おもいで

 人は忘れゆく生き物だと思う。

 すれ違った人のことを、そのときは覚えていてもその日の夜中には忘れている。昨日の朝食、一昨日の昼食、そして先一昨日の夕食でさえも、今日になれば忘れている。

 だから噂は75日なんて言葉があるし、人は写真を撮り日記を書き日々の出来事を記録するのだと私は思う。

 私があの人のことを忘れられないのは、きっとまだちゃんとときが経っていないからで、ちゃんと整理ができていないからだ。あの人が他の人と一夜を共にしようと、他の人に愛を囁やこうと、関係ない。私の整理ができていないからこんな気持ちになるのだ。

 あの人が愛を囁き、愛し合う相手に殺したいほどの憎しみを覚えようとも、あの人を取り戻したくて身を割かれそうな思いになろうとも、関係ない。

 あの人には関係ない。そう。あの人はわからないし、気づかないし、そんなひとだから。

 こちらが気づき、気遣い、堪えてやるしかないのだ。

 彼に妻子がいて、妻子もそう思ってそう行動していることを誰もが皆、知っているのだから。

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