チーズ

いつもあなたはチーズを食べていた。そこが会社の会議室でも、汚らしい地下のバーでも、いつだってそう。ずっと食べていた。


そこがベットの上で、別れ話をしている今でさえ、シャンペン片手にスモークチーズ。


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」

『聞いてるよ』

「じゃあ、チーズ食べるのもシャンペン飲むのもやめてよ」

『文句言うなら別れ話なんかやめろよ』


いつもこの繰り返し。それで諦めて、私はいつだって静かに服を着て部屋を出て声を殺して泣いた。


「チーズと私、どっちが好き?」


なんて酔っ払って聞いたら


『チーズ。』


と真顔で即答されたときは流石に飲んでいた酒をすべてかけて一人で帰った。


「もう別れてほしい」

『…』

「部屋は出ていきます、家具はあなたに任せる」

『…』


彼は何も言わずにチーズを齧った。

もうこの姿を見ることもない。何も言わないのは了承の証。いつもそうだった。

noはいうのにyesはいわない。

知っていた。ただ私が縋っていた。

もうそれは、終わりにする。

私は静かに部屋を出た。

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