7th sense 2
「だけど、日頃は無口でおとなしくて、品のいい如月さんが、まるで人が変わったように、いきなりあんな口調で話すなんて、ありえないだろ?
それに、あのとき如月さんが言ってた言葉。
今考えると、妙に説得力あるんだ。
とても、ただのストーカーだとは思えないよ」
「なんて言ってたっけ?
『スク水写真』?
それって、なんなの?
ほんとにわたしやあずさのスク水写真なの?」
「い、いや。そうじゃなくって、、、」
航平くんは慌てて否定する。
「もしかして、あのときしゃべってたのは、本当に酒井さんだったかもしれないって、そう思ったりするってことだよ。如月さんに酒井さんの霊が乗り移ったとか」
「そんなこと、あるわけないじゃない。
だいたい如月さんとあずさって、話したこともないくらいなのよ。
あれは如月さんが航平くんのこと好きで、ずっとストーカーしてたことを、あずさのせいにして話したんのよ」
「ほんとにそうかな?」
「そうに決まってる。
酷い話よね。
あんなふざけたしゃべり方で、あずさのフリして告白するなんて。
あずさが、かわいそう過ぎる。
死んでまで利用されるなんて。
如月さんのことは前から変な人だと思ってたけど、あそこまで性格曲がってるとは思わなかった。人として最低!」
「いや。
如月さんがあんなことするはずないよ。なにか
「、、、航平くん。
如月さんのこと、好きなの?」
「えっ?
どうしてそうなるんだ?!」
「だって…
如月さんって
航平くんって、ああいう、神秘的な感じの、儚げな美少女が、好みなのかなって思って、、、」
そう言ってミクは視線を逸らし、短いスカートの上に置いた両手をギュッと握りしめて、可愛く
「わたし、、、
如月さんやあずさが羨ましいのかもしれない。
女の子のわたしから見ても、あずさって可愛い子だったし、性格もいちずで、ちょっと勝ち気なとこも手応えあってよかったし、、、
航平くんがあずさのこと好きになるのも、当たり前、、、」
軽く唇を噛み、ミクは目を伏せながら続ける。
「わたしはふたりみたいに、美人でも可愛くもないし。
こうして、航平くんといっしょにいる資格なんて、ないなぁって思って、、、」
「そんなの、関係ねぇよ」
「…」
ミクの言葉を遮り、航平くんは強い眼差しで彼女を見つめた。
一瞬、驚いたように目を見開いたミクは、憂いのある表情で、彼を見返す。
ミクの得意技、
こんな色っぽい眼差しを向けられたら、男子はたまらないだろう。
案の定、航平くんはうろたえた様子で頬を染め、ミクから目線を逸らせ、たどたどしくフォローした。
「あ、安藤さんって、男子から人気あるよ。
仕草とかしゃべり方とか、女の子っぽくて可愛いし、とっても話しやすいし、、、」
ミクはかぶりを振った。
「別に、たくさんの男子にモテたいなんて、思ってないし。
ただ、、、」
「ただ?」
「たったひとりの好きな人から、振り向いてもらえれば、それでいい」
そう言ってミクは瞳を潤ませ、意味深に航平くんを見つめる。
今度は航平くんも、視線を逸らせなかった。
長いこと、ふたりは見つめあったまま、、、
なんか、イヤ~な展開。
「、、ごめん。わたし、、、
航平くんのこと、騙してた」
ポツリとミクが言った。
「え?」
意外な台詞に、航平くんは驚いた。
「『わたしのこと、あずさだと思って、キスして』って、こないだ航平くんに言ったじゃない?」
「あ。ああ、、、」
「わたし。全然、あずさになりきれてなかった」
「…」
「安藤未來として、航平くんのキス、受け入れちゃったの」
「…」
「ごめんなさい。これじゃあ、あずさに怒られるわね」
、、、そりゃ、怒るわ!
ミクが『酒井あずさとして』って言うから、あたしだって不本意だったのを、無理矢理納得させたっていうのに、今さら『あれは安藤未來だった』だなんて、いったいなんなのよ!
だけど、そのあとの航平くんの言葉は、さらに衝撃的だった。
「いいよ。
ぼくだって、安藤さんだと思って、キスしたし。
酒井さんのことは確かに好きだったけど、今さら思ってみても、もう仕方ないしな」
どういうことよ!
『安藤さんだと思ってキスしたし』って?
航平くんが好きなのは、あたしのはずでしょ?!
『今さら思ってもしかたない』って、、、
あたしはいつでも航平くんの隣にいて、航平くんのこと想ってるのよ?
どうしてそれがわからないの??
ポッと出のミクなんかに気持ちが移るなんて、ありえない!
航平くんを誘ってるのだって、どうせミクのいつもの恋愛ゲームに決まってる。
『親友の好きな人を横取りする』ってシチュエーションに酔ってるだけよ!
そんな女を好きにならないで!
あたしの怒りも虚しく、ベンチに座ったふたりは、じっと見つめ合ったままだった。
大声を上げたりふたりの間に割って入っても、全然ダメ。
「航平、くん、、、」
「安藤さん」
「ミクで、いい」
「…」
親しげに名前を呼びながら、お互いの顔がゆっくり、少しずつ接近していく。
ミクは目を閉じ、わずかに顔を上げ、唇を緩めた。
それが合図だったかのように、航平くんはミクに顔を寄せる。
そして、、、
瞳を閉じて、キスをした。
くやしい!
ミクも、航平くんも、、、
許せない!!
瞬間、あたしの目の前には真っ赤な渦が巻き上がってくる。
その渦は灼熱の炎に変わっていき、あたしを包み込む。
もう死んでるっていうのに、あたしのからだは炎に焼かれ、焦げていった。
苦しい。
苦しい!
だれか助けて!!
気が狂いそう!!!
その日から、あたしに見えるのは、真っ赤な景色だけになった。
どこを見ても、ドス黒い炎が渦巻いてる。
今まで見えてた街並だとか、学校の風景とかも、まるで真っ赤なサングラス越しに見てるみたいに、血の色に塗りつぶされてる。
ま、いいか。
相変わらずハブられ虐められてる如月摩耶が、それでも心配そうにあたしを見てることさえ、もうどうでもよかった。
あたしは毎日航平くんが学校から帰ってベッドに入るまで、その隣に張り
だけど、、、
そんなことをしても、ふたりの距離は広がっていく一方だった。
航平くんとミクは、学校のないときも会うようになっていた。
休みの日、ふたりは私鉄の駅で待ち合わせて、遊園地や水族館に出かける。
仲良さそうに絶叫マシンに乗ったり、イルカショーを見たりしてる。
まるで、、、
恋人同士みたい。
、、、羨ましい。
、、、恨めしい。
帰り道、航平くんは必ずミクを家まで送る。
そして、丘の上の公園に寄って、あのベンチに座りながらキスするのだ。
航平くんの瞳に写ってるのは、もう、あたしじゃない。
強い生命力のある色気をムンムンと
もはや霊魂だけになったあたしが、生きた女のミクに敵うはずもない。
親友だったのに。
許せない!
そしてある日、とうとう航平くんの部屋に、ミクが上がり込んできた。
つづく
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