6th sense 3
如月のあまりのふがいなさに、あたしは思いあまって、彼女に突進していった。
いつもなら人のからだはすり抜けるのに、如月とぶつかった瞬間、彼女の中にめり込んでいくような感覚に襲われる。
一瞬目の前が血の色に染まり、細胞が、そして筋肉や内蔵がフラッシュバックしていく。
あたし、、、
如月摩耶に乗り移っちゃった!
久し振りに感じる、血と肉のぬくもり。
からだが地面にめり込みそうになる。
これは、、、 重力の感触だ。
物理の法則に縛られた肉体は、霊のときみたいに自由自在に動けない。
生きてる人間って、こんなにたくさんの
<酒井さん、酒井さん! これだけは… これだけはダメです。今すぐ出て下さい!>
頭の中に、直接訴えてくる声が聞こえてくる。
如月摩耶の意識だろうか?
あたし自身も、この予期しないできごとにまごついてた。
<あたしだってわけわかんない。
なに?
なんでこんなに手足が重いの。
全然思い通りに動かないじゃない!?>
<それはわたしのからだだからです。いきなり入ってきた酒井さんがコントロールできないのは、当たり前です。それより早く、出ていって下さい!>
<出ていけって、どうやればいいのよ?!
それよりせっかく自分の言葉でしゃべれるようになったんだから、しばらくあなたのからだ貸してよ。自分で告るから。あなたじゃ話しにならないわ!>
<それはダメです。人間に
<どう危険だっての? ちょっとくらいいいじゃない。すぐに終わらせるから>
<ダメです。勘弁して下さい>
<ケチッ! どうしてもダメだっていうなら、このまま川に飛び込んで死んでやるっ!>
<ううっ… 仕方ありません。少しの間だけお貸しします。
だけど本当に、できるだけ早く憑依するのをやめて下さい。
自分以外の肉体に入るのは、霊にとってリスクが高いことなのです。
このままではあなたは、どんどん成仏できないようになってしまいますから>
<わかったわよ。用事が終わったらさっさと出ていくから、説教はあとにして!>
わずか2~3秒くらいのやりとりだったろうけど、あたしたちはひとつのからだのなかで言い争ってた。
が、如月はようやく観念して、そのからだをあたしに使わせてくれることになった。
他人のからだを動かすのって、すっごく変な気分。
まるで、ぎゅうぎゅうの満員電車のなかで二人羽織でもやってるかのように、窮屈で、思うように動かせない。
しかも、久し振りの重力のせいか、からだが重すぎる。
如月って痩せてて背も低いから、体重だって40kgもないくらいなのに、今のあたしには40tもあるような巨大怪獣のように感じる。
指一本動かすことさえ、ままならない。
なのでとりあえず、あたしはしゃべることにだけ、意識を集中した。
「航ぺー、ふんっ。あらし、、、さ、酒井、あずさらの。
あらし、夜らべしし、、して、ラブレラー、、かっかっ、書いた、ろよ!」
ええっ?
なに、この、、、 酔っぱらいみたいなしゃべり方は。
「航ぺーくんに、こっこっ、、の想いを、知っれも、らいらくれ、、、
航平くんらって、あらしのころ、好きらって、言っれ、くれたじゃない。
ほんとに、嬉しかったんらから!」
それでもあたしは諦めずに、しゃべり続けた。
次第にコツがわかってきて、
久しぶりに人としてしゃべれるのが嬉しくて、あたしは調子に乗ってまくし立てた。
「あらし、、、
ずっと航平くんと話したかった。
なのにあたしはもう死んじゃって、航平くんとはいっしょにいられない。
あたしずっと、航平くんといっしょにいたかったのに、もう永遠にその望みはかなえられないの。
だからせめて、あたしのこの気持ち、航平くんに忘れないように覚えてもら、、」
「やめろよっ!!」
航平くんが絶叫して、あたしの言葉を遮った。
なんで、、、?!
「如月さん。それって、酒井さんのマネか?
、、、ふざけるのもいい加減にしろよ!
それ以上、死者を
航平くん、、、
手が、グーになって震えてる。
ヤバっ。
なんか、ミスったかも、、、
「嘘じゃないのよ!
あたしは正真正銘の酒井あずさなんだから」
とにかく信じてもらうしかない。
あたし@如月摩耶は必死に訴えた。
「信じてほしいの!
あたしはここにいるのよっ。
あたし、死んだあともずっと、みんなといっしょに学校行ってたのよっ。
航平くんにも、ずっとくっついて回ってたんだから。
その証拠に、航平くんのこと、あたしなんでも知ってる。
航平くんが部活帰りにいっつも食べてるお好み棒や、唐揚げ棒塩味のことだって知ってるし、お風呂に入ってからだを洗う順番まで知ってる。航平くん、いつも最初に頭っから洗うよね。
宿泊研修で海に行ったときに撮った、あたしとミクと萌香のスク水写真を、航平くんがこっそりゲットして、あたしだけトリミングしてプリントして、秘密のファイルにしまってることだって知ってるし!
なのになんなの?
ミクなんかとキスしちゃって。
ミクもミクよ。
『あたしの代わり』なんて、頼んでないし!
なんであんなことするのよ!
おまけにミクのスク水画像までプリントするなん、、、」
「もうやめて!」
今度はミクが叫んだ。
航平くんは呆気にとられた顔で、あたしのこと見てる。
「如月さん、あなた、自分のしてること、わかってる?!
もう完全に、ストーカーの範囲を超えてるわ。
犯罪よ!
あずさが、、、
あずさがかわいそうすぎる!
もうあずさのことはそっとしてて!
航平くんにもつきまとわないでっ!!」
「べっ、別にあたしは、つきまとってるわけじゃ、、、」
ミクの剣幕に押され、あたし@如月摩耶はうつむいて小さな声で反論した。
上目遣いにふたりを見る。
航平くんは完全に怒ってるし、ミクは顔を両手で覆って泣いてる。
完全に収集つかなくなってる。
そりゃ、実際しゃべってるのは如月なんだし。やっぱり信じてもらうのは難しいのかも。
でも、なんとかしなきゃ!
そう焦ってつい口をついて出た言葉は、さらに火に油を注ぐ結果になった。
「あたしはただ、航平くんにこの気持ちを知っててもらいたくて、ラブレター、渡したいだけで、、、」
「やめてぇ~っ!!」
絶叫したミクは、道路に落ちてたラブレターを鷲掴みにすると、ぐしゃぐしゃに握りつぶし、思いっきり川に向かって投げ捨てた。
え~~~~~!
ラブレターが~~~!!
ミク!
なんてことするのよ~~っ!!!
ぎくしゃくした足取りで、あたしは欄干に歩み寄った。
小川のせせらぎにゆっくりと流されていたラブレターは、次第に水の底に沈んで、見えなくなってしまった。
「ラブレター、が、、、、、」
なんてこと!
航平くんはあたしの話を信じてくれないし、ラブレターは水没しちゃうし、、、orz
ガックリ肩を落としたあたし@如月摩耶は、虚脱感に襲われ、糸の切れた操り人形のように、膝から崩れ落ち、意識を失った。
そのまま如月摩耶のからだから、遊離したんだろう。
あたしは再び、
いや。
前のときと、なにかが違う。
『如月摩耶』という、現実のからだに味をしめたあたしは、薄れかけてた肉体への未練と執着が、強まってしまったのだ。
肉の味が忘れられない。
からだがほしい。
人間になりたい。
生きていたい。
まるでクスリの切れた麻薬患者のように、あたしは肉体への禁断症状に苦しみ、ボロボロになって呻き、のたうち回った。
これが、如月摩耶の言ってた『人間に憑依することのリスク』なのか、、、
つづく
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