9th sense 4

「あっ。ミクちゃん手を離すなよ!」

「ごっ、ごめん!」


真っ青な顔で、ミクは慌てて航平くんの手に自分の手を重ね直す。

目隠しした小嶋未希の顔にも、焦りの色が浮かんできた。

それを見ながら、下級霊どもは嬉しそうに小躍りしたり、小嶋未希の頭に乗って、勝ち誇ったようにガッツポーズをとったりしてる。


、、、なんか、腹立ってきた。

こいつら、なんで勝手なこと言ってんのよっ!

そりゃ、航平くんを横取りしたミクや、それを知ってて黙ってた萌香にも腹立つし、怨みも感じてるけど、あんたら下級霊どもにとやかく言われたくないわよ。


<いい加減にしてよね!

もうここから出てって!!>


大声で、あたしは下級霊どもを怒鳴りつけた。

下級霊は一瞬飛び上がって驚き、ジリジリと後ずさりをはじめると、少しづつ部屋の中から消えていく。ようやくあたりが鎮まり、コインもピタリと動きを止めた。


「酒井あずささん。

酒井あずささん。

ありがとうございました。

もうお帰り下さい。

酒井あずささん、、、」


小島未希はまだ呼びかけてた。

だけど、いたずらしてた下級霊たちがみんないなくなった今、コインは1ミリも動かない。

とりあえずあたしも、コインを十字架の位置に動かすよう、頑張ってみた。

だけどやっぱりダメ。ピクリとも動かない。

なんで下級霊にはできて、あたしにはできないんだろ。


「酒井あずささん。

酒井あずささん、、、」


しばらく呼びかけてた小嶋未希は、ようやくあきらめてアイマスクをとり、自分の指でコインを十字架のところに戻すと、『ふぅ』と大きくため息ついた。


「さっき、ミクさんが手を離したから、霊界との交信が途絶えてしまいました。もう酒井さんの霊とは、交信できません」

「、、、わたし、どうなるの?」


怯えながら、ミクは訊いた。


「トランス状態を突然解除されたので、霊が憑いたままになっています。除霊しないと悪いことが起こるかも、、、」

「え~~っ?!」

「でもコックリさんって、一種の催眠術だっていうじゃないか?

霊が憑くなんて、そんなことあるわけないよ」


ミクをかばう航平くんにはちょっと腹立つけど、それは一理ある。

だいたい、この子の降霊術って、まるっきりのインチキ。

ちょっとは霊感あるとしても、あたしと下級霊の区別もつかないし、だれと話してるかもわかってない。

如月摩耶の場合は、あたしから声かけなくてもちゃんと存在をわかってくれてたし、会話もできた。

それに較べると小島未希って、まったくダメダメ。

期待して損しちゃった。



 なんかみんな、暗い、、、

降霊の儀式が終わったあと、しばらくだれも話をしなかった。

『殺す』だの『呪う』だのといった、下級霊の戯言をみんな真に受けちゃって、かな~り凹んでるみたい。


「、、、やっぱり、信じられないぜ。

あのあずさちゃんが、あんなにみんなを恨んでるなんて、、、」

「、、、オレだって信じたくない。けど、、、」


航平くんと和馬くんが、ひとりごとのようにつぶやいた。

ふたりとも、顔色が悪い。

ミクなんか今にも泣き出しそうな顔で、気分悪そうにハンカチを口元に当て、ずっとうつむいたまんま。

小嶋未希でさえも、顔に不安の色を浮かべてる。


「ん~。メインイベントも終わったことだし、、、

そろそろ帰るか」


そう言って和馬くんはかったるそうに重い腰を上げた。

みんなもノロノロと、それに続く。

和馬くんは真っ先にドアを開け、階段を降りはじめる。

ミクがそれに続き、小嶋未希もボードをバッグにしまって席を立つ。みんなが廊下にを出るのを見届けた航平くんは、部屋を出てドアを閉めた。


帰れ帰れ!

あんなインチキ儀式になんの意味もないけど、そんなのみんなにはわかんない。

降りてきたのはあたしってみんな信じ込んでるから、さっきの酷い言葉はみんな、あたしが吐いたと思われてる。

ったく、とんだ濡れ衣だわ。

頭に来る。

それもこれも、あんたのインチキ儀式のせいよ!


廊下を歩いてた小島未希を、あたしは腹立ちまぎれに蹴っ飛ばした。

もちろん、あたしの足は彼女をすり抜け、虚しく空を切る。


ところが、、、


どこに隠れてたんだろ?

一匹の下級霊があたしの足下から飛び出してきて、階段を下りようとしてる彼女を、うしろから突き飛ばしたのだ!


「きゃっ!!」


小島未希はバランスを崩し、階段の上でよろける。


「危ないっ!」


うしろにいた航平くんは、とっさにかばおうとして手を出したが、一瞬遅かった。

彼女はそのまま、階段のいちばん上から転げ落ちていった。


「きゃっ!」「うわっ!!」


航平くんの叫び声で、階段の途中にいたミクは、反射的に手すりにしがみついた。

ミクはすれすれでかわしたが、いちばん下にいた和馬くんは、小嶋未希とモロにぶつかり、もつれあって玄関まで転がっていった。


「痛って~~~~;; 大丈夫か? 未希ちゃん?!」

「痛い。痛い! あ、足が、、、」


苦痛に顔を歪めながら、小嶋未希は右足首を押さえた。

和馬くんも肩を打ったらしく、痛そうにさすりながらも、心配そうに彼女が押さえてる足を覗き込んだ。


「やべっ! 血が出てるぞ! 航平っ!!」


階段を駆け下りた航平くんは慌ててリビングへ向かうと、救急箱を持ってくる。

ミクは恐怖でからだが固まったように、階段の手すりにしがみついたままだった。


そんな光景を、あたしは傍らで見てた。

どうして、、、

どうしてこんなことになったのよ?


<ケケ。おまえもそれを望んでただろ?>


気味の悪い声が、どこからともなく聞こえてくる。

あたりを見ると、座り込んだ小嶋未希のうしろから、下級霊らしい黒い影が姿を現して、あたしの方に近寄ってきた。


つづく

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