11th sense 2
その日、ミクはひとりぽっちで、栄川交差点のバス停のベンチに座ってた。
休日の午前中でも、栄川交差点は交通量が多い。
土ぼこりを巻き上げ、トラックが遠慮なく交差点に突っ込んでくる。
そんなクルマの流れをぼんやりと見ながら、ミクは淋しそうにうつむいてた。
両手には大きな百合の花束を抱えてる。
しばらくその花束に目線を落としていたミクは、ふと、交差点の向かいに建ってるビルを見上げた。
屋根に据え付けられてる大時計の針は、もうすぐ10時を指そうとしてる。
再びうつむき、百合の花を見て、ミクはため息ついた。
「ごめん。遅くなっちゃって、、、」
そのとき、ミクのうしろから声をかける女の子がいた。
パッと瞳を輝かせたミクは、跳ねるように立ち上がり、彼女の両手をとった。
「萌香! やっぱり来てくれたんだ!!」
「ん、、、」
頭に包帯を巻いた萌香も、百合の花束を持って、少し恥ずかしそうに、上目遣いでミクを見た。
「ずっと悩んでたのよ。あのとき、あたしを突き飛ばしたのは、あずさの霊じゃないかって。
怖かった。
でも、確かにあずさとは親友だったし、、、
ミクの言ったとおり、それはあの子が死んでからも、変わらないし、だったらちゃんと、あずさにあやまろうって」
「萌香!」
「そう言えば、ここに来る途中のコンビニで、クラスの数人にも会ったよ。
『行かないの?』って訊いたら、『まだ悩み中~、、、』だって」
「ほんとに?」
「うん。すぐそこのコンビニだったし、来たいけど、きっかけがほしいのかもね」
「じゃわたし、誘いにいってこようかな」
「一応わたしも、軽く背中を押しといたけどね」
ふたりが話してるところにバスが到着し、なかから数人の男子が降りてくる。
「よ! 遅れちまったかな。ちょうどいいバスがなくてな」
「中島くん! 坂本くんっ!」
ふたりに続いて、脚にギプスを巻いて松葉杖をついた女の子が、クラスの女子に付き添われ、ゆっくりとバスのステップを降りてくる。
「未希さん! 来てくれたのね!」
「いろいろ考えましたが、やっぱり来てしまいました。
あずささんのことは確かに怖いけど、ここで逃げてばかりいても、解決しないと思って」
「そうよ! あずさはいい子だもん。きっと分かりあえるに決まってる」
感動に声を震わせながら、ミクは小嶋未希の手をとった。
「すまん、待たせちまって。やっと決心がついたよ」
コンビニにたむろしてた数人のクラスメイトたちも、ミクたちと合流した。
「わたしたちもいっしょに行くわ」
「わたしも、ずっとあずさのお墓参りしてないの、気になってたし。みんなで行くならいいかなって」
「怨霊も、みんなで参れば怖くない、ってね」
「もうっ。こんなときにそんな冗談、やめてよね」
「あはは。でもマジで、あずさにはちゃんと成仏してほしいって思ってるから」
「そうよね。なんだかんだ言ってもクラスメイトだもん」
「あずさとのことは、変な形で終わらせたくないしね」
「オレだって、実を言うと酒井のこと、いいなって思ってたし、、、
お墓参りくらいはしたいかな」
「へぇ~! 渡辺。おまえ、そうだったんだ!?」
「墓前で愛の告白か?」
「ヒューヒュー♪」
「高塔山霊園の方に行くバスは、あと15分くらいで来るから。このペースならもう少し人数増えるかもね」
「こんな大人数。バスに乗れるのか?」
「おまえらテニス部は走ってこいよ」
「うっせぇ。陸上部こそ走るの得意だろうが!」
みんな手に手に花束や供え物の果物なんかを持って、バス停でワイワイと騒ぐ。
コンビニから来た子たちは、あたしの好きだったジャガリコやポッキーなんかを持ってる。
そうこうしてるうちに、生徒の数はさらにふくれあがり、かれこれ20人近くになった。
こんなにたくさんの同級生が、あたしのお墓参りしてくれるっていうの?
なんか嬉しい。
この3ヶ月でいろいろあって、みんなあたしのこと嫌いになったかと思ったけど、それは思い過ごしだったんだ。
交差点の信号の上に座って、あたしはしみじみとバス停のみんなを見渡した。
だけど、、、
そのなかに、航平くんの姿はなかった。
「航平くんは?」
あたしの気持ちを代弁するかのように、ミクが和馬くんに尋ねる。
返事に困ったように、和馬くんは頭を掻いた。
「ああ。航平だろ、、、 あいつ今、調子悪りぃからな」
「、、、そう」
「ミクちゃんも、気まずいんじゃないか?」
「え?」
「ちょっと、、、」
そう言うと、和馬くんはだれにも気づかれないよう、こっそりミクに手招きして歩き出した。
「ミクちゃん、航平と別れたんだって?」
バス停裏のビルの陰で、和馬は小声でミクに訊いた。
「あ。う、うん、、、」
ミクはうつむく。
「今日も一応誘ってるんだけど、あいつも気まずいらしくて、、、
今からでもヨリ戻せねーか?」
「でも、、、、
やっぱり、わたしは航平くんと、つきあえないの」
「それって、ミクちゃんの本心なのか?
航平のこと、嫌いになったのか?」
「そんなことない! わたし今でも、航平くんのことが好き。でも、、、」
「『あずさが今もこのあたりにいて、成仏できずに
「…」
「航平から聞いたぜ。
だけど、あずさちゃんが怨霊になったのは、ミクちゃんのせいじゃないと、オレは思うよ」
こら、和馬!
いい加減なこと言わないでよ!
あたしが怨霊になったとしたら、それはもう200%、ミクのせいなんだから!!
「ほんとに?」
「ああ。だいたい、あのあずさちゃんが怨霊だなんて、そんわけないじゃん。
あずさちゃんって、ちょっとはねっかえりなとこはあったけど、いい子だったよな。
あんないい子が怨霊になるなんて、ありえないじゃん」
「でも、小嶋さんの、、、」
「オレ、信じてねーから。あんなインチキ降霊術。
あれからいろいろ
逆に摩耶ちゃんの方が『ホンモノ』だったんじゃねーかって、オレは思ってる」
「摩耶ちゃん? 如月、摩耶さん?」
「いつか、ミクちゃんと航平と摩耶ちゃんで、学校の裏で修羅場ったことがあったんだろ?」
「え? ええ」
「航平から全部聞いたぜ。
そのときは、摩耶ちゃんがふざけてると思ってたけど、あずさちゃんが憑依したんだとしたら、全部つじつまが合う、ってな」
つづく
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