5th sense 2
「来月にはレギュラー選抜試合があるんでしょ? 応援してるわ。あたしも、、、 きっとあずさも」
「ああ、ありがと、、、」
「まあな。あれだけ必死に練習してりゃ。航平も2年生にしてレギュラー当確だろ」
話の端々に、ミクはあたしの名前を織り込んで、航平くんの関心を
和馬くんも加わり、陽が沈む頃まで、三人は図書館で話し込んでた。
あたしとの修学旅行での思い出話や、中学校時代のクラスメートの話。体育祭の失敗談なんかで、会話は盛り上がっていた。
航平くんもミクの話しに引き込まれ、いつもの思い詰めたような表情が和らぎ、次第に笑顔を見せるようになってきた。
、、、面白くない。
『航平くんの顔見てたら、つい、あずさのこと、思い出しちゃって、、、』
とかうまいこと言って、ミクのやつ、航平くんの心掴んじゃって。
『酒井あずさの親友』ってポジションにかこつけて、航平くんのこと、モノにしようとしてるんじゃない?
そう言えば以前、ミクがポロッと言ったことがある。
『確かに、航平くんってクールでシャイな感じだし、バトミントンやってる姿もカッコいいよね~』って。
あたしの恋バナに妙に共感してたし、もしかして、ミクも航平くんのこと、密かに狙ってた?
会話の所々で、『やだぁ』とか言って笑いながら、ミクは航平くんの腕や肩に、ポンと軽く手を触れる。
ボディタッチはミクの得意技だ。
案の定、航平くんがミクに対して、次第に好意を持ちはじめていくのが、はたから見ててよくわかる。
<いやだ! 航平くん、あたしのことが好きなんじゃなかったの?!
ミクなんかと馴れ馴れしくしないで!!>
三人の間に入って、必死にあたしは叫んだけど、その声は誰にも届くはずがなかった。
三人が図書館をあとにした頃には、空は地平線にかすかに群青色を残すだけで、不気味な漆黒の闇があたりを覆いはじめていた。
それぞれの家の窓には、あたたかそうな明かりが灯ってるけど、現世にいないあたしには、その光は淡い蛍の光よりも儚い。
「じゃ、オレはここで。
航平。ミクちゃんのこと、よろしくな」
私鉄の駅までみんなで歩き、改札の前で和馬くんは意味深に言うと、航平くんの背中をポンと押し、パスを改札機にかざしてホームに入っていった。
残された航平くんは、隣にいるミクをちらりと見て、照れるように頭を掻きながら言う。
「じゃあ、安藤さん。もう遅いし、家まで送っていくよ」
「え? ほんとにいいの?!
わたしん
「いいよ」
「嬉しい。ありがと航平くん♪」
ポンと両手を合わせ、花の咲いたような笑顔を航平くんに向けながら、ミクは駅を出る。航平くんもそのあとをついていく。
ミクの案内で住宅街を抜け、ふたりは町外れのなだらかな坂道を登っていった。
ミクの家は、この坂道を登りつめて公園に整備された山頂を越え、そこから下っていった先の住宅街にある。
山頂の公園を通るのは、坂道だし遠回りだし、なにより暗くなると怖いので、ミクは下校のときはいつも、ふもとの住宅街を抜けて帰る。
だけど、彼氏に送ってもらうときは、散歩がてらにこの公園を通るんだって、以前ミクから聞いたことがある。
人があまり通らないし、山頂の公園からの眺めもいいので、絶好のデートコースらしいのだ。
なんだか、イヤな予感、、、
「航平くん。さっきの話だけど…」
頂き近くの公園の舗道で、ミクは突然立ち止まり、航平くんを振り向いた。
丘の下には、綺麗な夜景が広がってる。
街のイルミネーションが、宝石を散りばめたようにキラキラと瞬いてて、ムード満点。
「やっぱり、伝えといた方がいいと思うの」
「え? なにを?」
「あずさの気持ち」
「あず、、、 酒井さん?」
「ん… あずさはね」
「酒井さんは…」
「…」
「…」
「…あずさは。航平くんのこと、好きだったの」
あああああ~~~~~~~っ!!
それをミクが言う?!
あたしが自分で伝えたかったのにっっっ!!!
「…」
航平くんはなにも言わなかった。
黙ったまま、ミクの話に耳を傾けてた。
「中学3年のときから、だったかな。
あずさは同じクラスの航平くんに憧れてて。
初恋、、、
だったかもしれないね。あずさにとっては。
同じ高校に行けて、しかも1年でも2年でも同じクラスだったじゃない。
もう、『運命を感じる』って、あずさはすっごい喜んでたの。
そんなあずさを見ながら、わたしも、『いつか航平くんに、その想いが届くといいのに』って、ずっと応援してた」
「…酒井さんが、、、 初恋、、、 憧れて、、、 運命を感じるって、、、」
航平くんの目に、かすかに光るものがあった。
ミクの台詞をゆっくり、繰り返す。
その声は、心なしか震えてた。
「あずさからはね。二年以上もずっと、航平くんへの気持ちを聞かされてきたの。
この公園で、航平くんのこと話してたこともあったな。
わたしもあずさも、航平くんとはほとんど話したこともなかったのにね。
それでも話が尽きなくて、日が暮れるまでずっと恋バナしてた。
ほら。
そこのベンチとか。
そこに座って街の景色を見ながら、いろんなこと話したっけ」
このベンチ、、、
思い出した。
懐かしい。
遠い前世のことのように思える。
ミクって、そんなことも忘れないでいてくれたんだ。
『航平くんの気持ちを掴むには、待ってるだけじゃだめだよ。
あずさももっと、積極的にならなきゃ。
航平くんってちょっと奥手そうだから、あずさからアクション起こさなきゃ、いつまでたっても想いが伝わらないよ。
頑張んなよ。わたしも応援してるから!』
そう言って、ミクはあたしのこと励ましてくれた。
そのときの光景が、幻のようにあたしの目の前をよぎって、漆黒の空の向こうに消えていく。
つづく
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