5th sense 3


「だからわたし、あずさの気持ち、痛いほどわかる。

航平くんとの恋を、なんとか叶えてやりたかった。

なのにあずさったら、気持ちを伝える前に、事故なんかで死んじゃって。

ったく、ドジなんだから、、、

あずさはきっと、あの世で後悔してると思うの」


そう言って、ミクは鼻をすすった。

涙が落ちてきそうになるのを無理にこらえながら、ミクは航平くんの顔を覗き込む。


「航平くんも、あずさのこと。好きだったんでしょ?!」

「…」

「ごめん。和馬くんから聞いたの」

「…」

「ふたり、両想いだったんだね…

ったく、もう。なんであずさが生きてるうちに、どうにかならなかったのかな~」

「どうにか、って…」

「じれったいのよね。お願いだから航平くんの気持ち、あずさに聞かせてあげて」

「…」

「きっとあずさも、喜ぶと思う」


口をつぐんだまま、航平くんはしばらく考えていたが、コクリとうなずき、ひと言だけ言った。


「好き… だった。酒井さんのこと」


ミクはポロリと涙を流し、嬉しいような悲しいような顔で、無理矢理微笑みを作った。


「嬉しい。

ありがと、航平くん。

あずさは世界でいちばん、幸せよね。

あの子はもういないけど、今の航平くんの言葉を聞かせてあげたい」


<お~~~い。

あたしはここにいるぞ~~~っ!!

今の航平くんの言葉も、しっかり聞いたぞ~~~っ!!!>


思いっきり大きな声で、あたしはふたりに向かって叫んだ。

そりゃ嬉しいよ。

航平くんから『好き』って、言葉にしてもらえるなんて。

嬉しくって、涙が出そうだよ。

ミクの言うとおり、あたしは世界でいちばん幸せ。


だけど、、、

なんか、複雑。


『航平くんとの恋を、なんとか叶えてやりたかった』だの、

『好き… だった。酒井さんのこと』だの、、、

な~んか、、、

全部、過去形。


『故人の思い出を語る』って感じなのが、気にくわない。

そりゃ、今のあたしはふたりにとってすでに過去の人で、存在してる世界が違いすぎてて、、、


やっぱりあたし、生きたかった。

生きて、航平くんに伝えたかった。

ミクがあたしの代わりに、航平くんの気持ちを聞き出してくれたのは嬉しいけど、やっぱりあたし自身の言葉で、伝えたかった。

そのために、夜なべしてラブレターだって書いたのに、、、、


「ねえ、航平くん、、、」


あたしの想いを遮るように、ミクは切り出した。


「…あずさに。キスして」


そう言ってミクは航平くんの目の前に立つと、憂いのある瞳で彼を見上げた。


えっ?

ち、ちょっとミク。

いったいどういうこと??


「あずさの想い、わたし、叶えてあげたいの。

あずさはずっと航平くんと結ばれたがってたから。

あずさの気持ちは、わたしがいちばんよく知ってる。

わたしのこと、あずさだと思って。

ねえ。

…航平くん」


そう言うとミクは航平くんの二の腕に自分の手を重ね、目を閉じると、そのふっくらとした可愛い唇をかすかに緩め、航平くんに差し出した。


ちょっとちょっとちょっと~~~!

あたしの代わりなんて、そんなの頼んでないわよ!!

あんたは安藤未來で、酒井あずさなんかじゃないでしょ!!!

騙されないで航平くんっ!!!!

ミクとキスなんか、しないでっ!!!!!


「ミ、、、 いや。あずささん、、、」


ほのかにイルミネーションを照り返した、なまめかしいミクの唇に魅入られたのか。

それともほんとに、彼女をあたしと錯覚したのか、、、

航平くんはゆっくりと、ミクに唇を近づけていった。


<やめて、航平くん~~~っ!!!>


「…」


ふたりの間に割って入って、あたしは思いっきり叫んだ。

しかし、そんな抵抗も虚しく、航平くんはミクに唇を重ねた。


「ん、んっ…」


可愛らしい声を漏らしながら、ミクは航平くんを受け入れ、その唇を貪った。


ちょっとぉ~~、ミクぅ~~!

変な声、出さないでよっ!!

あたし、まだ未経験なのに、いきなりそんな激しいキス、しないわよ~~~っ!!!


いったいどのくらい、そうしてただろ。

長いキスのあと、ようやくふたりのシルエットは、ゆっくりと離れた。


「、、、ごめん」


頬を染めながら、航平くんはうつむき、ひとこと言った。

目にいっぱいの涙を浮かべ、ミクは思いっきりかぶりを振る。


「あやまらないで。わたしは酒井あずさなんだから」

「安藤さん、、、」

「『あずさ』って呼んで」

「あ、あずさ。さん」

「ありがと、、」

「…」

「…これであずさも思い残すこと、ないと思う。

ありがと。航平くん」


照れくさそうに頬を染めながら、安藤未來は航平くんに微笑みかけた。

航平くんも清々しい笑みでミクを見つめてる。


思い残すこと、大ありだ~~~っ!


だいたいなんの権利があって、ミクがあたしの代わりを務めるのよっ。

ミクの気持ちは嬉しいけど、キスをしたのは、あくまでミクと航平くん。

あたしじゃない!


もしかしてミク。

あんたの狙いは、これだったの?!

泣かせる台詞も涙も、みんな航平くんの気を惹くため?


、、、信じられない。

親友だったのにっ!


こうなったらもっともっと念を込めて、航平くんの前に現れてやる!

なんとしてでも、ほんとの酒井あずさを見せてやるっ!!

そしてほんとに、あたしが航平くんとキスしてやるんだからっ!!!


つづく

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