11th sense 1

     11th sense


   『7月8日は、先日交通事故で亡くなった

    酒井あずささんの月命日。

    この機会にお墓参り会をしたいと思います。

    みなさんぜひぜひ参加して下さい☆


        日にち:7月8日

       集合場所:栄川バス停

       集合時間:10時


    たくさんの参加を待ってます♪』



数日後、可愛らしいイラストの入ったポスターが、教室の掲示板に貼り出された。

この文字とイラストは、ミクが描いたものだ。

ポスターを見た生徒はミクを呼び止め、廊下の陰や教室の隅っこでヒソヒソ声で忠告した。


「ミクぅ、大丈夫? お墓参りだなんて」

「大きな声じゃ言えないけど、あずささんって、その、、、 たたるんでしょ?」

「『触らぬ神に祟りなし』っていうじゃない。やめといた方がいいんじゃない?」

「そりゃ、生きてる時はあずさとは仲よかったけど、、、 今は無理なんじゃない?」

「萌香や小嶋さんみたいになりたくないし、、、 やめた方がいいよ」


そんなみんなの言葉に、ミクは軽く微笑んでかぶりを振り、最後には必ずこう言った。


「大丈夫。あずさとは親友だもん。今だって」



『親友、、、、、、』


そう、、、

あたしたち、親友だったよね。

以前は。

だけどずっと、ミクはあたしを裏切ってた。

あたしの気持ちを知っていながら、航平くんのことを好きになり、あたしが死んだとたん、言い寄っていったんだ。


そんなの絶対、許せない!



、、、と思いつつも、あたしのなかに、あきらめの気持ちも芽生えていた。


『あたしって、やっぱり死んじゃったんだな』

って、事故現場に行って、その事実を改めて思い知らされちゃった。


今さら航平くんのことを想ってみても、しかたのないこと。

生きてる人間と死んだ人間。

もう交わることはできない。

だったらあたしは、航平くんとミクがうまくいくことを、祈った方がいいんじゃないだろうか?

ミクはあたしのこと忘れないで、今でも事故現場に花束を手向けてくれてる。

そんな彼女とつきあえば、きっと航平くんも幸せになれる。

その方が、、、


<このバカタレが!

だからおめぇはいつまでたっても、航平をモノにできねぇんだよ!!>


そのとき、いつもの下級霊が、あたしの頭を小突こづいて怒鳴った。


<いいか?

おまえはあの如月摩耶をき殺したんだぞ>

<え? あ、あたしは別に、殺したかったわけじゃ、、>

<バカが!

それくらいおまえにはパワーがあるってことさ!

おまえは、如月摩耶でさえ手を焼いてた下級霊どもを、たった一喝で追い払えるくらい、強大な力を秘めてる。それを使わずに、むざむざおまえの愛しい航平を、ミクなんかにくれてやることはねぇだろう。

なにしろミクのやつは、おまえをずっと裏切ってたんだからな。

ちぃとばかり花を手向けられたからって、その罪は消えねぇぜ。

ミクのことは、死ぬまで許しちゃいけねぇ!>

<そ、そりゃ、そうだけど、、、>

<なにを躊躇ためらってるんだ?

おまえの力をもってすれば、航平をこっちに連れてくるなんて、朝飯前のことじゃねぇか。

おまえは航平が好きなんだろ?!

ラブレターを渡したいばかりに、おまえはこの世に留まって怨霊にまでなっちまった。

あとひと息じゃねぇか。

その想いを果たさずに、ここであきらめてどうする?

航平を殺っちまえ!>

<う、うん、、、>

<煮え切らねえヤツだな!

それともなにか?

おまえは航平のこと、どうでもいいってのか?!>

<そ、そんなことない! けど、、>

<だったら迷うんじゃねぇ!

航平をこっちに引きずり込む。

それしかおまえと航平が結ばれる方法はねぇんだ!!>

<そ、そうね>

<いや、航平だけじゃなく、ミクも萌香も、クラスのやつらも、みんなまとめてっちまったらどうだ?>

<ええっ? なんてことを!>

<こいつらみんな、おまえに怯えて、墓参りさえ来たがらねぇ。

生きてる時は仲がよかったといっても、死んじまえば怖がって寄りつかねぇ。

薄っぺらな友情じゃねぇか。

そんな友達がいのねぇやつらなんか、もういらねぇだろ!>

<う、うん、、、>

<ダンプでも突っ込ませて、みんなまとめて処分したろか?>


この下級霊はずっとまとわりついて、あたしの気持ちをかき乱す。

いったいなんなの?


<だっ、だいたいあんたはなんなのよ?!

どうしてあたしに、いつも絡んでくるの?>


あたしが問いただすと、下級霊はニヤリと笑った。

いや。

目も口も鼻もないから、笑ったかどうかはわからない。

だけど確かに、こいつは笑ったのだ。


<ケケケっ。

オレ様の正体か?

オレ様の名はなぁ。

『酒井あずさ』ってんだよ>

<へ? そんなバカなこと、、>

<冗談なんかじゃねぇ。

よっく見てみろよ>


そう言うと、下級霊の姿は消えた。

替わりに、闇の向こうから現れたのは、、、


額と胸から血を流し、頬がこけて青白い顔をした、あたし、、、

酒井あずさだった!


<驚くことはないよ>


呆気にとられてなにも言えないあたしに近づき、もうひとりの『酒井あずさ』は、あたしの頬を両手で包み込むように撫で、唇を耳元に近づけて、やさしくささやいた。


<酒井あずさ。あんたはひとりぽっちじゃないんだよ。いつもあたしがついてるんだから>

<…あ、あんたは、、、>

<悪魔。。。 だとでも思う?

そうかもしれない。

だけどあたしは、あんたが生み出した、もうひとりのあたし。

まぎれもなく、あんたの心そのものなんだよ>

<心?>

<あたし、醜いでしょ?

だけどそれも、あんたの一部。

醜い自分を否定しちゃいけない。

あんたは確かに、航平を呪い、ミクを呪い、クラスのみんなを呪った>

<そっ、それは、、、>

<心配しないで。

例えあんたがだれかを呪ったとしても、あんたは地獄に堕ちるわけじゃない。

地獄なんて、ないんだもの。

あんたはだれかに非難されることもないし、裁かれることもない。

この世界にあるのは、永遠の自由だけ>

<永遠の、、、 自由>

<あんただって、こっちに来てわかっただろ?

死ぬことは、人生の最後なんかじゃない。ただの、魂の居場所の違いなんだって。

肉体なんて、魂に操られてるただの木偶でくの坊。

こっちに来てあんた、不自由なことがあった?

おなかもすかないし、眠たくもならない。いつでも好きな時に好きな場所に行けて、好きなことができる。あっちの世界なんて、肉体に縛られた仮初かりそめの場所で、魂の本来の居場所はこっちなのよ>

<魂の本来の、居場所、、、>

<そう。

だからもう、迷わないで。

あたしが航平を、こっちに連れてくる段取りしてあげる。

そうすれば航平はもう、あんたのもの。

あんたの想いはもうすぐ叶うよ。

そして航平とふたりっきりで、この世界で、永遠に愛しあおうよ>

<愛しあう。永遠に、、、>

<楽しみね。ふふふ>


最後に耳元で笑うと、もうひとりのあたしは消えた。


想いが叶う?

航平くんとふたりっきりで、永遠に愛しあえる?

ほんとに、それができるの?


だったらもう、迷わない!


あたしは航平くんが好き。

航平くんとひとつになりたい!!


今のままじゃ、あたしは航平くんと触れ合うどころか、話すことも、、、

ううん。

存在を認めてもらうことすらできない。


あたしと航平くんが同じステージに立つには、もうひとりのあたしの言葉に従って、航平くんをこっちの世界に連れてくるしかない。

それしか、方法はないんだ!

そして、、、

航平くんがこっちに来たあと。

あたしのこの想いを、思いっきり打ち明けるんだ!


つづく

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