9th sense 5

<あんたなの? こんないたずらしたの!>

<おまえの代わりにやっただけだ>

<あたしの代わり?>

<ミクを憎み、萌香を憎み、クラスのみんなを呪ってる。

そんなおまえの代わりに、オレ様がやっただけのことさ>

<…もしかして。萌香を鉄棒から突き落としたのも、あんた?>

<あの女は親友だったおまえを裏切って、ミクに手を貸してただろ。

相応の罰を与えてやらなきゃな。

おまえだって、いい気味だと思ってたじゃねぇか>

<そんな、、、 萌香はあたしの親友、、>

<よしな!

愛だの友情だの、くだらねぇ!

おまえを好きだったはずの男だって、別の女が言い寄ってくりゃ、簡単に心変わりするんだぜ。

見ろよ、あの男を!>


そう言って、黒い影は向こうを指差した。

階段の手すりのところで動けなくなってるミクの隣に、航平くんが寄り添ってる。

かばうように肩に手をかけて、ミクをいたわってる。


、、、航平くんは、ミクを見つめてる。

決してあたしには向けられることのなかった、とってもやさしい瞳。

我に返ったミクが、航平くんにしがみつく。

そんな彼女を、航平くんはしっかりと抱きしめた。


<、、、>

<ケケ。航平はもう、あの女のからだに夢中だぜ。

愛だ恋だなんて綺麗な言葉はしょせん、おのれの性欲を美化するための誤魔化しよ!

航平だって夜な夜な、卑猥なミクの姿態を想像しながら、手をよごしてる。

あの男の頭んなかは、いやらしい肉欲でいっぱいだ。

おまえのことなんかもう、これっぽっちも想っちゃいねえぜ。

ってか、死んじまったおまえのことなんか、早く忘れてぇんだとよ。

あたりめぇだろ。

おまえと航平はもう、交合まぐわることもできねえもんな。

航平には、用なしの存在なのよ!>

<、、、>

<ケケッ。人間はいつもそうだ。

おのれの欲のためには、簡単に人を裏切る!

忘れちまう!

そんな薄情なやつらに、おまえは復讐してやりたくて、たまんねぇんだろうが!!>


『復讐』


下級霊の言葉が頭で渦巻く。

その瞬間、航平くんとミクの姿が、血の色に染まった。

目の前に広がる景色が、真っ赤にしか見えない。

心の奥底にある憎しみのマグマがグツグツと煮えたぎり、溢れ出してくる。


そんなあたしの気持ちを見透かすように、下級霊は意外な言葉を口にした。


<酒井あずさ。

それでもおまえは航平を、自分のものにしてぇんだろ?!>

<え? そ、、、そりゃ、そうだけど>

<ケケケケケッ。

ふざけたこと言ってんじゃねぇぜ!

おまえはなあ、もう頭っからつま先まで怨念で凝り固まって、だれからも愛されねえ醜い姿に、変わり果てちまってるんだよ!>

<…>


ええっ?!

今のあたしって、はたからはそんな風に見えるの?

ショック!

追い打ちをかけるように、下級霊は叫んだ。


<酒井あずさ。おまえはその醜い姿を、航平の前に晒してぇのか?!

今さらどのツラ下げて、航平の前に出られるってんだ。ちゃんちゃらおかしいぜ!>

<おかしいぜ!>

<おかしいぜ!!>

<やーい。怨霊! 怨霊!!>

<醜い女め~>


こだまのように、下級霊たちの嘲笑あざわらう声が、あたり一面から響いてきた。

気がつけば、玄関や天井は下級霊たちでいっぱいになってた。

なんか、、、

頭んなか、パニック!

いったいあたしはどうしたら、、、


<だけどな、ひとつだけ方法がある>

<えっ?>

<航平とおまえが交合まぐわれる方法よ!>


黒い影はそう言って、にやりと笑った。

いや。

ただの影だから、笑ったかどうかわからない。

だけど、そいつの感情が直接あたしのなかに入ってきて、不気味な笑顔を浮かべたのだ。

それは、一筋の希望だった。

今のあたしには、その希望にすがるしかない。

せっぱ詰った声で、あたしは訊いた。


<そ、それって、どんな方法なの?!>

<ケケケ。簡単に教えられるかよ!>

<そんな、、、>

<ま、いいぜ。おまえはオレたちの嫌いなあの女を、ほふってくれたからな。その礼に特別に教えてやるぜ>

<あの女?>

<如月摩耶よ。

あいつはいけねぇ。

闇に屈することのねえ、ヤなやつだった。

それを始末してくれたんだからな>

<べっ、別にあたしは、殺したくて殺したんじゃ、、、>

<ケケ。そんなのどうでもいい。

とにかく、オレたちゃおまえの味方だぜ>

<味方、、、>

<だから教えてやる。なに、簡単なことよ。

要するに、航平のヤツを、こっちの世界に引っ張ってくりゃいいだけのことさ>

<こっちの世界に?

、、ってことは、航平くんを死、、、>

<そうさ!

ヤツをっちまうのさ!>

<でも、死んでみんなが幽霊になるわけじゃないんでしょ?>

<そうだ。

幽霊ってのはふつー、この世に執着や未練があるやつか、自分が死んだことを自覚できない程、突然死したやつがなるもんだ。

だからよ。

航平には本人に自覚がないくらい突然に、悲惨な死に方をさせりゃいいのさ!>

<そんな…>

<死んで天界に昇るまでには、わずかな時間がある。航平の魂が肉体から離れた瞬間をねらって、おまえがこの闇の世界に引きずり込むんだ。そうすりゃ航平はおまえのもんさ>

<でも、それじゃ、航平くんは、、、>

<おまえ、ひとりぼっちで寂しいんだろ?!

今の真っ暗闇の世界は。

だが、航平がくれば、ふたりっきりで楽しく交合まぐわっていけるぜ。永遠にな>

<、、、>

<そうだそうだ!>

<殺せ! 殺せ!>

<航平を引きずり込め~!>

<闇に堕とせ~!>


下級霊たちはいっせいにはやし立てた。

どうしよう、、、

あたしにはほんとにもう、航平くんを殺すしか、道はないの?

それしか航平くんに気持ちを打ち明ける方法は、ないの?


つづく

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