告白

日向さんが歩きにくい恰好をしていたら八王子、歩きやすい恰好をしていたら高尾山に行こうとは思ってたんだ。

ジーンズとスニーカーを履いているのを見た途端に「あ、これは高尾山だ」と思ったね。

ハッキリ言ってホッとした。最初からショッピングはハードルが高すぎるし、ネットで下調べしようにも、6年前と今では開いてる店も流行りも違うから調べようがないし。


高尾山なら何回も登ってるし、猿園には猿がいる…動物嫌いな女の子はいないだろ?

完璧だ…完璧すぎる…と思ったら、京王線の高尾山口駅、ボロいじゃん!俺が知ってる高尾と違う!

「確か、もうすぐ駅が建て替えされるんですよね、高尾山口駅って」日向さんが言う。

そうか、2011年にはまだ、建て替えされてなかったのか。

慌てるな、これはラッキーだったと思わないと。八王子に行ったらジェネレーションギャップ全開だったんだ。

「映画はアバター以来見てない。」って別に映画嫌いじゃなくて最近アバターがやってたんだ、何やってんだよ!未来から来たなら流行った面白い映画、調べ放題じゃねーか!

いかん、いかん後悔は後でも出来る。今はデートに専念しないと。それにモテるヤツが「映画に行くのは、ある程度親密になってから。なる前に行っても、手も握れない状態で、しゃべれずに画面に集中してるだけだ」って言ってたじゃん!高尾で正解なんだよ!山ガールって言うじゃん?当時から言われてたよね山ガールって…最近では聞かないけど。

「会津磐梯山?登った事ないですけど…」

はい、地元の日本百名山に選ばれてる山に登ってない山ガールなんていないよね。

「山、好きなんですか?」日向さんは尋ねた。

「いや、高尾山以外の山は知らないんだけど、高尾山には何回も来てるんだよね。それにね…」

「それに?」

「帰りに食べるとろろそばがまた最高なんだ!」

「それは楽しみです!私、お蕎麦って大好きで…きゃっ!」

山路を別の事を気にしながら歩いてたせいだろうか、日向さんがコケた。

転んだ日向さんを支えようとして手を伸ばし、思わず俺たちは手をつないだ。

「すいません、助けられちゃいましたね。ありがとうございます!転ばないように手をつないでいてもらってもいいですか?」日向さんは言った。


いくら鈍感な俺でも好意に気付く。だって帰りの電車で座ってる時だって、手をつないでたんだから。


中央線を降りてマンションを目指し、歩いている間も手はつないだままだった。503号室の前で別れる時、日向さんは

「今日は一日ありがとうございました。それでは明日バイト先で…」

と言ったが俺は「おやすみなさい」の一言を言わせず勢いで口を開いた。

「初めてみた時から一目ぼれだったんだ。俺と付き合ってくれない?」

ダメかもしれない、でも今ダメだったらずっとダメだ。時間をかければ告白成功の可能性は上がるかもしれない。でも日向さんが死ぬまで一か月を切ってる今、一刻の猶予もない、付き合うのが一日遅れるたびに日向さんが生き残るチャンスが減っているんだ。

「私は好きでもない人と手をつないだりしません。これからもお願いします」と日向さんは言いながら、俺の手に自分の手を重ねた。



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