていく。

気がつくとあたしは、如月摩耶に手をとられ、光のなかを昇っていた。




<酒井さん。もう、思い残すことは、ありませんか?>

<おおあり! だけど、しかたないじゃん>

<そうですね。あなたはもう、死んでいるのですから>

<、、、だよね。今さら、しかたないよね>

<あなたの残存念思も、薄れつつあるようですね。

だけど、あなたが最後に、あんな素晴らしい力を発揮するとは、思いもしませんでした。

実体化なんて、だれにでもできることじゃありませんから>

<そっか。あれって、やっぱりすごいことだったんだ>

<それはもう、奇跡的なくらいに>

<あのね。航平くんが死んじゃうって思った瞬間。あたし、わかったんだ>

<なにがですか?>

<なんだかんだ言っても、やっぱり生きてるのっていいなって。

そりゃ、イヤなことや苦しいことだってあるし、悩んだりもするけど、、、

生きてるからこそ、夢や希望が持てたり、恋だってできるわけだし。だからこそ、航平くんにはもっと生きててほしいなって思って>

<命とは、不完全なものなのです>

<は?>

<生きるということは、不完全な肉体を操る、苦難の連続です。

だけど、それを乗り越えていくことで、魂は磨かれていくのです。

そうして磨かれて鍛えられた魂だけが、あらゆる魂を救うことができるようになるのです>

<なんかよくわかんないけど、それって如月さんみたいだね>

<わたしはまだ、修行が足りません>

<修行かぁ。相変わらず説教臭いところは、生きてるときと同じだね>

<すみません>

<ま。そこが如月さんのいいところなんだけどね>


不思議だ。

あれほど執着してたのに、こうして如月とあの世へ向かってる今、もう、航平くんへの恋も、ミクへの怨みも、みーんな薄れていって、消えてなくなろうとしてる。

なんだかすべて、『いい思い出だったよね』くらいにしか感じない。


さよなら、航平くん。

さよなら、ミク。

さよなら、みんな。

おとうさん。

おかあさん。


つづく

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