6th sense 1
6th sense
かなりショックだった。
その夜、ミクを送った航平くんは、家に帰り着くまでずっとそわそわしてて、心なしか表情も緩んでる。
ごはんが終わって自分の部屋に入っても、しばらく机についたまま、なにかの想いに
それは、、、
以前手に入れてた、あたしとミクと萌香がスク水姿で写ってた画像。
そして航平くんは、その画像のミクの部分だけ、トリミングしてプリントアウトした。
ええっ?!
あたしのことは切り捨てちゃうわけ?
大きく引き伸されたスク水姿の
見てられない!
目を背けたあたしの目の前が、真っ暗になる。
、、、どこかへワープ、したんだ。
見覚えのある部屋。
古ぼけた障子に、板張りの天井。
黒光りした木の柱。
ここは、、、
如月摩耶の部屋だ。
その夜も、如月は下級霊たちに取り囲まれて、具合悪そうに部屋の真ん中で息をひそめてた。
足下に
<お願い如月さん。
これ以上、航平くんとミクが近づかないようにしてっ!>
「…酒井さん?」
<航平くんを取られそうなの!
これ以上、ミクと航平くんが仲良くなっていくの、あたし、見たくないっ!>
「…話して下さい。酒井さん」
如月に訊かれるまま、あたしは今までのいきさつをみんな話した。
ところどころ記憶が飛んでるけど、航平くんの普段の生活や、あたしの声を
<航平くんがあたしのこと、忘れかけてる!
一度ミクとキスしたくらいで、あの子のこと好きになっちゃったみたいで、、、
だけどあたしにはどうすることもできない。
あたしは無力なの。
姿も見えないし声も聞こえない。
航平くんはあたしの存在を薄々感じてはいるけど、その前にミクが、航平くんの気持ちを自分のものにしようとしてる。
許せない!
親友だと言いながら、あたしのこと裏切ったミクが、あたしは許せないの!
許せないっ!!>
そう叫んだ瞬間、あたしの目の前は、真っ赤に染まった。
まるで深紅のサングラスをかけてるみたいに、如月も部屋も、真っ赤に見える。
いったいなんなの?
なにも言わず、あたしの話にじっと聞き入ってた如月摩耶は、
「酒井さん…
何度も言いますけど、あなたはもう、死んでいるのです。
あなたと浅井さんとは、結ばれることはありません。絶対に。永遠に。
だからあなたには、もう、浅井さんへの未練は断ち切ってほしい。
浅井さんも、いつまでもあなたに縛られず、新しい恋をした方が、幸せになれるのではないですか?
安藤さんと浅井さんのことは、祝福してほしいのです」
<祝福なんか、できるわけないじゃないっ!>
「…」
<如月さん。あなた確か、『あたしの力になる』って言ってくれたよね?!
それって、嘘?
いい加減なこと言って、あたしを騙そうとしたのっ?!
許せないっ!!>
そう叫ぶと、再び目の前が真っ赤に染まった。
端正な如月摩耶の顔が、醜く歪んで見える。
いったいなんなの? これ。
如月は大きなため息をついて、肩を落とした。
「このままだと酒井さんは… 闇に
<え? なにそれ?>
「人を呪い、怒り、恨むことを続ければ、あなた自身が怨霊となって、この世とあの世の狭間を彷徨い続けることになる」
「それでもいいっ!」
思わず憤りながら、あたしは続けた。
<じゃああんたは、ミクに航平くんを取られるのを、黙って見てろっていうの?
そんなの、地獄に堕ちるより辛いに決まってる!
あんたには、恋する乙女の気持ちが全然わかってないっ!>
「…」
<あたしはただ、自分に正直なだけ!
あたしは航平くんに、この想いを知ってほしいだけなのっ>
「それはもう、伝わったのではないですか?」
<ミクの口からね!
そんなんじゃ、イヤっ!!
あたしは自分自身の言葉で、航平くんに愛を伝えたいの!
だけどこのままじゃ、航平くんにあたしの声は届かない。
でも、あたしラブレター書いたの!
それを航平くんに渡してくれれば、気持ちを伝えること、できるっ!>
「あのラブレターは…」
<今は持ってないけど、あたしの部屋にちゃんとあるから!
如月さんはそれを取ってきて。
そして航平くんに、『あたしから』だって言って、渡してっ!>
「それは…」
<やってくれるよね?!
如月さんはあたしの力になってくれるんだよね?!>
「あのお手紙は事故で汚れてしまって。だから渡したくないと、酒井さんが…」
<いいのっ! あの手紙はやっぱり、航平くんに渡さなきゃいけないのっ!!>
「だいいちお手紙はもう、お母さまが燃やすと…」
<なにそれ?!
いい加減なこと言わないでっ!>
「酒井さん?!」
<あたしに協力したくないからって、デタラメ言わないでよ!
あんたもミクの味方なのねっ!
ミクも萌香も、航平くんも如月も、みんなして、あたしのこと
許せない、、、
みんな大っ嫌い!!>
カッと頭に血が昇った。
如月の部屋が歪んで消えていき、目の前が真っ暗になって、ドロドロとした汚らしい感情が沸き上がってくる。
その感情はグロい塊になり、
あとからあとから、得体の知れない怪物が、塊から這い出してくる。
なんなのこれ?!
怖い!
怪物どもは舌なめずりをして、よだれを垂らしながら、あたし目がけて突き進んできた。
いやっ!
喰われるっ!!
「酒井さんっ!」
珍しく如月摩耶が大声を上げた。
その声であたしは地の底から引き戻され、怪物は姿を消した。
「わかりました!
わたしが責任持って、あなたの気持ちをお伝えします。
ラブレターも必ずお渡しします。
だから… だから!」
そこまで言うと、如月は口元を押さえて
探し物は簡単に見つかった。
ラブレターはまだ燃やされず、茶封筒に入れられたまま、あたしの机の引き出しのいちばん奥に、封印するようにしまわれてた。
どうしてすぐに場所がわかったかというと、その手紙からあたし自身の執念が発せられてたから。
おかげで、まるでGPSで誘導されるみたいに、簡単に場所がわかったのだ。人の情念のすごさに、改めてびっくり。
家の鍵の隠し場所はわかってるし、だれもいない時間帯もわかってる。
無断でうちに入ることに如月はびびってたけど、強引にハッパかけて、なんとかラブレターの入った封筒を取ってこらせることはできた。
<じゃあそれ、なるべく早く渡してちょうだい。あたし、ずっと航平くんにくっ
「…」
<ちゃんと渡してくれるんでしょ?>
「もちろんです」
<『助ける』って言ったんだから、最後までちゃんと手伝ってよね>
「はい…」
両手で封筒を抱えて、如月は浮かぬ顔で答える。
きっと彼女には、わかってたのかもしれない。
このラブレターがあとで、大変な災いを呼ぶことになると。
つづく
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