3rd sense 1

“PPPP… PPPP… PPPP… PP”


目覚ましの音で、あたしはベッドから起き上がった。

頭がモヤモヤする。

気分が冴えない。

ずっと、悪い夢を見ていた気がする。


もう朝かぁ。

いつもと同じ、平凡な一日のはじまり。

夕べは遅くまで手紙書いてたから、眠くって眠くって、頭がフラフラしてる。

でも、、、


今日こそ航平くんにラブレター渡すんだから!

あたしの想い、打ち明けるんだから!!


制服の内ポケットに入ったラブレターに手を当て、あたしは家を飛び出した。

街の景色が流れてく。

瞬く間にあたしは学校に着き、教室に入ると自分の机についた。


だけど、あたしの机の上にはなぜか花瓶が置いてあって、花が飾られてる。

なに?

この花。

なんかあたし、死んだ人みたい。

こんな冗談、やめてよね。


 一日の授業はあっという間に終わり、気がつくと放課後。あたしは体育館にいた。

航平くんがラケットを持って、ネットの向こうの3年生とバトミントンをやってる。

一心不乱に休むことなく、ひたすらシャトルコックを追いかけてる。

汗がユニフォームの背中をぐっしょりと濡らし、ラケットを力一杯ふるたびに、額を伝って床にほどばしる。


「おい浅井。いい加減にしろよ。そんなにムキになって練習することないぞ!」


相手をしてた三年生は、航平くんの打ったシャトルに追いつけず、ラケットを杖代わりにしてしゃがみこんだ。


「もう、もう少し、お願いします!」


肩で息をきらしながらも、航平くんはシャトルを握りしめる。

ヨロヨロと立ち上がった三年生は、航平くんと激しいラリーを続けた。


航平くん、、、

すごい練習熱心。

レギュラー目指して頑張ってるのかな。

あたしにもなにかしてあげられること、ないかな。


そう思いながら、あたしは航平くんのスポーツバッグからはみ出してたタオルを手に伸ばした。

だけど、あたしが手にする前に、コートから戻ってきた航平くんはタオルを掴み、勢いよく腰を下ろすと、ゴシゴシと顔を拭いた。


「航平。よくないぞ」


同級生で同じクラブの中島和馬くんが、休憩してる航平くんを見て、話しかけてきた。

親友ってほどじゃなさそうけど、和馬くんはちょくちょく航平くんに絡んでるのを見たことある。

そっけなくて無愛想な航平くんとは違って、和馬くんはだれにでも気安い。

しかも気配り系男子だし、ちょっとエッチなとこはあるけど、結構イケメンで背も高く、女子からの人気は航平くん以上。

あたしも何度か話しかけられたけど、特別意識はしてないかな。

あたしはずっと、航平くんラブだし。。。


隣に腰を下ろして、和馬くんは心配そうに航平くんの顔色をうかがう。

航平くんは視線をそらして応えた。


「なにがだよ」

「あんな無茶な練習してると、怪我するぞ」

「心配いらねぇよ」

「まあ、忘れたいのはわかるけど」

「?」

「酒井のこと。ショックだよな」

「…」

「今日の3時から葬式だったろ。もう焼かれちまった頃だろな。もったいないよなぁ。明るくてかわいくてちょっと気が強いとこなんか、オレ結構気に入ってたのに」


え?

あたしの葬式って、、、?!

そういえば、、、 あたし。

死んだんだっけ?

それもなんだか、夢のなかでのできごとみたい。

記憶がはっきりしない。


「…もういい。放っとけよ!」


吐き捨てるように言うと、航平くんはタオルを首に巻いて素早く立ち上がり、足早に部室に戻っていった。

あとを追うように、あたしもバトミントン部室に入っていく。

航平くんは片隅の椅子に座り、バッグから写真を取り出して眺めていた。

なんの写真?

隣に立って、わたしものぞきこむ。

え?

これって、あたしの写真!

写真のなかのあたしを見つめながら、航平くんは目にいっぱいの涙を溜めていた。


、、、そうだった。

航平くん。

あたしのこと、好きだったんだ。

あたしと航平くん。

両想いだったんだ。

どうしてこんな大事なこと、忘れてたんだろ?


もっと早く、あたしに告白する勇気があれば、今頃は航平くんとラブラブでいれたのに。

あたしは制服の胸のあたりに、そっと手を置いた。

昨日、夜更かしして書いたラブレター。

内ポケットにちゃんとしまってある。

今日こそは絶対渡そう!


 それからも、航平くんの行くあとを、あたしはずっとついて回った。

彼のすることを、全部見ていた。

下校途中で本屋に寄って、バトミントンの雑誌やコミック雑誌を立ち読みするとことか。

家に帰るなり、制服も着替えずに冷蔵庫開けて、腰に手を当てたベタなポーズで、牛乳をグビグビ飲んでるとことか。

自分の部屋でヘッドフォンをかけながら、ラケットの手入れや机の整理整頓をしてるとことか。

さすがに裸になってお風呂に入ってる姿は、ドキマギしすぎて直視できなかったけど。


、、、航平くんの胸板って、意外と厚みがある。

こんなに細いからだが、バネのようにシナって、目にも止まらないスピードでラケットを振り抜き、すごい速さでシャトルコックを飛ばすんだ。

バトミントンをやってるときの航平くんは、ほんとにかっこいい。

これからいつでも、彼がバトミントンやってる姿を見れるんだ。

あたしにはもう、勉強もないし、家の手伝いもない。

塾にも行かなくていいし、他になんにもすることがない。

毎日好きなことを、、、

航平くんを追っかけてればいい。

それはそれで、結構幸せかも。


だけど、、、

どんなにいっしょにいても、心を通い合わせることはできない。

話しをすることも、触れ合うこともできない。


辛い。


航平くんは時々、あたしの写真を眺めては、悲しみにくれてる。

ガムシャラにバトミントンの練習に励んでるのも、その悲しみを紛らすため。

人前では決して弱音を吐いたりせずに、突っ張ってるのに、ひとりになるとこっそり、泣いてるときがある。


こんなに近くにいるのに。

いつだって側にいるのに。


どうしても航平くんに、それが伝わらない。

それがもどかしい。

なんとかして、航平くんと話しをしたい。

この想いを伝えたい。

ラブレター、なんとかして渡さなきゃ!


つづく

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