4th sense 2

<ね。教えてよ!

『想いがパワーアップすれば航平くんと話せる』とかだったら、あたし頑張ってみるから!>

「それは、お薦めできません」

<え?>

「リスクが… 高すぎます」

<なんで?! どんなリスクがあるってのよ?>


問い詰めるあたしに、『ふぅ』とため息つきながらうつむいた如月は、おもむろに顔を上げると、悲しげに言った。


「確かに、想いが昂じたとき、霊でも物理的な影響を与えることができます。

しかし、そのためにはますます、現世に執着しなくてはなりません。

それは、来世に向かわなければならない霊にとっては、余計なしがらみでしかないのです。

それにその、『パワーアップした想い』というのは、得てして恨みや憎しみに転じやすいのです」

<恨みや憎しみに転じる?>

「善の感情はもろいです。だけど負の感情は、根深く、強大な力を持っています。

人は簡単に、闇に支配され、ちてしまう…

それは、霊でも同じです」

<、、、>

「酒井さん。辛いでしょうけど、過去に引きずられないで下さい。

この世とあの世の境目で苦しまないためにも、もう浅井さんのことは、諦めて下さい」

<、、、諦められるわけ、ないじゃん!!>


声を荒げて、あたしは言った。


<あんたにはなにもわかんないわよ!

あたしは2年間も、航平くんのことが好きだったんだから!

ずっとずっと航平くんのことだけ見てて、ラブレターまで書いて。航平くんの気持ちもわかってこれからってときに、住む世界が違っちゃって、、、

その辛さがあんたにわかる?!

諦めるなんて、無理!

航平くんに認めてもらうまで、あたしはなんでもするからっ!!>

「酒井さ…」


あたしを引き止めようと手を差し出した如月摩耶の姿が、ふっと消えた。

部屋もなくなって、あたしは真っ黒な空間を落ちていく。

いや、、、

彼女が消えたんじゃない。

どうやらあたしは、またテレポートしたらしい、、、




 気がつくとあたしは、教室にいた。

誰もいない仄暗ほのぐらい教室の自分の席に、あたしはポツンと座ってた。

窓の外に目をやると、血のように真っ赤な夕陽が、ビルの谷間から最後の残光を放ってる。


いけない!

もう下校の時間だ!

そろそろ航平くんも部活を終えて、家に帰る支度をはじめる頃。

早く会いにいかなきゃ!!


あたしは慌てて教室を飛び出し、階段を駆け下りると、校庭の隅の体育館に走っていった。

航平くんは、いた。

ちょうど部活を終えたらしく、体育館から出てきたとこだった。

ラケットの入った大きなスポーツバッグを肩に抱えて、同級生二人とこちらに歩いてくる。


<航平くん!>


思わず声をかけてしまった。

だけど航平くんは、同級生と話しながらあたしをスルーして、隣を通り過ぎていく。


そっか。

どんなに頑張っても、航平くんにはあたしの姿、見えないし、声も聞こえないんだ。

いったいどうしたらいいんだろ、、、

途方に暮れながら、あたしは航平くんのあとをトボトボとついて歩いた。


「腹減ったな~。コンビニ寄ってこうぜ」

「航平、おまえ今日もいつもの、アレか?」

「まあな」

「よく飽きね~よな」


そう言いながら、三人は駅の近くのコンビニに入っていく。

あたしもそのあとに続いた。


 みんな思い思いに食べ物を選ぶ。

航平くんはドリンク棚から麦茶のペットボトルを取ると、まっすぐレジに向かい、ドリンクをカウンターに置きながら、

「お好み棒と唐揚げ棒塩味下さい」

と告げた。


「航平くんはマヨネーズたっぷりだったわね。今日も部活お疲れさま」


レジのアラフォーのおばさんが、気安い感じで話しかけ、航平くんは照れ笑いした。

ふうん。

航平くんたち、常連なんだ。


コンビニの駐車場に座り込み、三人はスナック菓子やお好み棒をガツガツとむさぼった。

、、、ったく。

男子って、よくこんなところで食べられるわよね~。

それにしてもみんな、すごい食欲。

やっぱり部活帰りはおなかが空くんだろな。


「…にしてもおまえ、そろそろあんなムチャな練習やめろよ。先輩たちドン引きだぞ」


春巻きを食べてた中島和馬くんが、諭すように航平くんに言った。

その声が聞こえてないのか、航平くんはそっぽ向いたまま、お好み棒を頬張ってる。


「レギュラー決めるのはまだ先だろ。それまでに潰れっちまったら意味ないぞ?

なぁ、航平。おまえだけが辛いわけじゃねぇんだよ。

もう終わったことじゃん。早く忘れようぜ。

あずさちゃんは死んだ。

もう、いないんだ」

「…しつこく蒸し返すなよ」


苛立った口調で、航平くんは和馬くんを睨む。

隣の男子も、横から口を出してきた。


「航平。おまえの気持ち、わかるよ」

「坂本、、、」

「酒井に告るつもりだったんだろ?!」

「…」


え?

まさか、航平くんの方から告白してくれるつもりだったの!?

嬉しいっ!!

みんなの会話に、あたしも聞き耳立てる。

坂本くんは続けた。


「『2年になっても同じクラスになれた! これはもう運命だ』って、航平喜んでたもんな。

酒井って明るくて可愛いし、かなりモテるから、酒井にふさわしい男になるために、バトでレギュラーの座掴もうとしてたんだし。

それが、まさかの事故で死んじゃって、、、 もう永久に告れなくなっちゃって」

「…」


航平くんも、あたしと同じ未練を抱えてたんだ。

永久に自分の気持ちを伝えられないって、、、

ほんとに悲しいよね、、、、、、、


「だけど航平。いつまで後悔しててもしかたないじゃん。

和馬の言うとおり、どんなに悲しんだって、酒井が生き返るわけじゃないし、一刻も早く忘れて、もっと前向きに生きろよ」

「…わかってるよ!」


やりきれない怒りをぶつけるように、航平くんは食べ終わったお好み棒のカスを、荒っぽくゴミ箱へ投げ込む。


「いちいちダメ押しみたいに言うなよ。オレだって頑張ってんだよ!」


そう言って、グビグビと麦茶をのどの奥に流し込むと、航平くんは空になったペットボトルを、グシャリと握りつぶした。


「おまえらの言うことはわかるよ。オレだって、早く忘れた方がいいと思ってる。

もう少し、時間くれよ」


え?

忘れるって、、、

あたしのことを?!


やだ、、、

そんなのイヤ!!

航平くんだけには、あたしのこと、いつまでも覚えておいてほしいのにっ!!!


つづく

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