廃墟マンションにラブロマンスを

誤算

その日は自宅アパートへ帰った。

しばらく郵便受けを整理してなかったから、酷い事になっていた。

アパートは悪友達のたまり場になっていたのか、空気が動いていない部屋特有のほこりの溜まり方はしていなかった。

次の日、朝一番で図書館で過去の新聞を調べよう。ネットでもある程度は調べるが、ＰＣの光回線の契約は、もう卒業して引っ越すので終っているし、スマホは長い事使っていなかったから放電し、充電に時間がかかるのだ、まあ親から「たまには連絡しろ！」という苦情メールはたくさんあるだろうな。急いでネットで調べものをしようとしたらネカフェへ行かねばならなかったが「明日の朝で良いだろう」とその時は楽観していたのだ。

次の日の朝一番で図書館へ行き、2011年当時のニュースを調べた。作業は難航した。ほとんどのニュースが震災関係のニュースに埋もれていたのだ。

「どうにもならないな」と充電が終わったばかりのスマホでなんとなく「中島日向 ストーカー 殺人事件」で検索した。

『３月１７日昼頃、中島日向さんがストーカーに殺害される！？２３日じゃなかったのか！？』俺は唖然とした。

『部屋を盗聴していたストーカーは中島さんに交際相手が出来た事を会話内容で知る。そして口論の末自宅マンションの部屋で中島さんを刺殺…』

『ストーカーの職業は不動産賃貸業…中島さんの住んでいた賃貸マンションの管理人！？』

全てが繋がった。

５階に日向さんしか住んでいなかったのも

５０４号室に住んでいた男が荷物を残して謎の失踪をしたのも

大家が日向さんの隣の５０２号室と５０４号室だけは絶対に勧めなかったのも

大家に立川競輪場で会ったあとに、謎のタレコミが日向さんの父親にあったのも

偶然じゃなかったんだ、何で気付かなかったんだろう？

…待てよ？日向さんのお父さんが「いざという時はこの人を頼るように」と言ってた人が…大家だ！最悪だ…あらゆるケースを想定したはずなのに、結果的に最悪のケースになっている。

何で気付かなかったんだ、悪友が言っていたじゃないか！『普通事故物件だけは貸し出さない』って！何で全体が廃墟化したのか？決まってる、『管理者が刑務所に入って、管理されなくなったから』だ！よく考えたら、人が死んだくらいでマンションが廃墟化するわけないじゃないか！

昨日戻ってきた時、マンションが廃墟のままだったから安心したんだ、「もう一回、過去に戻れる。もう一回日向さんに会える」って。

何で廃墟化の未来が変わっていなかったのか、疑問に思わなかったんだろう？「廃墟化している」という事が、日向さんの死を意味してたというのに…。

詳しい時間は書いてないからわからない。『昼頃日向さんを殺した』と大家は供述したんだ。本当の事を言っているかはわからない。でもそれを今は信じるしかない。今は９時４５分、おそらく加害者の認識でも朝だ。

加害者の認識で「昼」といったらいつくらいだろう？

１０時３０分以降じゃないだろうか？いや、これは俺の認識であって、加害者の認識ではないが。

だが今は自分の感覚を信じてあと４５分以内に日向さんを救出しなきゃいけない。

駅の向こうのマンションまで歩いたら間に合わない。

自転車を取りにアパートまで帰ったら余計遅くなるな。

図書館に置いてある自転車をパクろうか？…いや、万が一に持ち主や警察と揉めるかもしれない。そうなればアウトだ。

「全速力で走るしかないか…」

俺はマンションへ走り始めた。