中華料理屋
「あ、山中さんどうかしたんですか?」
日向さんが応対する。
しまった、インターホンを押したは良いけど、ノープランだった。
どうしようか悩んでいると、お腹がグーっと鳴った。そういえば朝早くに起きて図書館行ったんだけど、何もお腹に入れてないまま、もうすぐお昼だった。
「お昼ごはん一緒に食べに行かない?おごるからさ」
ここで断られてしまえば全てが終わる、と覚悟を決めて言った言葉であったが日向さんは拍子抜けするほど簡単に「良いですよ、ちょっと準備してきますね」と部屋の中に入っていった。
もしかしてこれが俺にとっての初デートじゃないか!?
急に緊張してきた…しっかりしろ、俺の目標は日向さんとの交際と両親への挨拶だぞ!こんな事軽くこなせなくてどうする?
しばらく待っていると、おめかしした日向さんが戻ってきた。
おめかしした日向さんを見て「どこへ行くつもりなんだろう?財布の中身大丈夫かな?足りるかな?」と一瞬思ったけど、挙動不審なのが一番ダメだと堂々とする事にした。まあ堂々としようとした姿が挙動不審だったのだが。
「ここに引っ越してきたばっかりでよくわからないからオススメの食べ物屋さんとかあったら教えてもらえたらうれしいなあ」嘘も方便だ、ここらへんに4年近く住んでいるからここら辺の事を知りつくしている。今から6年前だから多少は変化しているが、俺がこの町に住みだした4年前とは大した違いはないし、オススメの店は潰れず今でも残っている。(女の子のオススメの店っていったら、野郎のオススメとは違うかも知れないしな)
「そういう事なら任せてください!」と日向さんはエスコートしながらどんどん進む。
よく考えたらタイムスリップした後、町中歩くの初めてだな。潰れた店がきれいになって復活してるのって不思議な感じだな。
と思ってると見覚えがある店に日向さんが入っていった。
何で俺のバイト先の中華料理屋に日向さんが入っていくんだ?
「ここ私のバイト先なんです!ね、店長!」日向さんはイタズラっぽく笑った。
「私のバイト先っていうのもあるんですけど、本当に美味しいんですよ?」
良く存じていますとも。ここのまかないは俺の体の肉のほとんどなんだから。
そうか、日向さんが生きていたら日向さんは俺のバイトの先輩だったんだ。
忘れてたけど、日向さんって俺より2歳年上なんだっけ。それを思うと「日向ちゃん」とは言えないよな。しっかし店長6年前から変わらないなー、このダンディな顔と声でバイトに泣きつくんだよ、そりゃ断れないわ。
あ、そうだ。「このお店、一か月間の短期バイト雇ってないですか?中華料理屋でバイトした事ならあります!」店長は少し悩んだ後、OKを出した。本当に人手不足だったんだろうな。人手が足りるようになったら日向さんが実家に帰ってしまうかもしれないけど、そうなる前に辞めるし俺が入った事で新しい人募集するのやめるだろうし、そうしたら日向さん実家へ帰らずバイトするしかないだろう。それにカップルになるまでに一週間しかないんだから、もっと親密にならなくちゃいけないんだったらバイト先も一緒の方が良いでしょ?まあ先週、餞別としてビジネス用の靴下もらって、「4年間お世話になりました」ってお別れの挨拶をしたばかりのところでまたバイトするのは変な気持ちだけど。
「いきなり裏メニュー注文した時はビックリしましたけど美味しかったでしょ?」
日向さんは心なしか胸を張りながら自慢げに言った。
だって知らなかったんだもん、6年前はまだスープチャーハンが裏メニューだったなんて。
「それじゃあ明日から先輩、よろしくお願いします」俺はわざとらしく日向さんに頭を下げた。日向さんは一瞬くすぐったそうにしたが「うむ、ビシビシいくからそのつもりでいるように、後輩よ」と言ったので、2人で顔を見合わせて笑った。
それから他愛のない話をしながらマンションへ帰ったが
「何で大学卒業する人がわざわざ卒業寸前に大学のそばに引っ越してきたんですか?」という質問にはドッキリした。
「大学の近くで就職先を見つけたから、近くに住むとこ探してた」と言うと納得してくれたようだったが。
「帰りはエレベーター使うんですか?やっぱり階段を歩いて降りるのって健康のためですよね?」日向さんはエレベーターの前でそう言った。しまった、つい癖で階段を降りてしまったようだ。
「ツレがいる時はエレベーターを使いますよ。普段は健康のために階段で昇り降りしてますけどね。つい無意識に階段を降りてしまっていたみたいです、ごめんなさい」俺は頭を下げた。
日向さんにとくに気にした様子はなかったけど、気を付けなきゃいけないな、特に気にせず変な事やっちゃってるんだな。
エレベーターを降り、その日は何事もなく部屋の前で日向さんと別れた。
明日から日向さんと一緒にバイトか、などと思うと顔がだらしなくニヤつくが男ならしょうがないよね?
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