11th sense 3

そう言えば、、、

確か、そんなことがあった。


航平くんにラブレターを渡してほしいって、如月摩耶に頼んだものの、グダグダになっちゃって、あたしはじれて彼女に憑いて、自分の口で告ったんだっけ。

でも、航平くんは信じてくれるどころか怒り出して、ミクも切れてラブレターひったくって川に捨てちゃうしで、散々だった。


、、、あれが、はじめての憑依だった。

からだがあるという快感に味を占めたあたしは、夜な夜な如月摩耶に憑依して、ついには彼女を死に追いやってしまった。


あれからあたしのなかで、なにかが変わっていったんだ。


生きてる人間が憎い。

命を謳歌してるヤツが憎い。


それはあたしの生への執着の裏返し。

それほど、生きてることって、楽しかった。

例え、死んで魂は自由になれたとしても、不自由ながらもからだがある方が、よかった。


あたしだって、もっと生きたかった。

学校に通って、ミクや萌香とたくさん恋バナして、航平くんにラブレター渡したかった。

毎日が、光り輝いてた。

そりゃ、暑かったり寒かったりするのは辛いし、おなかもすくし、運動のあとにヘトヘトになったときは、からだがいうこときかなくなるし、勉強するのも大変だし、人間関係に悩むことだってある。

だけど、そんなことって、生きてることに較べたら、ちっちゃな悩み。


死んでから、はじめてわかった。

命って、輝いてるって。


人を好きになって、だれかのことを想ってるときなんて、まるで宝石のように、キラキラ輝く。

あたし、そんなことにも気づかないで、ただ、なんとなく生きてるだけだった。

もったいなかった。

もっと、ちゃんと生きたかった。


一生懸命恋をして、

人を愛して、

好きな人とむすばれて、

新しい命を育んで、、、


そんな風に生きたかった。


、、、、残存念思。


如月摩耶は、そう言ってたな。

それは、生への執着だって。

死んでしまえばもう、生きてる頃には戻れない。

絶対に。。。。。。


なんか、落ち込む。

まあ、今さら生きたいと思っても、しかたがない。

からだなんて、とっくの昔になくなっちゃってるし。

気を取り直して、あたしはふたりの会話に聞き耳立てた。


「実はな、航平から聞き出したんだ」


和馬くんはいっそう秘めやかな声で、ミクにささやいた。


「え? なにを?」

「航平のヤツ、去年の夏の宿泊研修のとき、あずさちゃんとミクちゃんと萌香ちゃんの三人が、スク水で写ってる写真を、持ってるんだ」

「ええっ?! やだ!」

「それでな。最初はあずさちゃんだけトリミングしてA4サイズでプリントして、夜な夜なおかずにしてたらしいぜ」

「おかず、、、」

「いや、それはいいとして、、、

そのあと、ミクちゃんとキスしてから、今度はあずさちゃんの替わりに、ミクちゃんだけをプリントしたんだってさ」

「ええっ。わたしを?」

「そのことはもちろん、だれにも話したことはなかったらしいぜ。

まあ、そりゃそうだろうな。

自分のオナネタなんて、トップシークレットだから。ベラベラしゃべったりしないだろ、ふつー」

「、、、、、」

「でも修羅場のとき、摩耶ちゃんはそれを、スラっと口にした。

そんなの、どんなに巧妙にストーカーしたって、わかるわけねーのにな」

「そ、そうよね」

「例えば、霊になって、航平の部屋に自由に出入りできるとしたら、そんな秘密もわかるかもしれない。

そうやって航平を一途に想ってるあずさちゃんが、怨霊になんかなったりしねーよ。

まあ、幽霊になって四六時中憑きまとうのは、ある意味、レベルの高いストーカーっていえるかもしれねーけどな」

「、、、だったらわたし、余計に航平くんとはつきあえない。

それってデートしてる間じゅう、いつもあずさが側にいるってことでしょ。それを知ってて、航平くんと会うなんて。そんなの、あずさに対する裏切りでしかない。絶対できない!」


そう言ってミクは、唇を噛んでうつむいた。

そんな彼女の気持ちをこじ開けるように、和馬くんは熱を込めて言う。


「そんな風に考えんなよ!

あずさちゃんはもう、死んじまってるんだ。

ミクちゃんの親友を思う気持ちはわかるけどさ、生きてる人間同士、幸せになる方法を探そうぜ」

「、、、」


ミクは黙ったままだった。

思い詰めるように、きつく眉をひそめて、交差点の彼方を見つめてる。


ミク、、、

あんたがそれほどあたしのこと、想ってくれてたなんて、、、


そのときだった。

ミクは瞳を見開き、小さくつぶやいた。


「航平くん!?」


その名前にハッとして、あたしもミクの視線の先を追う。

そこには、、、

たくさんのクルマやトラックの行き交う、交差点の向こう。

横断歩道で信号待ちしてる、航平くんの姿があった。


航平くん。

来てくれたんだ!


だけど、、、


その隣には、ドス黒い血にまみれた制服姿のあたし。

もうひとりの酒井あずさが立ってたのだ!


しかも航平くんのうしろには、別の黒い影が近づいてくる。

それは確か、あたしが死んだ日に出会った、あいつ。

『魔の交差点』でおじさんを突き飛ばし、あわやき殺しかけた、シミだらけのヨレヨレスーツを着て無精髭を生やした、地縛霊だ!!


阿鼻叫喚あびきょうかんのはじまりよ>


もうひとりのあずさは、あたしと目が合うと、ニヤリと笑ってうなづいた。

それが合図だったかのように、地縛霊は思いっきり、航平くんを車道に突き飛ばした。


つづく

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