6th sense 2

 如月摩耶がラブレターを手に入れて数日。

ようやく渡すチャンスがやってきた。


部活が終わった航平くんは、今日は和馬くんとも合流せず、ひとりで帰り支度をはじめた。

これを待ってた!

こうしてひとりになる時を!!


このあと航平くんは正門を出て、途中のコンビニに寄ってお好み棒と唐揚げ棒塩味を買い、私鉄の駅から電車に乗って帰宅するはずだ。

航平くんにラブレター渡すには、正門の前で待ち伏せしてればいい!


教室で待機している如月摩耶の元に、あたしは一瞬でワープし、そのことを告げ、再び航平くんの元に戻って、彼のあとをつけた。

こういうときは霊って便利。自由に瞬間移動できるなんて。

この能力ちからは生きてるときに欲しかったなw


ところが航平くんはこの日に限って、体育館を出ると、駅とは反対方向の裏門の方に向かった。

えっ?

まずい!

とりあえず如月に、予定変更を伝えなきゃ!

それでも正門にいる如月が、航平くんに追いつくのは大変かもしれない。

今日は失敗だったかぁ。

しかし航平くんは、裏門を出てすぐの小さな橋のところまで来ると、足を止めた。

欄干らんかんにもたれかかって小川の流れを見たり、小石を拾って川に投げ込んだりして、時間を潰してる。

これならトロい如月でも、航平くんに追いつけるかもしれない!


「あ、あの… 浅井さん」


しばらくすると、裏門から如月が姿を現した。

こちらへ急ぎ足で駆け寄り、躊躇ためらいながらも航平くんに呼びかけた。

ずっと走ってきたらしく、『はぁはぁ』と肩で息をしてるし、頬がほんのりピンクに上気してる。

長い栗色の猫っ毛が、汗で額に張りついてるところが、なんだかエロっぽい。

こうして見ると、如月ってほんとにはかなげな美少女で、女のあたしでさえドキッとしちゃう。


超絶美少女にいきなり声をかけられ、驚いた航平くんは、慌てて手に持っていた小石を投げ捨てて、直立不動の姿勢をとった。


「え? な、なに? 如月さん」

「あの… お渡ししたいものがあって」

「渡したいもの?」

「ええ…」

「な、なにを?」

「実は… 酒井さんから、頼まれて…」

「酒井さんからっ?!」

「…」


目を丸くして驚いた航平くんは、穴の開くほど如月の顔を見つめ、次の言葉を待った。

なのに如月はモジモジしたまま、手紙を渡すことができない。


<ったく、なにやってんのっ?!

如月さん!

勇気出しなさいよっ!>


思わずハッパをかける。

その声にビクッとなった如月は、おずおずと後ろ手に抱えてた茶封筒を、航平くんの前に差し出し、まるで自分のラブレターを渡すかのように、はにかみながら言った。


「あの… このなかのものを、読んで下さい」

「これは、、、?」


いぶかしそうに航平くんは茶封筒を受け取り、しげしげと見つめてた。

如月はなにも言わない。


「如月さん。これ、、、 今見た方がいい?」

「い、いえ。帰ってからおひとりのときにでも、ごゆっくり…」

「そう、なんだ。じゃあ…」


航平くんは封筒をバッグにしまおうとした、、、

そのときだった。


「航平くん?!」


あたしたちの背後から、女の子の声がした。

振り向くと、そこには安藤未來が立ってて、疑惑の眼差しで航平くんと如月摩耶を交互に見てる。

もしかして、、、

航平くん、ここでミクと、待ち合わせしてたの?!


「如月さん、航平くんになんの用?

なんなの? その封筒!

いったいなにを渡したの?」


裏門から出てきたミクは、ふたりの間に割って入ると、威嚇いかくするように如月を睨んで矢継ぎ早に訊いた。勢いに呑まれた如月は、肩を震わせながら泣き出しそうな顔をしてる。


「あぁ。安藤さん。

これ、『酒井さんからの頼まれもの』だって、如月さんが」

「あずさからの?!

なんで如月さんがあずさから頼まれごとするのよ。友達でもないのに。

ちょっとそれ、見せてよ!」

「あっ。それは…」


如月が遮るよりも早く、ミクは航平くんの持ってた茶封筒を奪い取ると、無造作に手を突っ込んだ。


「うわっ!!」「きゃぁ~~~っ!!!」


航平くんとミクは、同時に叫び声を上げた。

なかから出てきたのはもちろん、ぐしゃぐしゃになった血まみれのラブレターだ。

ふたりとも顔が引きつり、目玉が飛び出しそうなくらい目を剥いた。

まるで楳図かずおの恐怖マンガみたいな顔。


「な、、、 なんなのよぉ。これ! 如月さんっ?!」


手にしていたラブレターをおぞましそうに放り出すと、恐怖に震える声でミクは如月に訊いた。


「それは… 酒井さんが、生前、書いていた、浅井さんへの、お手紙で…」

「航平くんへの手紙ぃ?

なんでそんなもの、あなたが持ってるのよ?!」

「そ、それは…」

「如月さん。これはいったいどういうことだよ?」


航平くんも如月摩耶を問い詰める。

ミクは恐怖と怒りで声を震わせ、怒鳴った。


「如月さん!

こんな酷いいたずら、やめてよね!

『あずさはまだ教室にいる』だの『席がなくて彷徨さまよってる』だの、変なことばかり言って。頭おかしいんじゃない?!

あずさをネタにしないで! わたしの親友だったのよ。

あなた、あずさに恨みでもあったの?!

なんなの? この気持ちの悪い手紙!

死んでまでこんな悪質な嫌がらせするなんて!!」

「如月さん。ちゃんと説明しろよ!」


興奮したミクは、目にいっぱい涙をためてわめき、航平くんも軽蔑に満ちた瞳で、如月のことを睨みつけた。

ふたりの迫力に気圧されて、如月はなにも言えず、オロオロと立ちすくんでるだけ。

あ~~~! もう、じれったいっ!!

ったく、見ちゃいられないんだからっ!!


「いたずらなんかじゃないわよ!

あらしからの、ほんとのラブレターなんらから!」


如月摩耶がいきなり態度を豹変させて、ふたりに喰ってかかった。


いや、違う。

これはあたしの、、、

酒井あずさの言葉だ!


つづく

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